第15話 鈍感
本当だったら今頃、家に着いてゴロゴロしている。なのに何故か、この先にある神社を目指して、長い長い山階段を上っている。かれこれ10分は上っている。手すりもない階段を上るのがここまで、疲れるとは。昔は走って上ることが出来ていたのに。ことの発端は帰り道に諒が発した一言だった。
「ねえ、神社寄ってかねー?」
突然の提案をする諒に、僕は言う。
「何で?」
僕が発した一言にトゲでもあったのか、心配そうな声で聞いてくる。
「あれ、嫌だった?」
「理由があるならいいけど、階段疲れるから」
「あー、そりゃー神社に行くならお願い事をしに行く以外ないでしょー」
当たり前だろ?という表情でそう言う諒。
「おー!いいな!なら俺は来年もこの3人が同じクラスになることを願おう!」
デカい声で呑気なことを言い、同意する回。
「気が早いな。まだ半分も経ってないだろ。まあ...僕も行くよ」
お願いすることなんてないと思っていたが、茜ちゃんとの円満を願いに行くことにした。
「やったー!じゃさっさと行こうぜー」
永遠に天空に続く階段を見上げて、1段も上ることなく後悔した。まあ回はずっと元気にうるさく上ってたし、諒もさわやかに余裕そうに話しながら上っていた。僕は地面を見て俯いて上っていた。でも結構疲れたらしい。2人の会話が全然聞こえなくなった。耳も限界のようだ。力を振り絞り2人の方を見る。
疲れすぎているのか、嘘みたいな光景が目に入る。諒が回の首を思い切り絞めていたのだ。今までの見たことないくらい、苦しそうな顔をする回。首を絞めている諒は背中しか見えない。意識を失った回を優しくそっと地面に寝かせる諒。僕はいつか見た夢を思い出した。諒に首を絞められる夢だ。あれは正夢だったのか。次は僕の番だ。僕たちを殺すために、こんな山奥の神社まで行こうと提案したのか。恐る恐る声を出す。
「あれ、回どうしたんだよ」
「ん?ああ、疲れたから寝るって」
諒は笑顔でそう答える。その笑顔が普通に怖かった。こんなことをしていつも通りの笑顔を見せることが出来る諒が怖かった。
「いや、どう見たってお前が首絞めてたじゃん?何やってんだよ...」
「あー、ちょっと回は邪魔だったんだよ。お前に告白するのに」
「告白...?何のカミングアウトだよ?」
回にしたことに対する怒りが溢れてしまったのか、少し冷たい声を出す。
「いや、それはお前のことがー...そのー好きだって」
体をモジモジくねらせながら、顔を赤くする諒。諒って名前ぽくない告白の仕方。さっき人の首を絞めた人間とは思えない告白の仕方。諒が僕のことを好きだということに驚く。
「えー?お前男が好きだったの?だから女の子にあんだけ告白されても付き合わなかったのか?」
「いや、別に男が好きだとかじゃないと思うけど...俺が好きなのはお前だから」
「ま、マジで言ってんの?」
「そ、そうだよ!だから俺と...付き合って欲しい」
さらに顔を赤くする諒。耳まで真っ赤だ。名前と真逆。
「ええ、いやーそれは無理だろ...だって僕は女の子が好きだもん。それに彼女出来たって言ったじゃんか。」
「でも女の子じゃん!男の枠はまだ空いてるだろ!?」
今までに見たことがないくらい必死そうな諒。
「男の枠何てねえよ!そもそも付き合ってどうすんだよ?」
「俺はただお前とずっと一緒にいたいだけだよ...」
「なーんだ、そんだけの理由かぁ?」
僕の言葉を聞いた諒は少しムッとした表情を見せる。
「この先、僕が誰と付き合おうが結婚しようが、ずっと一緒じゃん。僕とお前と一緒に過ごしてきた年数は超えられないよ」
「ええ、でも」
納得のいかなそうな諒を無視して、横たわっている回の元まで歩く。
「死んでないよな?回は頑丈だし大丈夫か!」
横たわっている回を持ち上げる。
「重っ!おーい諒!突っ立ってないでお前も持て」
「あっ、うん」
こちらに来て、しゃがみ込む諒。
「お前は上半身持て、僕は足持つから」
2人で回の体に手を回し込む。せーので持ち上げる。
「2人で持ち上げても重いな!こりゃ上るのしんどいぞ」
俯いていた諒が顔を素早く上げる。
「え?上るの?帰るんじゃなくて」
「お願い事しに来たんだろ?僕が回が早く目を覚ますようにお願いしとくから、お前は願いたかったこと願いなよ」
「あ、ありがと」
僕たちは回を担いだまま、階段を上り始める。
「諒も彼女とか作ったら?モテるんだし勿体ないよ。前田とかお前のこと大好きだぞ」
僕の後ろで回を担ぐ諒は何も答えない。顔も見えないし何か気まずいな。
「前田が好きなのは俺はじゃないよ。...鈍感だな。彰人は」
静寂を破った諒の声はいつもよりは暗い声だった。まあいつもが明るい声過ぎるだけか。というか、あの夢は結局何だったんだろう?まあ、全部の夢が正夢になるわけじゃないから、普通の夢だっただけだろう。
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