ナイトガール・クラッシュ 〜頂き女子と殺し屋女〜
端野暮
第1話 出会いと銃声
脳天を撃ち抜かれるように、私は彼女と出会った。
正確に言えば、脳天を撃ち抜く彼女を見たのが、私と彼女の出会いだった。
運命の出会いの数分前、私は都内の肉バルにいた。
「美咲ちゃん、今日は会ってくれてありがとう。楽しかったよ。」
目の前の男は、気色の悪い薄ら笑いを浮かべた。
「私も!雄二さんといると安心する。」
腹の虫を噛み殺して乙女を演じる。
「へへ、嬉しいなあ。」
「ねえ、今日はプレゼントないの?」
「そうだ。今日俺ん家来ない?最近ホームシアターセット買ったんだよね。」
「すごーい。高かったんじゃない?」
「まあね。80万くらいかかったかな」
そんな端金があるなら素直にプレゼントをくれればいいのに。
ホームシアターを餌に自宅へ誘う男は多い。
暇と虚栄心を持て余したおぢにはちょうどいい買い物なのだろう。
過去の経験から私は、相場が300〜500万であることも、1000万かけたものでも結局、映画には没入できないことも知っている。
それどころか、休日に一人で見ようと思っていた作品に、穢れた指の感触がノイズとして残ることもしばしばで、あまり気乗りしない。
「うーん。誘ってくれるのは嬉しいんだけど、また今度にしない?」
つい断ってしまった。こうすると食い下がられるのが面倒だ。
スケベなだけで金はない男は不快感をあらわにした。
「そうやっていつも断るけど、何、俺のこと嫌い?」
嫌い。生理的に無理。そう言い切ってしまいたい衝動を抑える。
「そんなことないよ。なんでそういうこと言うの。悲しいんだけど。」
気まずい空気を演出する。こう言っておけば、まだ搾れるから。
「ごめんね。また今度にしよっか。」
「そうだね。」
少しの沈黙と共に、皿に残った肉を平らげた。
どんな時でもうまいから、肉は私を幸せにしてくれると信頼できる。
「そういえば、最近気になってるバッグあるんだけどね」
「帰りに買ってあげよっか。それで今日のことは許してよ。」
「ほんと?嬉しい!ありがとう!」
会計を済ませ、質屋にしか用がないバッグの元へと歩く。
バルから百貨店までの近道は、少し狭い路地裏を通るルートだった。
狭い道で近距離にいると、ムードがあると勘違いされやすくてダルいので、私は男の後ろを、少し距離を空けて歩いていた。
その判断は、結果として私の命を救った。思いがけない角度から。
銃声と共に、男が左に倒れた。
衝撃は右から左へ伝わったらしい。
私は妙に冷静な気分で右の雑居ビルの狭間を覗き見た。
長身の女がいた。
黒のレザージャケットにパンツスタイルがよく似合う、短い髪と端正な顔立ち。
構えたままの銃。
彼女の冷酷な美しさに、私は目を離せなかった。
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