第44話 問題令嬢その2
公爵令嬢がジョルダリを出国したのは、侯爵令嬢の二日後だと聞いていた。
そのため、侯爵令嬢が屋敷に来た二日後には王都に着くと思っていた。
だが、三日たっても公爵令嬢が王都に着いたという知らせは来ず、
いったいどうしたのかとライオネル様と首をかしげていた。
「もしかしたら、途中で貴族家に世話になっているのかもしれない」
「貴族家に?」
「ああ。ルミリアはビオシュ公爵やアランには内緒で来ていると思う。
もともと二人はルミリアをいさめていたからね」
「あぁ、そうよね。公爵令息とは仲が悪いのよね」
「そう。クラリティ王国に行くって言ったら止めただろう。
ブランカは親も同じ考えだからいくらでも金を使える。
途中は宿に泊って移動して来たんだろうけど、
公爵家の金を使えないルミリアはそういうわけにはいかない。
途中の領地の貴族家の屋敷に泊めてもらっていたんだろう」
「じゃあ、いつ来るかわからないってこと?」
「急いでこっちに来ようとしているだろうから、
そこまでは遅くないと思うけどね。
まぁ、こちらはいつも通りの生活をして待つしかないね」
「それはそうね」
ライオネル様を狙って令嬢が来るとしても、
私たちがそれに振り回されてしまうのは嫌だ。
あまり気にしすぎないことにして、
私たちはいつも通りの生活を楽しむことにした。
そして、ブランカ様が王都に来てから四日後の昼休み。
学園のカフェテリアの個室でライオネル様とジニーと食事をしていた。
トントンとノックする音が聞こえ、ジニーがドア越しに相手を確認する。
「何用だ?」
「申し訳ありません。
学園長の伝言をお伝えしにまいりました。
私は事務のルベラと申します」
「わかりました。開けます」
ライオネル様がうなずくのを確認して、ジニーがドアを開ける。
そこには小柄な女性の事務員が立っていた。
学園長室でお茶を出してくれたので見覚えがある。
「学園長からの伝言?」
「はい。ジョルダリ国のビオシュ公爵令嬢から、
学園を見学したいと連絡があったそうです。
それも、留学することを前提とした見学だそうで、
学園長に面会を申し込まれています」
「なんだと?」
「学園に留学?」
まさか留学希望で学園に来るとは思っていなかった。
ライオネル様も驚いたようで、少し考えている。
「……面会希望はいつだ?」
「明日だそうです。
明日の昼前には王都に入るので、午後に面会したいと」
「わかった。学園長には対応を考えるので、
後でまた連絡すると伝えてほしい」
「わかりました」
ルベラはペコリを頭を下げると、個室から出て行った。
「留学って、そんなことできるの?」
「簡単にはできない。
ジョルダリ国の許可と、クラリティ王国の許可、両方いるからね」
「そうよね」
ライオネル様が留学してきたのは仮婚約の視察のためだった。
国の政策を変える重要な役割があったから、許可されたはず。
公爵令嬢はどんな理由で留学しようとしているんだろう。
「だけど、許可はともかく、申請すること自体は止められない。
留学希望だと言って面会を申し込むことはおかしくない。
きちんと連絡をしてから来るみたいだし」
「突然屋敷に来たブランカ様よりは常識があるのかな」
「……ルミリアの性格も似たようなものだと思ったんだが、
誰か助言するものがついてきているのかもしれないな」
「助言する人……それで、どうするの?」
「俺に会いに来たわけじゃないし、俺が拒否するわけにはいかない。
留学も学園長に面会したところで許可は下りないと思う。
だけど、気になるな……」
確かに気になる。ライオネル様に会いに来たはずなのに、
留学の許可をもらおうとしているのはどうしてなんだろう。
本当に学園に通おうとしている?
「ジニー、学園長室って、隠し部屋はあるのか?」
「ありますよ」
「隠し部屋?」
「応接室の裏に護衛とか隠しておく部屋だよ。
対応する相手が味方だとは限らないだろう?
何かあったら介入できるように護衛を隠しておいたりするんだ」
「そんな部屋が学園長室に?どうしてジニーは知ってるの?」
この国の貴族の私が知らないのに、
どうしてジニーが知っているんだろう。
「王族の護衛は行く先の建物の構造を調べておくものです。
何かあった時の逃げ道を確保しておかなくてはいけませんから」
「そうなんだ」
命を狙われたことが一度や二度じゃないとは聞いていた。
それが本当なんだと実感する。
学園に通うのにも、万が一のことを想定している。
「ジニー、学園長に面会の時に隠し部屋に入れるか聞いてくれ。
可能であれば、俺とジュリアがそこで話を聞きたいと」
「わかりました」
「隠し部屋に私も入るの?」
「俺と離れたら、ジニーが守るのが大変だろう」
「それはそうね。わかったわ」
学園長室の隠し部屋なんて知ってしまっていいのかと迷ったけど、
私を一人にしておくほうが危険なんだろう。
その日の帰りには学園長から了承する旨の連絡が入った。
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