　和也は数日ぶりに、里美からの着信を受けた。彼女からの電話を待っていた和也は、どのような結論が待っているのかと緊張しながら、心温まるような挨拶を交わした。二人はいつものように軽く冗談を交えた雑談をして笑い合ったが、その後、里美が話の主導を取り、突然のニュースを切り出した。

「さっき、ユミから電話があって...」

と、意外な展開に和也は驚いた。和也は

「そうなんだ？彼とのことで電話してきたの？」と尋ねた。

「彼との間に子供を妊娠したって言われたの。」

里美の声は落ち着きを欠いていた。

　和也は心中で驚き、「なんだ、この展開は」と思いつつも、冷静を装い、

「ユミは、里美が妊娠していることは知っているの？」

と尋ねた。

「知らない様子だった。」

里美は答え、その声には疲れが感じられた。和也は深呼吸を一つし、

「ユミは、里美から彼を奪いたい気持ちでカマかけているかもしれないけど、彼は今ユミの方へ気持ちがいっている状況で、里美との間に子供を妊娠していることは彼も知られたくないだろうな。里美次第だけど、自分の妊娠のことを話せば、ユミは彼から離れると思うけど、里美もぎこちないまま彼と関係を続けるか、または桐島との三角関係にもなってややこしくはなるかもしれない。里美は、今の状況下では、どうしたいって思ってる？」

と続けた。里美は少しの間を置いてから、はっきりとした声で答えた。

「子供を堕ろしたら、もう彼とは一緒にいられないから別れる。いくら私でも、それだけは無理だと思う。」

和也はその答えを受けて一瞬言葉を失いながらも、彼女の決意を尊重しようと心に決めた。

「そうか、分かった。それで、病院にはいつ行くか決まった？」

「明後日行くことにした。彼に付き添わせる。」

里美の声には、一つの段階を終えようとする覚悟が込められていた。

　和也は複雑な心情を抱えながらも、彼女が選んだ道を支えることを選んだ。

「うん、良い決断だと思うよ。何かあったらいつでも連絡して。」

電話を切った後、和也は静かに自分の感情を整理し、里美が新たな人生を歩むためにどう支えることができるかを考え続けた。

　久しぶりに里美から電話があった。里美の声には深い懐かしさと、少しの緊張が混ざっていた。何となく、この電話がまた桐島に関するものであることを察していた。里美の話し始める速度とトーンから、問題が起きたことが明白だった。

　和也は電話の向こうの里美のためらうような沈黙を感じ取りながら、慎重に言葉を選んだ。

「何があったの？大丈夫？」

彼の声には心からの心配が込められていた。里美は少し間を置いてから、やっとの思いで話し始めた。

「遼介の奥さんが、遼介が私のアパートに通っていたことを知っちゃったの。すごく大変なことになってる…」

「どうやってバレたの？」

和也は静かに尋ねた。

「それがね、遼介が私のところに来るたびに、アパートの駐車場で必要な駐車許可書をもらってたの。その許可書が遼介の車の中にたまってて、たまたま奥さんがそれを見つけてしまったらしいの。」

「それでどうなったの？」

和也は真剣そのもので聞いた。里美は息を呑んで言った。

「奥さんがそれを見て、遼介に問い詰めたみたい。遼介は最初はごまかそうとしたけど、証拠があるから否定できなくて… 最終的には私のことを白状したの。」

「奥さんの反応はどうだったの？」

和也は心配そうに尋ねた。

「すごく怒って、私の電話番号を見つけて直接私に電話してきたの。『私たちは結婚しているんだから、あなたが手を引きなさい』って。ものすごく剣幕で怒鳴られて、もし引かないなら訴えるって脅されたわ…」

　和也は深くため息をついて、

「大変だったね。でも、奥さんの気持ちもわからなくはない。感情が高ぶるのは当然だよ」と共感を示しながらも、里美を落ち着かせようとした。

「これからどうする？」

里美は少し考えた後、

「遼介とはもう無理だと思う。こんな状況を引き起こしてしまったし、奥さんとの間にも大きな亀裂が入ってしまったから。もう終わりにしようって遼介にも伝えたの」

と静かに言った。和也は、

和也は、ほっと一息ついた。

「そうか。奥さんが逆上して家まで来なくてよかったね。」

「うん、それだけは起きなくて本当によかったと思ってる。」

　和也は明るく提案した。

「景気づけに、今度うちらが出かける時に一緒においでよ。アイスホッケーを見たり、遊園地行ったり、色々仲間内で出かけることがよくあるんだ。外の世界も見てみるのもいいかもよ。また食事やビリヤードにも行こう。」

里美は少し明るくなって、

「うん、そうしようと思う。連絡待ってる。」

二人は電話を切った。和也は、これでしばらく大嵐は吹かないだろうと心底から願った。

　和也と里美の関係は、過去の複雑な出来事を乗り越えて、徐々に新しい形を見つけつつあった。里美が過去の影を少しずつ脱ぎ捨て、新たな日々を受け入れる中で、和也の存在は彼女にとってかけがえのない支えとなっていた。和也もまた、里美の変化を感じ取りながら、彼女との時間をより意味あるものにしようと努力していた。

　夏が深まり、空は高く澄み、遊園地の日は特に爽やかな朝を迎えた。和也は里美を含む大学の仲間たちと遊園地への出かける計画を立て、里美もこれに快諾した。彼女は新しい経験に少し緊張しながらも、和也と過ごすことで得られる安心感を楽しみにしていた。

　計画の日、和也は朝早くから里美を迎えに行き、二人で合流地点へと向かった。車内では、最近のお互いの近況や昔話に花を咲かせ、笑い声が絶え間なく流れた。里美は和也と過ごす時間が心から楽しいと感じており、彼の周到な配慮が彼女の心をほぐしていた。

　遊園地に着くと、他の仲間たちもすでに集まっており、皆の顔には期待と興奮が浮かんでいた。和也と里美は、グループに迎えられながら、一日中一緒に行動することになった。アトラクション一つ一つに挑戦しながら、二人はしばしば手をつなぎ、スリルと笑いを共有した。特に、ジェットコースターやフリーフォールタワーのようなスリル満点の乗り物では、里美が和也の腕を強く握りしめる場面もあり、その度に和也は彼女の手を優しく握り返し、安心させようと努めた。

　昼食は遊園地内のレストランでとり、一行はピクニックを思わせるような楽しい食事を共有した。里美は特に、遊園地特有のカラフルで楽しい料理に心を奪われ、和也と共に新しい味や経験に舌鼓を打った。午後もさらに多くのアトラクションを巡り、夕方までには全員が疲れ切っていたものの、達成感と幸福感に満ち溢れていた。

　帰り道、夕日が空をオレンジ色に染める中、車の中で和也は里美に「今日は本当に楽しかったね。またこうして一緒に出かけたいね」と話した。里美は疲れた顔で微笑みながら、「うん、本当にありがとう。今日は忘れられない一日になったわ」と心からの感謝を伝えた。その夜、二人は遊園地での出来事を回顧しながら、これからも互いの大切な存在であり続けることを確かめ合った。