第4話 "メシウマ"発足
「俺は"料理ギルド"を創ることにする」
マグリニカ本部から出て、俺はオウエルへとそう告げた。
「さっきさ、別れのあいさつに厨房に寄ったときに俺、改めて思ったんだ。ここで働いた日々は確かに楽しかったんだってさ。だからこれからもコックとして生きていこうと思う」
「素晴らしいです、ムギ様。では人材集めはこのわたくしにお任せをっ」
俺の決意を聞いたオウエルが、これまで演じていたクールビューティーっぷりはどこへやら、鼻息も荒く応じてくれる。
……というかさ、
「オウエル、その口ぶりだとこれから俺の創るギルドに、」
「入りますがそれが何か?」
俺が言い切る前に当然のように加入確定の言葉を被せてくる。
まあそう言われるんじゃないかと想定はしていたが、
「本当にいいのか? 俺が創るのは独りよがりな、最初は薄利どころかきっと赤字の先行きも保証できない零細ギルドだ。オウエルみたいな優秀な人材なら他のどんな大手ギルドからも引く手数多だと思うぞ」
「愚問ですね」
オウエルはスチャッと眼鏡の位置を直し、
「私はムギ様のお料理が食べられる場所に居たいだけですから」
「そうっすか……」
俺としてはオウエルの才能が持ち腐れしてるようで、もったいなく感じるんだよな。
本人がそれで良いと言ってくれるならいいんだけれども。
「とはいえ、ムギ様の創設なさるギルドが零細で収まるとは思えませんが」
オウエルは何故か得意げにフフンと鼻を鳴らすと、
「先ほどの執務室でのムギ様の勇ましい立ち回りは予想外でしたが、しかし嬉しい誤算でした。高品質なお料理に高レベルな戦闘技術を持つムギ様が率いるギルド……伸びしろしか感じません」
信頼のまなざしがオウエルから向けられる。
いや、俺は言ってしまえば料理人と冒険者としての経験があるだけで、リーダーシップとかギルド長の器とかは全然ないぞ……?
「ところでムギ様、新ギルドの名称は決めておられますか?」
「ん? いや特には。こだわりも無いんだが」
「そうですか。多くの人に簡単に覚えてもらえつつ、インパクトのある名前だといいですね」
「じゃあ"メシウマ"ギルドなんてどうだ? 名は体を表す……なーんて」
「……」
俺の言葉にオウエルは黙り込んでしまった。
……マズい。
飯が美味い料理ギルドだから"メシウマ"だなんて、さすがに寒すぎる冗談だったか?
「……いいですね」
オウエルはそう言って真面目な顔で頷いた。
え、いいの?
「インパクトがあり覚えてもらいやすく、料理関連の用語もあるのでとてもよろしいかと」
「いやいや、まさか」
超適当に命名しただけなんだよな。
もうちょっとしっかりと考える必要があるだろう。
そんな会話をしている間に、
「ああ、着きましたね」
オウエルが目の前の建物を見上げた。
そこは俺も月に1度は訪れる場所……
"銀行"だ。
さすがに退職金をそのまま持ち歩くのは怖いからな。
「では退職金を分けましょうか」
ジャラリ。
オウエルが金貨がたっぷりと詰まった布袋を改めて取り出した。
片手で持てる程度だが、それだけあれば1年は何もせずとも暮らしていけるだろう。
「俺は要らないよ。ぜんぶ君が持っているといい」
「えっ……」
オウエルがポカンとした表情を向けた。
まあ、突然だとそうなるか。
「もともと俺は退職金なんて貰う想定してなかったし、別にそれでもよかったのさ。オウエルの働きで思いがけず得られたものなんだから、君の好きなように使ってくれ」
「いえ、しかしだからといって……」
「頼むよ。あぶく銭なんてできちまったら俺は突発的に珍しい食材を買い漁って無駄遣いしてしまう。そんなことしてしまうくらいなら、オウエルが有効活用してくれた方が俺は嬉しいんだ」
「……」
オウエルはしばらく難しそうな顔で黙りこくっていた後、
「承知しました。私の好きに使っていいということなら」
「ああ。構わないよ」
「ありがとうございます、ムギ様。では少しの間お待ちください」
オウエルは足早に銀行に入っていく。
うむうむ。
これで良かったんだ。
オウエルはまだ輝かしい未来と可能性が満ち溢れる若者だ。
金は俺みたいな後先考えないオッサンよりもそういった賢く前途有望な子が持つに限る。
「お待たせいたしました、ムギ様」
それから20分ほどでオウエルは戻ってきた。
個人口座に預けるだけだったろうに、けっこう時間がかかったな?
オウエルはニコニコと微笑みながら、
「それではムギ様、こちらをどうぞ」
「え?」
緑の
なんで俺に……
この色と形って"預金証書"だよな?
渡されたので開いてみる。
その証書の宛名は──"メシウマ"。
……は?
「退職金は私の好きに使ってよいとのことでしたので」
オウエルは輝かしい笑顔を向けてくる。
「私とムギ様の退職金は"全額"、ムギ様のギルド・メシウマの創設にあたっての資本金という名目で銀行に預けることにいたしました」
「は……はいぃっ!?」
「これでいつか食堂などを作る時、銀行から融資を受けやすくなりますねっ」
オウエルの目はキラキラとしていた。
マジかよ……
この娘、ガチだ。
本気で、人生を懸けて俺と共に歩もうとしていやがる。
「ムギ様、これからギルド"メシウマ"を精一杯盛り立てていきましょうっ!」
「お、おう……!」
もうこうなったら乗りかかった舟だ。
こうして俺が適当に命名したギルド"メシウマ"は銀行公認の形で発足してしまった。
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