母を重ねる

道楽byまちゃかり

仕事がダメだった人のとある1日

 その日は雲一つ無い晴天であった。小鳥は囀り、子供達の笑い声が聞こえてくる公園で僕はベンチに座っていた。平日の真昼間に。


 新卒で入った職場に馴染めず、上司に泣きながら懇願して休みにしてもらっている。馴染めなかった理由。人間関係もあるが、一定の速度で精神を削っていく騒音や、食欲を奪うようなシンナーのような匂い、職場の環境もミスマッチだった。ものの一週間で不眠や食欲不振になってしまった。


 おそらく、このあと僕は退職を選択するだろう。新卒カードをドブに捨てる事になるが、このままいても精神疾患になるだけだ。


 そう考えながら僕は転職サイトを漁りつつ、公園のベンチに座っている。遠くでは子供が滑り台で遊んでいた。


 子供。一時期は可愛いし欲しいなって考えたこともあるが、今は叶いそうにもない。相手も居ないし、仕事もさっき語った通りだから。


 しばらく子供を眺めていると、石に躓いたのか盛大に顔から転んだ。すぐに泣き出した。すると子供の母親と思われる人がすぐに駆け寄ってきて、怪我の処置を始めた。


 母さんも昔はそうだったのだろうか。いや、多分そうだったのだろう。僕がまだ幼稚園児だった頃、確か似たようなシチュエーションがあった事を覚えている。母さんは泣きそうな表情をしていた。あの母親と母さんが重なって見えた。


 やっぱり母親は子供が大好きなのだろうか。そんな月並みな感想を胸にしまい、僕は再び転職サイトを開いた。









 

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