EPISODEⅩⅦ 幽かに輝く天狼星

「翠...!やっと、見つけた…!!」

息を切らせて走って来たのは、蒼月あるな結藍ゆらん

2人はすいの前にある死体に目を移して固まる。

「も、もしかして、柘榴ざくろくん…?」

「…うん、やっぱ死んじゃってたよ。」

すいは涙を拭き取って、苦笑いをしながら2人に目を向けた。

「この目で見るまで信じられなくてさ…。」

寂しそうに胸の前で御守りを握り締めるその姿はとても痛々しくて。

微かに震えるその手に、ぐっと力が込められて。

「仇、取りたい。絶対に、ディオスクロイを倒す…!」

「...すい。そう、だね。絶対に勝とう…?」

「うん、僕もできる限り頑張るよ。」

3人は覚悟を決めて、或空あるくたちの元へ帰った。


避難所では紅輝こうき架恋かれんが、或空あるくのクエイサーを見ていた。

なるべく人目の付かないところに移動して、話を聞いてみる。

或空あるくくんだけ、なんで異能力4つもあるのー?」

「ボクも、3つあるけど…」

「俺らは2つしかないんだぜ?」

「確かに、4つあった方が私たちも生きる確率上がるよね。」

「…解放みたいなの、出来ないの?」

結藍ゆらんの言葉に、全員が或空あるくに視線を向ける。

或空あるくは少しの沈黙の後、はーっと溜め息を吐いた。

「解放は、できるけど。今のままじゃ耐えられないと思う。」

「耐えられない?」

「ああ。今解放しても、力に喰い殺されるだろうな…。」

「制御できないってことか?それなら最初みたいに手伝ってくれれば…。」

「あの輪廻転生と、解放儀式では訳が違うんだよ。」

ふいっと皆から視線を逸らして、或空あるくは立ち上がって避難所へ戻っていった。

もうこれ以上話す気はないらしい。


蒼月あるな以外の4人は或空あるくの態度に不安を口にする。

「なんだよ、俺たちだって死にたくないんだぞ?!」

「きっと嘘だよ!私達、輪廻転生も、解放儀式なんて言葉も初めて聞いたし!!」

声を荒げる紅輝こうきすい

「輪廻転生は…架恋かれんたちをデュミナスにしたやつじゃないの…?」

「それに解放が出来なくても、今僕たちが生きているのは…」

4人が一斉に、蒼月あるなの方を向く。

「…或空あるくは、誰よりもこの世界の永続を願ってるよ。」

その言葉でその場が静まり返る。

他に誰も居ない、この場所で。

蒼月あるなの髪がふわりと重力に反して靡く。


「そして、ボクたちは誰よりも”人間”を愛しているよ。」


優しく慈愛に満ちた表情で微笑んだ蒼月あるなは、少し浮いて4人を見下ろした。

避難所に戻ってこない皆を心配して、或空あるくもその場に戻ってくる。

「お、おい?!なんで人間の前で浮いて…?!」

「…みんなには、ちゃんと話すべきだよ。協力してもらってるし。」

黙って考え込む或空あるく、少しして蒼月あるなと同じように少し浮いた。


「オレは、幽かなもの。」

「ボクは、輝くもの。」


「オレたちは、元より人間じゃない。」

「ボクたちは、この世界の管理者だよ。」

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双星の降る世界に煌めきを。 シノイロ。 @Shinoir_o

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