第4話:近所迷惑
グリーンイグアナを助けて鴉に恨まれてから1カ月経った。
色々あった、本当に色々あったが、もう悩むのは止めた。
割り切らないと精神的に参ってしまう、それくらい色々あった。
グリーンイグアナがとんでもなく賢く、食事とトイレの場所を覚えてくれた。
お陰であまりストレスなく生活できると言いたいが、全く違う。
一階と二階で生活空間を分けるという考えが崩壊している。
ウィンドウズXPの頃からの古いデスクトップパソコンを捨てずに残している。
テン、エイト、XPのデスクトップ3台とイレブンのタブレットがある。
エイトなどは愛用しているテンが壊れた時に、新しいのを買うまでのつなぎ用だ。
それを、グリーンイグアナが勝手に起動させて使っているのだ。
信じられない事なのだが、俺がパソコンを使っているのを見て覚えたようだ。
天才チンパンジーという創作は読んだ事があるが、天才イグアナはない。
創作活動をしていると精神を病むという話を聞いた事がある。
俺も心を病んでしまっているのだろうか、幻覚を見ているのだろうか?
ほんの少しだけ悩んだが、悩むだけ損だと割り切った。
俺が使っているデスクのあるインナーバルコニーとは別の場所に、XP のデスクトップパソコンを置いた机と椅子がある。
予備機として1番使う可能性の高い、エイトのデスクトップパソコンとイレブンのタブレットは、LDKに年中出してあるコタツの上に置いてある。
グリーンイグアナはコタツの上のデスクトップパソコンとタブレットを器用に使っているが、背後にいられるよりはずっといい。
俺が色々諦めてグリーンイグアナに好きにさせるまでは、気がつくと俺の背後にいてジッとモニターを見ていやがったのだ。
草食で俺を襲う事はないと頭では分かっているのだが、中型犬くらい大きな、大嫌いな爬虫類が知らない間に背後にいるのだ、心臓が止まりそうなくらい驚く。
余りにも心臓に悪いので、二階に上がるな背後に来るなと何度も注意したのが、全く言う事を聞いてくれない。
仕方がないので、そんなにモニターが好きなら、俺の背後ではない場所にモニターとテレビの画面を移動させ、電源を入れて映しっぱなしにした。
一階のテレビも電源を入れてみて、二階に上がって来ない事を期待したのだが、グリーンイグアナは寂しがりなのか、必ず二階に上がってくる。
グリーンイグアナの体型では、パソコン机の上のモニターは観難いのか、コタツの上にあるデスクトップパソコンとタブレットに見るようになった。
そのうち、勝手にキーボードを触って好きな画面に変えるようになった。
検索まで使いこなしているようなのだが、気にしたら負けだと思い、確認しないようにしている。
買い物は全てネットスーパーとECサイトで済ませるから、家から全くでない。
相変わらず鴉が家を見張っているが、小窓を割られなければ実害はない。
気にして精神的に参ってしまうくらいなら、忘れて小説を楽しんだ方が良い。
俺はそれで良かったのだが、家の外、他の人達は困っていた。
常に30羽以上の鴉がいる道など、誰も通りたくない。
迂回できる人はいいが、できない人は恐々鴉の下を通るしかない。
緊急の回覧板で署名を求められたが、何人もの人が市役所に相談したり苦情を入れたりしたようだが、俺が調べたように動いてはくれなかった。
地域で署名を集めたが、動いてはくれなかった。
知恵を働かして電柱を所有している電力会社に相談した人もいたようだが、停電リスクのある巣が作られない限り動いてくれないそうだ。
何十万円も使って鴉を追い払うのは厳しいので、多くの人が諦めた。
道を挟んで俺の家の前にある駐車場はガラガラになった。
車で通過する以外、人も自転車も家の前を通らなくなった。
多くの人はそれで何とかなるのだが、自宅の屋根を鴉に占拠されている東隣の山田さんはとても困った。
困るどころか、鴉の鳴き声と視線の恐怖で精神的に参ってしまった。
特に年頃の三姉妹が仕事にも学校にも行けなくなってしまった。
その状況に激怒して動いた人がいた、隣家のお爺さんだ。
奥さんのお父さんなのだが、近くの山中に住んでいて先祖代々農家をしている。
だから、害獣や害鳥の駆除はお手の物だった。
とはいえ畑とは違うので、道に目玉バルーンやテグスを張る訳にはいかない。
だから奥さんのお父さん、三姉妹のお爺さんは積極的な駆除法をとった。
同じように鴉に困っていた御近所を周って許可を取り、大きな爆発音のするロケット花火を放ち、レーザーポインターで鴉を狙った。
相手がカラスなら、これで逃げ出したかもしれないが、相手はもっと狂暴な鴉だ。
逃げるどころか、怒り狂ってお爺さんに襲い掛かった。
お爺さんは鋭い爪で頭を切り裂かれてしまった。
救急車が呼ばれて、お爺さんは緊急搬送された。
何とか助かったそうだが、出血量が多くて危険だったと聞く。
俺が原因なので、とても胸が痛んだ、自責の念からか悪夢を見た。
だが、鴉の復讐はそれだけで終わらなかった。
狡賢く狂暴な鴉は、お爺さんだけでなく東隣の家族全員を襲いだした。
十分に警戒していたから致命傷は受けなかったが、顔を庇った手をえぐられた。
東隣の御夫婦は、被害と窮状をテレビ局に訴えた。
反政府反与党のテレビ局を選んで、行政の失態を大げさに取り上げる主張をした。
政府与党を叩くためなら喜んで偏向報道をするテレビ局がやってきた。
「佐藤さん、佐藤清さん、朝韓テレビです、お話を聞かせてください!
佐藤さん、佐藤清さん、お話を聞かせてください」
インターホンの電源を切っているからましだが、朝から晩まで煩くやって来る。
玄関が壊れるかと思うくらい乱暴に叩いて取材を強要する。
許可していないのに敷地に入り、裏に回って勝手口を開けようとする。
「佐藤さん、佐藤清さん、毎韓テレビです、お話を聞かせてください!
佐藤さん、佐藤清さん、お話を聞かせてください」
偏向報道の手先に使われるのだけは絶対に嫌だ。
元凶になった自責の念はあるが、それとこれは別の話だ。
それに、反政府反与党テレビ局の圧力で市役所が動いてくれるなら助かる。
市役所が警察や猟友会を動かして鴉を駆除してくれれば、それが1番良い。
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