三坂俊太郎

”自己紹介をお願いします”


三坂俊太郎、二十五歳です。ここに入社してからちょうど三年目っすね。




”三年目ということは、吉野さんとは同期ということでしょうか?”


そうですね。吉野はこの会社で唯一の同期なんすよ。そこまで大きくない会社だから、毎年せいぜい一人か二人くらいしか採用しないんですよ。

吉野は唯一の同期で歳も同じなんで、よく二人で呑みに行ったりしてますね。




”三坂さんから見て、吉野さんはどんな方ですか?”


う~ん、一言で言うなら真面目っすよね。仕事もきっちりしている方だし、たまに休日も出勤してるみたいっすから。まぁ、あの人の下で働いているからっていうのもあると思うんですけどね。




”あの人というのは、志摩さんの事ですか?”


そうですね。あの人の下でよく一年も働けるなって感心しますよ。俺なら一週間で会社辞めますわ。




”志摩さんはそんなに怖いんですか?”


怖いっていうか、正直俺はあの人のことが苦手ですね。怖いだけならまだいいけど、そのせいで後輩を自殺にまで追い込んでんだから。

十年くらい前の事なんですけど、その時に志摩さんの後輩だった人が赤信号にも関わらず道路に飛び出したんですよ。その人、自動車に轢かれて、数時間後には亡くなったんです。




”吉野さんもその事はご存じなんですか?”


ええ、知ってますよ。この前、二人で呑んだ時にその話もしたんで。

それでも吉野はあの人の事を尊敬してるって言うんすから、あいつもなかなか変わった奴ですよね。




”吉野さんとは、よく呑みに行くんですか?”


そうっすね、二人で呑みに行くことが多いです。

特に実のある話はしてないっすけどね。

会社の愚痴だったり、社内で一番可愛い子は誰だとか、そういう話ばっかりですよ。

そういえば最近、吉野と呑んだ翌日に脇腹が薄っすら紫に変色してるんすよ。たぶん痣だと思うんですけど、心当たりが全く無くて。そんでこの前、さすがに不安になったんで、その事を吉野に相談したんですよ。そしたらあいつ、「知らねーよ。寝てる時にぶつけたんじゃね」って。

冷たくないっすか?こっちは真剣に相談してんのに。




”高垣沙耶さんとは仲が良いんですか?”


高垣さんっすか?仲が良いっていうか・・・、もしかして吉野が何か言ってました?

俺がいつか本人の前で沙耶ちゃんって口を滑らせるんじゃないか心配してるって?

なるほど、あいつまだ気付いてないんすね。あいつ、真面目なんすけど鈍感でもあるんすよね。

それについては、あいつにはまだ内緒にしておきますわ。その方が面白いんで。




”青木柚葉さんはどんな方でしょうか?”


柚葉ちゃん?良い子だと思いますよ、いつも明るくて元気だし。

え?柚葉ちゃんが俺のことを好き?

誰がそんなこと言ってたんすか?

吉野!?吉野が言ってたんすか?

吉野と柚葉ちゃんが二人で買い物に行った時、柚葉ちゃんが何度も俺のことを吉野に尋ねてた?

・・・あ~、なるほど、そういうことか。

なんとなく分かりましたわ。

なんか俺の知らないところで、色々と面白いことになってるみたいっすね。

この事についても、もう少しこのままにしておきますわ。

その方が面白いんで。


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