決意
時間が経つにつれて、和也の心の傷は少しずつ癒えていった。それは新しい楽しい記憶が、徐々に過去の痛みを上書きしてくれるおかげだった。真由はその変化に敏感で、彼との新しい記憶を積極的に作ることで和也の心の隙間に自然と入り込んでいった。遊園地への日帰り旅行は、その計画の一環だった。真由は、日本人コミュニティでその企画を進め、和也を含む多くの同期が参加することになった。
遊園地での一日は、真由にとって計算された距離感の調節の時間だった。彼女は意図的に和也から距離を置きつつ、彼が楽しんでいる様子を遠くから見守ることに集中した。この自然体の関わり方が、彼女にとっては、和也への深い愛情表現だった。
夕方、楽しい一日が終わりを告げ、レンタカーで寮に帰る時間が来た。一人また一人と友人たちが降りていく中、最後に残ったのは和也だった。真由はドライバーとして最後の役割を果たす。彼の寮の前で車を止めると、彼女の心は高鳴りを抑えきれなかった。車の中で少しの間、二人だけの静けさが流れた。
「和也、ちょっと私の部屋に来ない?コーヒーでも飲まない。ちょっと一服したいな。」と真由は静かに誘った。その声には緊張と期待が混じり合っていた。和也を自分の部屋に招くことで、彼ともっと近づきたいという願いが込められていた。
この瞬間、真由の気持ちは頂点に達していた。彼女は和也が自分の部屋の閾を越えることを夢見ていた。それはただの友情以上のものへと発展するかもしれない第一歩だった。真由は、心の中でこのチャンスを逃さないようにと願いながら、和也の答えを待った。
和也は、真由の部屋での静かな雰囲気の中で、彼女との未来を一瞬で描いていた。彼女のそばに座りながら、自然と湧き上がる一体感に心地よさを感じていた。真由のさりげない仕草や、和やかな会話の中で、彼女も自分と同じように感じていると確信に近い思いが彼を支配していた。彼の心の中では、まるで二人がすでに深い結びつきを持っているかのように感じられ、その思いが現実になると信じて疑わなかった。
真由は、和也が自分の部屋にいることに内心で少し緊張していたが、彼との距離が縮まることに心からの喜びも感じていた。彼女は和也の横たわる姿を見ながら、彼がどれだけ自分を心地よく感じているかを察して、彼女自身もリラックスし始めた。和也が以前の失恋の影響で心を閉ざしていたことを知っている真由は、彼が再び心を開いてくれることに感謝し、同時に彼女に対する信頼と親密さを深めたいと望んでいた。彼との会話は、彼女にとっても癒しであり、二人の関係が自然と次のステップへと進んでいくことに、静かながらも強い期待を抱いていた。
真由は、里美の話は出さなかったが、和也の方から里美に「抱かれる想像ができない」と言われたことを伝えた。最初に真由に話をした時には、この言葉を突き付けられたことは話していなかった。真由は、咄嗟に「私なら、そこまでしてくれたら身を任せたいって思うけどね。心も体も...」
真由の言葉は、彼女の心の奥深くに秘められた感情を隠すことなく示していた。里美に関する話題を避けながらも、和也が遭遇した拒絶に対する自身の反応を通じて、彼に対する自らの受容的な姿勢を示すことで、彼の傷ついた心に寄り添おうとしていた。真由の「身を任せたい」という言葉には、ただの肉体的な意味だけでなく、彼に対する深い信頼と心からの想いが込められている。彼女は和也が自分に対して持っている感情の深さを理解し、彼の情熱を受け入れ、支えていきたいと強く感じていた。この瞬間、彼女の中で和也への情熱が一層強まり、彼とのより深い関係を望む心情が確固たるものとなっていた。
真由は、和也の提案に快く応じると同時に、心の中で安堵の息をついた。彼の優しい声に導かれ、彼女は穏やかに電気を消し、部屋をほの暗い空間に変えた。その行動は、二人だけの世界を作り出し、周囲の雑音を遮断した。和也がベッドに横になり、黙って彼女を隣に誘うその仕草に、真由の心はさらに高鳴った。彼女はそっとベッドに腰を下ろし、彼の隣に身を寄せた。緊張と期待が混じり合いながらも、彼女は和也に対する深い感情を隠そうとはせず、彼の存在がもたらす安心感に身を委ねた。
真由は、そっと和也の手を取り、彼の手のひらを優しくなでた。彼女の動作は緩やかでありながらも意図的で、和也の心と体をゆっくりと癒していくことを目指していた。彼女の触れる手は温かく、その温もりが和也の緊張を解いていった。静かに寄り添うことで、彼女は和也に「大丈夫だよ」という無言のメッセージを送り続けた。この瞬間、真由の心は、和也への想いでいっぱいであり、彼が過去の痛みから解放される手助けをしたいと強く願っていた。彼女の優しい接触は、彼の傷ついた心に対する最も純粋な形の慰めであり、彼女自身もその深い繋がりを通じて和也との未来を確かなものと感じ始めていた。
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