第5話

 取りあえず、使ってみようということになった。


「じゃ、田中さん、よろしく」

「と言っても、スキルってどうやって使うんだ?」

「なんていうか、こう、『使うぞー!』って」

「なるほど? 分からないけど、よし、『パソコン使うぞー!』」

「あ、口に出して言う必要はないと思う」


 先に言おうよそういうことは。しかし一応効果はあった。

 目の前にパソコンが現れた。メタリックな銀色の、割とありふれた感じのA4サイズのノートパソコンだった。


「……出たわね」

「出たね。開いて……おお、窓の絵もそのままに」

「……でも、開いた画面真っ青で何もないわね。真ん中に窓の絵はあるけど」

「デスクトップはゴミ箱アイコンだけかぁ……ソフトは何が――うーん、空っぽだね。ブラウザは一応ある、ネットは……おお、普通に繋がるね。なるほどこれが『(通信可)』。えっ、ちょ、待って、僕の各種ID有効なんだけど、ちょっと待って向こう向いてて僕のお気に入りがそのままになってるからこればっかりはちょっt――」

「わー、趣味人……」

「やめてごめんみないでたのむ!!!」


 後ろを向いて貰えた。大分笑われたけど。笑われたのはアレでコレなお気に入り先の数々ではないと思いたい。……――思いたい切実に。色々性癖がバレたよ!!!!!


 とりあえずヤバそうなものは全部まとめて新規フォルダを作ってその中にぶち込んだ。ついでにこっそり色んなサイトも回ってみる。ホントにあちこちのIDが生きてるな。あ、某電気屋さんの通販サイトのも生きてる。ここ送料無料が便利で良く使ってたんだよな~、……あれ? いつの間にサイトで電子マネーが使えるようになったんだ? えっと残高……あ、まだちょっとだけ残ってるな?


「終わった?」

「あ、もうちょっとだけ待って」


 そこら辺の確認は取りあえず後回しにしよう。うん。

 さくさくと必要ないページは閉じる。よし、すっきり。偽装OK。

 「どうぞ」と言うと四宮さんが振り返る。……菩薩の様な笑みがなんとも言えない。普通に笑って良いと思うよ。

 繋がったネットは、ごくごく普通だ。ニュースも見れるし、青い鳥のサイトも繋がっている。……あれでも、こっちのIDは消えている……? なんで? 登録の画面は………………開けない??? 一応、人の投稿は見れるけど、フォロワー……のIDなんて一々覚えてないんだよなぁ。っていうかその辺の記憶は曖昧だ。


「ニュースで突然死亡とかのヤツ見たら私達のこと載ってたりするかな」

「無理じゃないかな。事件性がなければ、わざわざニュースにはならないよ」

「それもそうか」


 取りあえず、システムもざっと確認してみる。……性能はミドルクラスくらい? これまんま僕が使ってたPCだな。画面がタッチパネルなのもそのままだ。通信速度は、動画を見てもそこまで画質も悪くない。OSに付いてくる付属のソフトとかは普通に使えるみたいだ。メモ帳とか電卓とか。

 表計算ソフトとかワープロソフトとかは無料で使えるのがあるし、取りあえず必要になったらそれをダウンロードしよう。アップデートは……なし。

 ふと思いついて登録してあるメールアドレスなんかを探ってみたが、どれもこれもIDは消えていたし、記憶の中からも消えていた。なんだろう、あちらと情報のやりとりが出来るものが消えている……?


「……ネットで色んな知識的なものを調べる、は出来そうね。向こう側への情報の発信はちょっと難しそうだけど」

「一応チートっぽい力ではあるね」

「とは言え、別に火薬もない世界ってわけじゃないし、魔法が結構便利に発達はしてるし、料理もそこそこ美味しいし、遊戯関係は戦争中の今そんなものに手を出してる余裕はないだろうし、どこまで活用できるかは分からないかも。魔法があるからそもそも色んなものの仕組みが向こうと違うし」


 それに下手な知識を流すと面倒なことになりそう。と小さく呟く声を聞きながら、パソコン画面をぱたんと閉じた。

 なんだろう、気のせいか四宮さんはこの手の異世界召喚やらにお詳しい人なんだろうか?

 閉じたパソコンに「消えろ」と念じるとあっさり消えた。不安になったからもう一度出してみて、また消した。問題なさそうだ。


「魔王討伐には使えないかなぁ」

「紙も何も使わずに状況なんかをメモっておけるだけでも割と強いけどね」


 この世界は紙が高いらしい。……どうして四宮さんはそんなに色々知っているのか。

 尋ねたらびっくりされた。逆に『どうして知らないの?』って顔だった。


「えっ、だって知識の引継ぎ受けたでしょ……まさかそれさえしてないの。テスラ……何やってるのよ……」

「レスタを頼むとしか言われてないね」

「そうかぁ……そんなに妹が大事かぁ……いやそれはそれで美談だけど困るなぁ……まぁでも最低限言語は継承されてるし、されてないものを今嘆いたってされるわけじゃないものね。大変かもしれないけど、ガンバ、田中さん!」

「ぼちぼち頑張るよ。ところで結界、このままにしてて大丈夫なの?」

「そうね、そろそろ解除しないとダメかも。それじゃ最後に」


 そう言うと、今後は「田中」「四宮」ではなく、「テスラ」「レスタ」と呼び合おうと告げられた。元の名前は音が特殊で、こちらの人には奇妙な音に聞こえるため目立つのだそうだ。

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