第13話 ブリュノ様の思い違い
「俺とアマンダの仮婚約がうまくいかなかったら、
その場合は再儀式になるでしょ?
そしたら俺の相手はジュリアになるんだし、興味あるよ」
「は?」
言われたことがうまく理解できなくて聞き返してしまう。
ブリュノ様は私の反応はどうでも良かったのか、
一人でうなずいて楽しそうに笑っている。
「いやさ、アマンダから聞いちゃったんだ。
本当はジュリアが俺のこと狙ってたって。
でも仮婚約の相手になったのはアマンダだっただろう?
親友なのに相手を奪ってしまって申し訳ないわって落ち込んでたんだ。
あ、怒らないでやってくれよ?俺が無理に聞き出したんだ」
「……はぁ。アマンダ様は友人でも親友でもないわ」
またかと思いつつ、それだけははっきりしておこうと答える。
私がブリュノ様を好きだとアマンダ様が誤解していたのはわかっている。
だから、もしかしたらブリュノ様に伝えているかもしれないとは思っていた。
だが、ブリュノ様は私の言葉を聞いて、おおげさに首を横に振る。
悲しそうな顔をした後、私に言い聞かせるようにゆっくり話す。
「友人じゃない?ひどいこと言うなよ。
俺のせいで喧嘩したのはわかってるけど、
そういうこと言うと後悔するって」
「喧嘩なんかしていないから大丈夫よ。
もとから仲良くなんてしていないの」
「あーもう。仕方ないなぁ。
親友は大事にしておいた方がいいと思うぞ?」
「だから!友人でもないって言っ」
「ジュリア、どうしたんだ?」
アマンダ様の話を信じ切ってしまっているブリュノ様に、
思わず大きな声で反論したら、席で待っているはずのライオネル様が来ていた。
「ライオネル様……」
「あ、俺は用事があるんだった。じゃあ、ジュリア。またな!」
ライオネル様から逃げるようにブリュノ様は逃げて行った。
……どうしてそんな慌てているんだろう。
「大丈夫だったか?絡まれているように見えたから声をかけたんだが」
「うん……からまれてた、のかも?」
「ジュリアに本を取りに行かせたのはまずいと思って追いかけてきたんだ。
これからは一人になる時間はなるべく少なくしてくれ。
俺のことで何かに巻き込まれないとも限らないんだ」
「あ、そうだね。気をつける」
そういえば王位争いに王妃争いまで起きそうなんだった。
私がライオネル様に近づくのを面白くないと思っている貴族家もあるだろう。
他国とはいえ、何もできないわけじゃない。もう少し気をつけるべきだ。
「それで、何があったんだ?」
「あ、あのね」
さきほどブリュノ様とした会話を説明すると、
ライオネル様の眉間にしわがよっていく。
これは怒ってる?理解できなくて?どちらもかな。
「なぁ、一応確認するが、ジュリアはその男が好きなのか?」
「いいえ、違うわ。
ちょっと以前に会ったことがあるかどうか確認したかったのだけど、
なんだか違うような気がしてきたから、それはもういいと思っていて」
「好きではないと?」
「うん。話したのは初めてだし、話してみて幻滅したというか……。
なんというか、もやもやするというか?」
もし、あの時の少年だったらと思ったらドキドキする気持ちはあった。
だけど、それはブリュノ様に対する気持ちじゃない。
あの少年に会えるかもしれないという気持ちだった。
違うかもしれないと思っている今は、ブリュノ様になんの期待もない。
それどころか、さっきからイラついて気持ちが落ち着かない。
もちろん、アマンダ様については怒っているし、呆れている。
いつまで私に対して嫌がらせを続ける気なんだろうって。
だけど、ブリュノ様に対するこのイラつきはなんだろう。
「それって、不誠実だと思ったから怒ったんじゃないか?」
「不誠実?」
「だって、まだアマンダと仮婚約中なんだろう?
解消するかどうかも決めていないのに、
ジュリアと交流するっておかしくないか?」
「そう言われてみればそうね。同時に二人と交流しようだなんて」
そうか。アマンダ様と解消するから交流してと言われたのなら、
まだ声をかけてくるのは理解できる。
ブリュノ様はアマンダ様とうまくいかなかったらと言った。
今のところうまくいっているように見えるのに、私に声をかけてきた。
不誠実……本当だわ。
「俺にはその男はアマンダにぴったりだと思うが」
「そうね……私もそう思う」
精霊はアマンダ様が私から札を奪うことをわかっていて引かせた?
だから、仮婚約が成立したのだとしたら、お似合いなのは当然。
仮婚約の儀式の後からずっと引きずっていた思いが、
すっきり消え去った気がした。
なんだ。ブリュノ様の仮婚約相手にならなくて良かったんだ。
私と組んだ後でも、アマンダ様に声をかけられたらついていきそうだもの。
笑ってしまったら、ライオネル様が不思議そうな顔をする。
「何かいいことでもあったのか?」
「ん?そうね。ライオネル様が来てからいいことしかないわ」
「そうか。じゃあ、これからもそばにいないとだな」
「ふふ。よろしくね」
あらためてライオネル様が来てくれて良かった。
一緒にいてくれる相手がいなかったら、不誠実だとわかっていても、
ブリュノ様に話しかけられてうれしいと思ってしまったかもしれない。
私は一人でいられるほど強くないから。
そして、数日後の授業でブリュノ様があの少年じゃなかったことが判明する。
教師からバルゲリー領地を説明するように立たされたブリュノ様は、
自分の家の領地だというのに満足に説明できなかった。
その時に、「俺は一度も領地に行ったことがないから」と言い訳していた。
二男だったブリュノ様はやんちゃすぎて馬車の旅に耐えられないだろうと、
両親と嫡子が領地に行っている間も王都の屋敷で留守番していたらしい。
ということは、西門から出て行ったあの少年ではない。
違うだろうと思っていたけれど、万が一のこともある。
もし、あの少年がブリュノ様だったとしたら思い出が汚れてしまうような気がして、
確認するのはやめておこうと思っていた。
思わぬところで違うのだとわかり、心からほっとした。
だけど、もう少年を探すのは止めようと思った。
もし再会しても、うれしいとは限らないと知ってしまったから。
思い出は思い出として大事にして、ブローチはお守りとして持っていよう。
あのブローチはアマンダ様に奪われそうになってからは、
自分の部屋の鍵のかかる引き出しにしまいこんである。
ブローチの石にふれるのは誰もいないときだけ。
もう二度と誰にもさわらせないように、大事に大事にしまい込んであった。
このまま思い出も同じように大事にしまう時期なのかもしれない。
そして、仮婚約の儀式から三か月。
再儀式が行われる日が近づいていた。
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