第4話 レベルアップした

「ではこれより、皆さんにレベル二へのレベルアップを体験して貰います。尚、この中で既にレベル二以上の人は対象外ですので、ダンジョン入口とは反対側の壁際に移動して下さい」


 と春夏冬あきなし先生が言った。

 すると、E組の半分以上と、


こう、私達も行きますよ」


「ああ」


 F組からは八月一日ほずみ小鳥遊たかなしが壁際に向かう。


「えー、あの二人、レベル二以上なんだ」


「じゃ、遅刻しなきゃE組だったんだねー」


 E組の半数近くがレベル一なら、そうなる。

 もっとも、レベル二以上でもステータスが低ければF組のままだろう。

 が、主要キャラのレベル二以上がモブキャラのレベル一より低いステータスの訳が無い。


「はい、おしゃべりはそこまで~」


 と言ったのは春夏冬先生だ。

 彼女は続けて、


「では順番にスライムを二回倒してもらいます。最初はE組の山田太郎君!」


「はい!」


 いかにも野球でキャッチャーやってそうな男子が前に進み出た。

 名前的にはモブだが・・・判断に迷う。

 そうこうしている間に、春夏冬先生は山田太郎の横に立ち、右手を前に伸ばした。

 そして、


「<召喚>」


 と言ったかと思うと山田太郎の前の床がピカリと一度光る。


「ん?」


 妙な音が微かにしたかと思うと、光の中心にバレーボール大の青い目玉が出現していた。

 本校の管理ダンジョン一層の魔物モンスター、ブルースライムだ。

 もしや、春夏冬先生の<召喚>は階層モンスターを呼び出せるのか?

 それとも任意にモンスターを選んで召し出せるのか?

 今度聞いてみよう。


「山田君、棍棒で強打なさい」


「はい!」


 直後、山田は左打の力強いフォームでフルスイングした。

 ひしゃげた後大きく飛ばされたブルースライムは低い弾道を描く。

 俺の目には一二塁間を抜けた白球に写ったそれは、床に落ちる前に霞と消えた。

 と同時に硬質な何かが床を打つ音が響く。

 俺は思った。

 山田太郎は野球の道に進んだ方が良かったのではないか、と。


「山田君、魔石を拾ってきなさい。それと拾う時間が勿体ないから、次からは上から打ち下ろしなさい」


「はい!」


 山田は言われた通り、ストレートをカットするかのようにスイングし、ブルースライムを倒した。

 妙なこだわり。

 主要キャラか?


「次、七五三 祝なごみ しゅうさん」


「はい!」


 ふざけた名前に感じる。

 が、もしかしたらこいつも主要キャラかも。

 水引の様な、特徴的なリボンしてるし。


「次、中山勤君」


 モブだな。

 その後、適当なモブ判定をしつつ時間は過ぎ、漸く一年F組の番となった辺りで俺に近付く足音。


「いよいよ俺達の番だな」


 と話し掛けてきたのはクラスメイトの剛田 猛ごうだ たけるだった。

 色黒のオールバック。

 地元の東中出身。

 部活は空手をしていたらしい。

 自己紹介を聞いた中では普通っぽかったので、モブ判定している。


「そうみたいだな」


 俺は無難に返した。


「ハジメはステータスがオール五なんだって?」


 いきなり下の名前で呼ばれた。

 格下認定されたのか。

 あ、ステータス的には格下か。

 なら、さんを付けろよデコ助やろう、とすごめないか。


「まぁな」


「って事はトータルで三十ポイントか」


「そうだな」


「俺のトータルは三十九だ」


「!?」


 目が飛び出るかと思った。

 こんなデコ助野郎が俺より九ポイントも上だと知ったからだ。


「そ、それがどうした? た、た、たった九ポイントの差じゃないか」


 俺は動揺を隠す様に言ったが、無理だった。

 ただのモブキャラとの差が想像以上に大きかった所為だ。


「お前、もしかして知らないのか?」


「な、何が?」


「初期のステータスポイントが低いと、レベルアップ時のステータス上昇幅も小さいって事だよ」


 マジかよ・・・

 俺の顔色を見て剛田は嗤う。


「はっ、何だよ。対策知ってるから落ち着いてるのかと思ったのによ。態々話し掛けて損したぜ。今回は俺から話し掛けたけど、お前は話し掛けてくんなよ? 只のモブには用ねぇから」


 と言い捨て、モブ去って行った。

 は、話し掛けんな?

 だ、誰がモブに話し掛けてやるもんか!

 去るモブは追わない主義なんだよ。

 すると、捨てるモブあれば拾うモブあり、と言う訳でもないのだろうが、別のモブが話し掛けて来た。


「一番君、大丈夫?」


「ぜ、全然大丈夫さ。運河うんがさん」


 運河 夜依うんが よい

 席順は三十七だ。

 なので、俺の中では運が良いだけのモブキャラ認定している。

 見た目も派手さは無いしな。

 ま、普通に可愛い。

 そもそも、ゲームって特異なキャラ以外醜悪な容姿は避けるよな。

 だからだと思う。

 って言うか、この子の様な語呂合わせ的な名前を持つクラスメイトが何名もいるのだが、一切誰も突っ込まない。

 これが『設定』の力か。


「スタータスが低いと、DDR《ダンジョンダイバーランク》は上がらないけれど、上がらなくてもダンジョンに入れなくなる訳じゃないから、大丈夫よ」


 そう、DDRが低くても、ステータスが低くても、ダンジョンに入って魔物モンスターを狩れなくなる訳ではない。

 なので、食っていく分に困る事はないのだ。

 逆に言うと、人並み以上の裕福な生活は夢幻となる。

 それはそれで悲しい。

 人間誰しも、夢が見たいのだから。


「次、運河夜依さん!」


「はい!」


 運河は棍棒で二度打ち据え、ブルースライムを倒した。

 他の人は一撃だった気がする。

 もしかしなくとも、スタータスの差か?

 はたまた打ち所が悪かったのか。


「えいっ! やっ!」


 二匹目のブルースライムも二撃。

 ステータスが原因ぽいな。


「次、一番一君!」


「はい!」


 いよいよ俺の番だ。


「<召喚>」


 と春夏冬先生が発した。

 すると、妙な音がはっきり聞こえたかと思うと目の前にブルースライムが現れた。

 俺はそれを、


「ふん!」


 棍棒で強かに打ち据えた。

 一撃で倒せますようにと念じながら。

 結果はクリーンヒット。

 ブルースライムの核と思わしき場所に棍棒がめり込む。

 だが、願いは叶わなかった。


「おらっ!」


 二撃目。

 これもまたクリーンヒット。

 ブルースライムは魔石を残して消えた。


「<召喚>」


 春夏冬先生からのお代わりを頂戴する。

 二匹目も先と同じく二撃必要だった。

 直後、身体が軽い発熱を感じた。

 だが、その違和感は直ぐに治まった。

 もしかしなくともこれがレベルアップの感覚なのだろう。

 魔石を拾い上げ、皆が集まる場所に移動する。

 そしてスマホにステータスを表示してみた。


氏 名:一番 一いちばん はじめ

種 族:人族

レベル:2

職 業:ノービス1

体 力: 12/ 12

魔 力: 12/ 12

強靭性:  6 

耐久性:  6 

敏捷性:  6

巧緻性:  6 

知 性:  6 

精神性:  6

経験値:  2

討伐数:  2

称 号:  -

DDR:  F

スキル:攻略データベース


 うん、確かにレベル二にレベルアップした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る