第26話 天使
「いらっしゃいませー!」
俺たちは宿を出て服屋に来た。理由は勿論メルの服を買うためだ。
「どうだメル?何か欲しい服はあるか?」
「私は...今の服が良い」
「うーん...ずっとそのままってのもありだし、寝間着を一着俺が選んで良いか?」
「そーたが?...うん、お願い」
本人からの許可も取れたので、良い感じの寝間着を探す。
「これなんてどうだ?」
俺はメルに一着のワンピースを見せる。それは純白のフリルがあしらわれ、胸元にリボンがあるアリスの様な服だ。
「こんな可愛いの、私には合わない...」
「絶対似合うって、1回試着してみよ!」
「そーたがそこまで言うなら...分かった」
「よし決まりだ。すみません、試着室を使っても良いですか?」
俺は近くの店員に尋ねる。
「はい、大丈夫ですよー...そちらの子ですか?」
「そうですけど...あっ」
そこで俺は気付いた。メルは服こそ多少まともになったものの、髪はボサボサで、全身に汚れや傷も多い。特に風呂に入れたりして無いからな。そりゃ怪しまれるよな。そう思っていると、店員が口を開く。
「あー...もし宜しければ、髪や体を洗ったり、軽い傷を治したりしましょうか?勿論別料金ですけど...」
「良いんですか?ならお願いします。ちなみに
幾ら位ですか?」
「そうですね...傷の治療にポーションを使いますのでお洋服を含めて銀貨3枚ほどになってしまいますが...」
「では、それでお願いします」
「ゆーた!?」
すると突然、傍で聞いていたメルが驚いた様な声を出す。
「どうした?」
「銀貨3枚って、そんなにお金使って平気なの?水で体を洗えば済むし、傷もそのうち治るよ!」
珍しく大きい声を出すメルに少し驚きながらも答える。
「まぁ、こういう所でやって貰った方が良いだろうし、傷も早く治すに越したことはないだろ?」
「それはそうだろうけど...私、ゆーたに何も返せ無いよ?」
あぁ、そうか。それを気にしてたのか。本当に良い子だな。
「別に、俺はメルと一緒に居るだけで楽しいし、一緒に生きて、積み上げようって決めただろ?それでも何か返したいっていうなら、これからも俺の傍で、少しずつで良いから返してくれ」
「ゆーた...うん、私ずっとゆーたと一緒に居る!恩を返したいし、何より私がそうしたいからっ」
そう言ってメルは微笑みかけてくる。すると気まずそうな店員の声が聞こえてくる。
「えーと...」
「あ、すみません。それではこの子をお願い
します」
俺は店員に服と銀貨を3枚渡す。メルは店員に連れられ、カウンターの奥の部屋に入っていく。それから暫く異世界の服を見ていると、メル達が入って言った扉が開き、中からメルが出てくる。
「グフッ」
「そーた!?」
元々ボサボサで一切手入れのされていなかった髪は綺麗に肩先まで伸ばされ、汚れが無くなり心無しか少し灰色っぽくなった灰汁色...亜麻色?とでもいうのだろうか?は、光を反射して輝いている。汚れや傷の無くなった綺麗な白い肌と服も相まって天使みたいだ。
「天使みたいだ」
「てっ!?あ、ありがとう...嬉しい」
吐血しながらの賛美に、メルは顔を真っ赤にして小声で返す。控えめに言って可愛すぎる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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