第14話 再儀式の日

再儀式の日、いつものようにライオネル様が迎えに来てくれて、

馬車に乗って学園へと向かう。隣にはライオネル様、向かいには大きなジニー。

この三人で行動するのにも慣れてきた。


護衛であるジニーは、さすがに授業中や図書室にいる間は外に出ているが、

昼食時には一緒に個室に入ってくれている。


「今日はどういう予定になるんだ?授業はあるんだよな?」


「一応ね。仮儀式の間は関係ない学生は自習ってことになってる」


「ジュリアは参加しないんだよな?」


「参加しないんだけど、一度行かなきゃいけないのよね」


「何をしに?」


「参加しませんって言いに」


「わざわざか?」


呆れたようにライオネル様は言うけれど、これにもちゃんと理由があるらしい。


「ほら、わざわざ行くのめんどくさいでしょう?

 だから参加しないって思う人も中にはいると思うの。

 だけど、断るにも控室まで行かなきゃいけないなら、

 ついでに札を引くくらいいいかと思って参加する可能性もあるからって」


「そんな理由で?」


「あとは直前で考えを変える人もあるでしょう?

 その場の雰囲気とかもあるし、けっこういるんですって。

 参加しないつもりだったけど、控室に行ったら参加したくなったってことも」


「ふうん……そんなもんなのか」


仮婚約は控えめな令嬢が行き遅れないための制度でもあるため、

できるかぎり参加しやすいようにできてるらしい。

強制はしないけれど、参加しても恥ずかしくないようにってところだろうか。

最初から参加しないつもりの私にとっては面倒だと思うけれど。


「だから、断る場合も控室まで当日行かなきゃいけないのよ。

 ……一度断れば、もうないと思うから」


「もう、ない?」


「仮婚約を解消すること自体めずらしいのよ。

 だから、再儀式が二回以上行われたことは過去ないの。

 今回もおそらく解消したのはアマンダ様たちだけだと思う。

 私が控室に行って参加しませんって言ったら終わりになるわ」


仮婚約を解消した者同士が同じ組み合わせになることはない。

だから、今日の再儀式、解消したのがアマンダ様とブリュノ様だけだとしたら、

アマンダ様は最初から儀式に参加する権利がない。

私が札を引かないとなれば、それで終わることになる。


まぁ、本当に解消したのがアマンダ様とブリュノ様なのかは、

控室に行ってみないとわからないのだけど。


「控室に俺が行くことは?」


「できないわ。ライオネル様は教室で自習しててくれる?」


「……じゃあ、ジニーを連れて行ってくれ」


「ジニーを?」


「私もそれがいいと思います」


「……じゃあ、お願いするわ」


何もないとは思うけれど、B教室と控室は少し離れている。

あまり一人で行動するなと言われているし、素直に従っておこう。


一度三人でB教室に向かい、荷物を置く。

そのままジニーを連れて控室へと向かった。



「控室の中には護衛でも入れないと思うから、廊下で待っていて。

 断ったら、すぐに出てくるわ」


「わかりました。何かあったら呼んでください」


「うん、行ってきます」


控室の中には仮婚約を担当する教師が二人待っていた。

札が入っている箱を抱えているが、一枚しか入ってないんじゃないのかな。


「ジュリア・オクレールですね。札をどうぞ」


「いえ、儀式には参加しません」


「え?参加しないのですか?」


「ええ。学園長からライオネル様の案内役を頼まれていますし、

 結婚相手は卒業してから探すことにしました」


「……いいのですか?この札の相手はブリュノ・バルゲリーですよ?」


何か聞いているのか、焦ったように言われるが、それっていいのかな。

札を引く前に相手の名前を言うなんて。

必死に参加するように言われるが、参加するつもりはない。


「あの、何か誤解されてるようですが、

 ブリュノ様と仮婚約するつもりはありません」


「はぁ?」


「好きじゃないんです。だから、参加する気にならないんです」


「……本当に?」


「ええ。アマンダ様と喧嘩したとか、意地になってるとかじゃないですからね?

 ブリュノ様を好きだと思ったこともないですし、

 そのことでアマンダ様に文句を言ったこともありません。

 本当にブリュノ様には興味がなくて、アマンダ様の嘘には困っているんです」


「うそ……ですか?

 アマンダ・イマルシェはあなたのために解消すると言ったようですが」


やっぱり。そんなことだろうと思っていた。

わざわざ教師にまでそんなことを言っているなんて。

ブリュノ様と仮婚約を解消しても自分は悪くないと言いたかったのか。

ため息をつきながら、もう一度はっきりと説明する。


「私とアマンダ様はそもそも友人ではありません。むしろ仲が悪いんです。

 それはB教室の令嬢なら全員が知っていることです。

 アマンダ様がブリュノ様と仮婚約したことについて、

 不満を話したことは一度もありません」


あの時は本当に悔しかったけれど、誰にも言わなくて本当に良かった。

もし、本当の相手は私だったのに、なんて言ってしまっていたら、

アマンダ様の嘘が本当だと思われていただろう。


ここまではっきり説明したからか、教師たちは顔を見合わせてうなずいた。


「どうやらこちらの間違いのようですね。

 失礼いたしました。参加せずで受理いたします」


「ええ、お願いしますね」


やっと受理してもらえ、廊下に出る。

心配していたのか、うろうろしていたジニーが飛んできた。


「時間がかかったようですが、大丈夫でしたか?」


「ええ、大丈夫。断ってきたわ。教室に戻りましょう」


ブリュノ様のいる控室とは離れているはず。

いや、もうすでに札を引いて講堂に行っているかもしれない。

再儀式中止の知らせを聞くまで時間があるだろう。

今のうちにさっさとB教室に戻ってしまいたい。


何か言われたとしても、周りの目があったほうがいい。

令嬢たちならアマンダ様の嘘だと気がついてくれるはずだから。


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