　和也は里美からの衝撃的な一言に心が裂けるような痛みを感じた。

「和也に抱かれる姿が想像できない」

　彼女の言葉は、彼の自尊心を粉々に打ち砕いた。その一言が、彼の頭の中で何度も繰り返され、それが真実かのように思えてきた。和也の内側にあったすべての自信が、一瞬にして吹き飛ばされる。それは、愛する人からの拒絶という名の冷たい風が、彼の中に築き上げられた信頼という建物を容赦なく崩壊させたからだ。

　彼の世界観は根底から揺さぶられ、自分を取り巻くすべてが虚構に思えた。この世界で誰も信じることができない、すべてが偽りの連鎖であるという悲観的な思考が彼を支配する。どうして里美はこんなことを言ったのか、自分には何が欠けているのか、何がいけなかったのかと自問自答するが、答えは闇の中で消えてしまう。

　和也は里美の深層心理を解明しようと試みたが、その努力は逆に自分をさらに追い詰める結果となった。彼女の言葉を何度も反芻し、その都度、自分自身の価値を問い直す。彼は心の中で里美に問いただしたい衝動に駆られるが、それは彼女が彼の心に刻んだ傷が深すぎるために、恐怖と疑念の影にすっかり覆われてしまっていた。

　この精神的な動揺は、和也にとって新たな孤独と疎外感をもたらし、和也の心は徐々に崩壊していく。里美の言葉は、和也の存在そのものを否定するようで、その影響は時間が経つにつれて彼の心に深い暗闇を刻んでいった。この痛みは日常生活にも影を落とし、自己信頼を完全に失った和也は、以前のように明るく振舞うことができなくなる。この苦しみは、和也が過去に経験したどんな挑戦よりも辛く、深いものだった。

　和也の心は混乱と失望でいっぱいだった。里美に「抱かれることが想像つかない」と言われたとき、それは彼女が和也を男性として受け入れていないという明確な拒絶として彼の心に突き刺さった。彼の内面はこの冷たい真実によって引き裂かれ、何度も自問自答を繰り返しながら、彼女に対する感情が変わり始めていることを痛感した。

　和也は、里美に対して抱いていた情熱が、彼女の言葉によって徐々に冷めていくのを感じていた。これまでの熱い恋心が、拒絶という現実の前で弱まり、代わりに苦痛と疲労感が彼を支配していった。自分にとって里美がどれほど大切な存在であったか、それが今や彼を苦しめる源に変わってしまったことに、深い悲しみとともに認識を新たにしていた。

　その痛みは耐え難く、和也は里美の元から自分を遠ざける決意を固めた。彼の中で、彼女を想い続けることがもはや苦痛となり、彼女との関係に未来がないことを悟った。自暴自棄になりながらも、彼は彼女とのすべてを断ち切ることで、少しでも心の平穏を取り戻そうとしていた。里美への未練を断ち切ることは容易ではなかったが、自分自身を守るため、そしてこれ以上心を痛めることがないように、和也は一歩を踏み出す勇気を持とうとしていた。

　夜が明ける光景に目を向けることすらせず、和也はひたすら歩いた。始発のメトロの音が遠くから聞こえてくる中、彼は深い沈黙に包まれていた。里美からの「駅まで送る」という言葉を断った彼の心には、混乱と失望が渦巻いていた。彼女の拒絶の言葉は、彼の心に深く刺さり、その痛みが彼を完全に支配していた。「頭を冷やしたい」という言葉は、その混乱を象徴していたが、それ以上に、彼は里美との関係の何がそこまで崩壊したのか、自問する時間が必要だった。

　和也は、一歩一歩、駅に向かう足取りで里美との思い出を振り返った。里美の笑顔、一緒に過ごした楽しい時、そして里美が和也に支えを求めていた瞬間。これらの記憶が和也の心を苦しめ、同時に、里美がなぜ「抱かれることが想像できない」と言ったのか、その理由を理解しようと奮闘した。しかし、どれだけ考えても、その答えは和也の中で見つからなかった。ただ、里美が友情を続けたいと願っていることを感じ取りながらも、その言葉が和也にとってどれほどの打撃であったかを里美は理解していなかった。

　和也は駅に向かう道をひとりで歩き続けた。その間、里美の後悔の念や彼女がなぜそのようなことを言ったのか、そして彼女が和也の存在をどのように価値づけているのかについて、和也は深く考えた。里美の友情を失いたくないという願いと、和也への感謝の念が彼女の心を支配していたことを彼は知らなかった。彼の心はまだ彼女を想う気持ちで一杯だったが、彼女の言葉によって生じた割れ目は、簡単には修復できないほど深いものであった。