第10話 モブキャラの意地

 午後の授業を終えた後の放課後は自主錬の時間だ。

 と言っても、只ダンジョンエントリーしてスライムを倒し、レベルを上げるだけ。


 当初の予定では確かにそれだけだった。

 しかし、八月一日ほずみの話を聞いてからは違う。

 俺は命懸けの挑戦をする事にしたのだ。


「何もしなければどうせ死ぬ。なら足掻けるだけ足掻いて見せるさ」




「と言う訳でやってきましたのは一階層フロアボスの間前です」


 アプリのルート案内機能を使い、最短ルートで来れた。

 それでも一時間以内で辿り着いたのはダンジョンエントリー後に出た場所が良かったのだろう。

 ここまで会敵したブルースライムも二匹だけだったし。


 さて、この部屋に現れるのは『ブルーミディアムスライム』。

 レベル七の魔物だ。

 レベル三の俺が倒せば、レベル差三以上有る魔物を討伐したタイミングでレベルアップした場合に発生する『ステータス上昇幅拡大特典』が得られる。

 これは<攻略データベース>で確認したから間違いない。


 何故この方法が最初に<攻略データベース>で検索した際に出なかったかと言うと、不可能だったからだ。

 レベル二の俺がレベル七のブルーミディアムスライムを確実に倒せるか?

 答えはノーだった。

 可能性一パーセントもなかった。

 では条件を変えるとどうなったか。


--------------------

・・・以上の条件下でブルーミディアムスライムを倒せるか?

 可能性五〇パーセントで倒せる。

--------------------


 五分五分まで引き上げる事が出来たのだ。

 ならやるしかない。

 装備を点検。

 棍棒よし、ヘッドホンよし、胸の前に担いだバックパックよし。

 俺はブルーミディアムスライムが待ち受けるフロアボスの間、その重厚な扉を開いた。

 何とも言えない空気が俺の身体を包む。

 ボス部屋特有の空気感なのかも。


 さて、おさらいとなるがこの部屋の主『ブルーミディアムスライム』とは何ぞや。

 答えは簡単、中ぐらいの大きさのブルースライム、だ。

 そのまんまだな。


 但し、大きくなっただけのブルースライムではない。

 ブルースライムに比べて殺意がマシマシとなっているのだ。

 それは行動にも表れる。

 獲物を感知するとぴょんぴょん飛び跳ねながら素早く近づき、最後は体当たりをかます。

 当たる、ないしは躱すも体勢を崩したが最後、覆い被さり、体液から生み出した酸で溶かすのだとか。


 そもそもスライムの生態とは如何に?

 その躰に触れた物を酸で溶かし、それを吸収して成長する。

 どんな物でも躰に触れた物は溶かそうとするのだ。

 この、『どんな物でも』がミソだ。

 例え有害な物質でも酸で溶かそうとする。


 そのブルーミディアムスライムが部屋の中央にいる。

 大きさは直径一メートルあまり。

 それが、こちらの存在に気付いたのだろう、


――ドチャッドチャッドチャッ


 早速跳ねながら近づいて来ていた。


「攻略動画で見たけど、実際に相対すると思った以上に速いな!」


 ブルーミディアムスライムの初撃を躱すと同時に、バックパックの中から取り出した物を投げつけた。


「喰らえ!」


 それは水風船。

 スライムに当たった水風船は破裂音を発して割れた。

 触れた物を溶かすスライムの性質によりゴムが溶けたのだ。

 結果、中の液体がブルーミディアムスライムに掛かる。


「やったか?」


 ブルーミディアムスライムはその液体も取り込み溶かそうとする。

 その直後、ブルーミディアムスライムに変化が訪れる。

 白い結晶状の物が表面に現れたのだ。

 その正体はえん

 水風船の中には石鹸水が入っており、スライムの酸と石鹸水のアルカリが中和を起こして塩が生成されたのである。


「ブルースライムで試したから大丈夫だとは思ってたけど、ちゃんと出来て良かった」


 その後も、ブルーミディアムスライムの突進を躱しては水風船を投げ付け、を幾度も繰り返す。

 その都度、ブルーミディアムスライムの表面が塩で覆われていく。

 加えて徐々に体積を減らしていった。

 やがて元の半分程の大きさになり、動かなくなった頃合い、


「オラッ!」


 ブルーミディアムスライムだった物に対して棍棒を打ち下ろした。

 刹那、ブルリと躰を震わせたブルーミディアムスライム。


「やばっ! 最後の抵抗か!?」


 俺は焦った。

 だがそんな事はなく、ブルーミディアムスライムはそのまま霞へと消えた。

 直後、


「うおっ、あ、熱い。何だこの熱さは・・・」


 急な発熱、続いて強い眩暈迄感じ、思わず膝を付く俺。

 それは五秒近くに及んだ。


「・・・ステータス大幅上昇の影響か」 


 では早速、結果を見てみよう。


「御開帳~」


 スマホのアプリを起動した。


氏 名:一番 一いちばん はじめ

種 族:人族

レベル:5(+2)

職 業:ノービス1

体 力: 70/ 70(+49)

魔 力: 70/ 70(+49)

強靭性: 14(+7)

耐久性: 14(+7) 

敏捷性: 14(+7)

巧緻性: 14(+7)

知 性: 14(+7)

精神性: 14(+7)

経験値: 34(+21)

討伐数: 14

称 号:  -

DDR:  F

スキル:攻略データベース


 おお、レベルが一度に二上がった!

 しかもステータスが倍増している!

 当然トータルステータスポイントも倍増!

 これは確実に剛田を抜いたな。

 次の席替えが楽しみだぜ。

 もっとも、新入生合同合宿を生き延びたらの話だけどな。


 しかし、ブルーミディアムスライムを倒したら経験値が二十一も入ったのか。

 これでレベル七じゃなければ暫く狩り続けたのにな。

 残念無念。

 ステータス大幅上昇特典を確実に得る為とは言え、行動が著しく制限される。

 この後直ぐに、レベル八以上の魔物モンスターを探さなきゃ。

 一体どこにいるのやら。

 <攻略データベース>さん、教えて~。

 何てな。


 しかし、ゲーム制作陣よ。

 これからモブキャラの意地を見せてやるぜ!


――ぐぅぅ


 腹が鳴った。

 締まらないねぇ。


「寮に帰るか・・・」


 寮に帰った俺は夕食を摂る。

 少し早めだったからか、顔見知りは皆無だった。

 夕食後にもダンジョンエントリーし、二時間弱程スライムを狩った。

 経験値は得られなくとも、ジョブレベルを上げる為には戦闘経験が必要だからだ。


 それでも今日は当初の予定より早めに切り上げた。

 午後九時には寮に戻り、風呂に入る。

 その後、転生系ラノベによく出て来る『魔力を感じろ』をやってみた。


「体の奥に熱いのを感じる。こ、これが魔力?」


 言ってみたかったので言ってみた。

 ただ、<攻略データベース>から得た動画によると、効果が全くない訳ではなさそうだ。

 コメント欄に『攻撃力、防御力が上がった気がしました!』が幾つもコメントされていたので。

 サクラじゃないことを切に願う。

 それに<攻略データベース>が挙げた魔力効率利用ランキング一位は魔纏まてんスキルだった。

 何でも文字通り魔力を纏うスキルの事らしい。

 古い漫画で言う所の『チャクラ』とか『気』かな。

 それだけで強いと確信できる。

 ならば駄目元でも試してみるしかない。

 剣術スキルが無いと剣を振れないのか?

 そんな事は無い。

 ならば、魔纏スキルが無いと魔力を纏えない訳が無い。


「内なる小宇宙コスモ、チャクラ的な何か。唸れー!」


 これを飽きるまでやると一日のルーティン終了、お休みなのだ。

 凄惨な死に様から僅かながら離れられた気がする。

 今夜は良い夢が見れそうだぜ。




~~~~~~~~~~~~~




 ここはとあるゲームの運営センター。

 サービス開始したばかりの没入型オンラインゲームを監視している。


「あれ?」


 システムが何かを拾った様だ。


「どうしたの杉下さん」


「このリージョン限定なのですが、とあるモブキャラのステータスが想定より上がってるみたいで」


「ふーん、どれどれ? あれ? 本当だね・・・」


「どうしましょう?」


「既にゲームは始まってるし、このモブキャラならどうやってもこの後直ぐに死ぬから大丈夫っしょ」


「それもそうですね」


「それよりもサーバ側に問題は起きてない?」


「今のところ、開始直後と言う事もあって問題ありません。中盤以降、エフェクト盛り盛りのスキルを多用され始めると心配ですけど」


「その頃には接続ユーザー数も落ち着いてるっしょ」


「確かにそうですね」


「じゃ、引き続きの監視よろ~」


「らじゃ」

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