第26話:阿鼻叫喚
リョクリュウの提案は、山間部の農家にはとても受けが良かった。
農作物の被害額は順調に減っていたが、守りを固めるだけでは、加害獣に対する苛立ちが募るばかりだった。
それが、俺を演じるリョクリュウの提案で、積極的な攻めに変わったのだ。
俺が率いる20頭以上の猟犬が勢子になって加害獣を追い込み、狩ったのだ。
溜りに溜まっていた鬱憤が晴れたようだった。
積極的に加害獣を駆除できるようになって、溜飲が下がったようだ。
夜に行われた歓迎会兼狩猟打上げ会は、大いに盛り上がった。
下戸の俺には、箍の外れた酒飲みの多い歓迎会は苦行の時間でしかなかったが、生産者と猟友会の人達の好意を得る事には成功した。
良くも悪くも、地方は人の繋がりが濃密だ。
家族、親戚、友人、知人に投票を勧めてくれるかは、日頃の行いにかかっている。
生産者の人達は、生活を支える農業を支援してくれる人にはとても好意的だ。
与党第一党が行って来た以上の支援を与えられたら、票につながる。
賄賂に思えてしまう補助金や助成金を増やすのは嫌だが、党が行うボランティアで支援するのなら、俺の良心が痛む事も精神が削れる事もない。
ただ、問題が全く無かった訳ではない。
俺には敵が多く、特にマスゴミの手先が鵜の目鷹の目でつけ回している。
鳥獣被害対策の狩りを始めてから、これまで大人しくしていたのが嘘のように、鬼の首を取ったかのように、動物愛護の視点から叩き出した。
猟犬を軽トラの荷台に乗せて運ぶのはもちろん、猟に携わる人の法令違反を、針小棒大に取り上げて叩き出した。
だがこれは、九州でのマスゴミのイメージを暴落させただけだった。
それでなくても俺への暗殺未遂事件で評判が悪くなっていたマスゴミだ。
一連の報道が私怨による捏造だと、誰もが思った。
テレビの放映権を入札制にするか争っている裁判が不利になるだけだった。
更に九州の生産者を中心に、新聞の購読拒否運動が激しくなった。
マスゴミは最初甘く考えていたようで、動物愛護を強調して加害獣駆除を進める俺と猟友会を叩き続けたが、新聞購買拒否運動は大都市以外の日本中に広がった。
鳥獣被害と動物愛護団体の邪魔に腹を立てていた生産者が、とても多かったのだ。
更に新聞の押し売り被害が次々と裁判沙汰になった。
実はこの裁判、俺を演じたリョクリュウが仕切っていた。
リョクリュウが俺に成りすまして行った指示によって、党の国会議員、都道府県会議員、市町村会議委員が被害者の裁判費用支援を議会に提出して可決されたのだ。
政権与党第一党は、自分達に実害がない限り、連立を組む俺達の頼みを拒否する事はない。
不当な理由で頼みを拒否したら、連立が解消され野党になり下がるのだ。
一度政権を失って泥水を啜った事があるので、政権への執着が激しい。
だから、地方議員に強権を発動してでも俺達に協力した。
マスゴミは自分達の失敗を自覚して、謝らずに誤魔化そうとした。
常套手段の、記事を持ち込んだフリーの記者が間違っていた事にして、金で雇っているアナウンサーに、道義的責任を感じていると言わせて終わりにしようとした。
だが、これまで積み重ねてきた悪行が限度を超えていたのだ。
これまでは報道する側が隠蔽すれば何もなかった事にできたが、ネットの世界となったので、マスゴミの犯罪を隠せなくなっていた。
それなのに、自分達が吊し上げしていた企業には社長以下役員全員に頭を下げたせてきたのに、自分達は社長や役員どころか、番組プロデューサーすら頭を下げない。
そんな態度を繰り返していたので、国民の怒りが爆発した。
これまでテレビ局や新聞社が報道の自由を盾にとってやってきた悪行の数々が、全てネットにさらされた。
時効になっている悪行が大半だったが、中には時効前の悪行もあった。
芸能事務所と組んで、番組に出たい歌手やタレントに性接待を強要していた事が明るみに出て、テレビ局の社長を再び国会に証人喚問すべきだという動きになった。
テレビ局を退社した者が、税務上の問題をネットにさらした。
これを絶好の好機と判断したリョクリュウが、俺に成りすまして財務省の全職員にメールを送ったのだ。
テレビ局から賄賂を受け取って脱税を隠蔽していない証拠に、家族全員の銀行口座を明らかにしろというメールを送ったのだ。
財務省の動きは驚くほど素早かった。
俗にマルサと呼ばれる国税局査察部が、各地の税務署と連携して、全テレビ局と全新聞社に脱税事案の強制調査に入った。
テレビ局と新聞社は、通常の業務が行えないくらい徹底的に調べられた。
脱税の証拠を隠蔽させないという名目で、何にも触らせなかったのだ。
マスゴミの権力を過信した局員や社員が、国税局査察部の制止命令を無視して何かに触れたら、公務執行妨害罪と証拠隠滅の容疑で次々と逮捕された。
当然番組も作れなければ紙面も作れない。
社長以下役員全員に加えて、芸能事務所や俳優歌手芸能人から接待を受ける立場の者、全員が厳しい税務調査を受けた。
建前は税務調査ではあるが、それ以外の隠していた物が山ほど出てきた。
当然だが、その中には枕営業や賄賂の証拠が残っていて、全部押収され表にでる。
取引関係にある芸能事務所にも厳しい税務調査が入った。
芋ずる式に、これまで隠蔽されてきた闇の事実が表にでる。
金の流れから反社組織とのつながりが表に出て、悪質な脱税と共に反社会組織への資金提供でも取り調べを受ける事になった。
これは、テレビ局や新聞社が反社会組織に資金提供をしていた事になる。
更に、テレビ局や新聞社の社長や役員が、有名な女優や女性歌手、アイドルや女性芸能人に性接待を強要していた事も、否定しようのない証拠が次々と表に出た。
腐れ外道どもが、女性が訴えられないように動画や写真を残していたのだ。
女優やアイドルの推し活をしていた人達の怒りは激烈だった。
ネットに性接待を強要したとさらされた、テレビ局と新聞社の社長以下役員が次々を襲撃され、当人を含めた家族13人が殺された。
襲撃犯がネットで英雄視されてしまったので、後に続く者が次々と現れた。
中にはさらされた社長役員の家に放火する者も現れ、性接待を強要した役員は家から逃げ延びたが、同居していた幼い孫2人が逃げ遅れて焼死してしまった。
襲撃は容疑者1人に1度では終わらなかった。
同じ人間が何度も襲撃され、放火未遂事件も頻発した。
ご近所からは厳しく転居を求められ、独立している家族も針の筵になる。
性接待を強要した者がホテルに逃げ込んだら、子供や孫が狙われた。
幼い孫が強姦されるに及んで、嫁が舅を刺殺する事件まで起こった。
息子が性接待を強要したとさらされた母親が、首を吊って死んだ。
性接待を強要した奴の子供と結婚していた嫁や婿は、連れ合いに離婚届を書かせ、子供を連れて警察に保護を求めた。
性接待を強要した証拠がでた屑達の中にも、良心が僅かに残っている者がいた。
自分が行った事を全て書き残して、家族に手を出すのだけは許してくれとライブ配信しながら、大量の睡眠薬を飲んで死んだ。
だが多くの連中が、親兄弟、子供や孫が殺されても、何も感じない。
何も感じないどころか、警察が保護しなかったからだと文句を言った。
本来なら表に出ないはずの文句だが、全てネットにさらされた。
証拠がでて1度は逮捕された社長以下役員達だが、普通なら微罪による提訴を繰り返しても拘留を続けるはずの検察が、自宅から取り調べに通う事を認めた。
社長以下役員達は、安全な留置所から出されるのを拒んだが許されるはずがない。
保護の依頼も門前払いされ、少しでも安全な高級ホテルに逃げ込んだ。
だが、逃げ込んだ高級ホテルの従業員に、性接待を強要されたアイドルの熱狂的なファンがいて、合鍵を使って部屋に入り惨殺した。
もうどこにも安全な場所がないと分かったテレビ局と新聞社の社長以下役員は、これまで行ってきた犯罪を全て認めて、留置所に逃げ込むしかなかった。
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