余命

朝から5000歩も歩くと腹が減る。

今日の朝ご飯は、うどんと餃子を湯がして大根おろしと酢醤油で食べる。

「うま~!! しょうじき言って、こんなに食べられるようになるなんて思わなかった。もう余命は無いと思ってたのに。」

ときよみさんが言う。


「しょうじき言うと、俺ももう駄目だと思っていたよ。きよみさんは腹膜播種という状態だからね。腹水もかなり有って・・その場合は余命3ヶ月が普通だから。でもね・・医者は余命を言わなかっただろ、それは治療法が残っているからなんだ。済生会病院に出張で来ていた大学の教授が、医大病院に来るように言ってくれた。医大でやっている 腹腔内に高濃度の抗がん剤を入れるという荒治療が、きよみさんには合っていたんだろうな。」


「じゃあ・・2年とか3年ぐらいは生きられる?」


「たぶんね・・でも、平均的なデータは有っても・・・例えばクラスの平均点が50点でも0点の子もいれば90点の子もいるいだろう。平均余命が1年だとしても1ヶ月で亡くなる人もいるし5年以上生きる人もいるんだ。・・て言うか・・もしこの調子できよみさんが5年生きられたら、行きたいところにも行けるし、食いたいものも食えるし・・まだまだ楽しめるだろう。今ぐらい歩けるなら山にも行けるよ。そう考えたら幸運だったよ。」


「山に行きたいな~・・もっと歩いて体力を取り戻さなくっちゃね。」


「うん、楽しめる時に楽しむ。食える時に食う。行ける時に行く。先の事は解らないからな。いや、病気じゃあ無くてもさあ・・人は年を取って体力がなくなって最後は死ぬから、みんな同じだよ。」


とはいうものの きよみさんの胃と腸が完全にやられてカロリーが取れなくなれば余命は無い。

抗がん剤がいつまで守ってくれるのか・・

先の事は解らない・・




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る