サモン・ダークナイト!!!「えっ、俺?俺は日本のしがないテレワーカーなんですけど」

蒼井星空

クソ召喚者ざまぁ!

「我が祈りに応え、深淵より出でよ!サモン・ダークナイト!!!」

 周囲を魔物に囲まれた男がその手を掲げながら詠唱し、ダークナイトを呼び出したようだ……。


「えっ?」

 そうして呼び出された俺……おかしいな、さっきまで日本っていう国にいたはずなんだけどな。


 俺はあたりを見渡す。

 そこには様々なモンスターの群れが俺の方を睨んでいる。

 また、俺を召喚したと思われる魔術師みたいな黒いローブを着た男と、勝気そうでかなりアダルティな服装の赤髪の女と、気の弱そうな白と青を基調とした服を着た黒髪の女。


 そして、おどろおどろしい剣を持った俺……。

 なんで俺、こんな剣持ってるんだ?


「さぁ戦うがいい!魔物の群れを殲滅せよ!」

 俺を召喚した男が再び俺の方に向かって腕を振り下ろし、戦えと促してくる。

 

「……」

 俺の手が勝手に剣を掲げるが、無理だって。

 刃物なんて包丁とハサミしか持ったことないんだぜ?


「なによこいつ。ヴェルダー様に呼び出されたのになんで戦わないの?(怒)」

 ゲームかカーニバルの映像でしか見たことがないような露出度の高い赤髪の女が苛立ちを隠すことなく文句言ってくる。

 あの魔術師の名前はヴェルダーというのか。


「どういうことでしょうか。まさかヴェルダー様に限って召喚の失敗ということはないと思うのですが、イレギュラーでしょうか?」

 気の弱そうな女は淡々と俺を見ながら何か危険なことを言っている。


「リーゼ、モニカ、すまない。なにか上手くいっていないようだ。もう一度召喚する。おい、お前!魔物の足止めをしろ!」

 露出狂リーゼ気弱モニカだな。理解した。

 理解したけども意味はないかもしれない。


 ヴェルダーが俺に命令を下した途端、俺の足が勝手にモンスターたちの方に向かって進み始めた。

 

 やっ、やめろ!

「*@、*□△!」

 俺は声にならない声を出すが、足は止まらない。

 あんな数のモンスターと戦えるわけないだろ!?

 俺は喧嘩すらしたことがないんだぞ!!?


 

「あいつ、何か言ってるわ。聞き取れないけど。もしかして命乞いとか?ウケる~(笑)」

 ウケる~じゃねぇよ、露出狂!!

 なにこっちを指さしながら笑ってんだよ。

 俺なんかあんなモンスター群にぶつけられたら間違いなく瞬殺だぞ?

 わかる?意味ねぇんだよ!?やめろ!


「感じるのは焦り……でも、あなたは召喚されたのです。召喚主であるヴェルダー様のお役に立てることを喜んで突撃してください。いつものように支援くらいはしてあげましょう」

 無表情で俺を見つめながら分析をしている気弱モニカ

 俺は君を信じているよ。

 支援はまかせるぜ……。

 

「いや、モニカ。キミは聖属性の魔法の準備をしてくれ。次に召喚した魔物をぶつけた後に放ってほしいんだ」

「わかりました(うっとり)」

 おい!!!??

 なにあっさり支援魔法をキャンセルしてるんだよ!

 しかも、お前はヴェルダーの彼女か何かかよ!



 ……なんで支援魔法のキャンセルなんてことが俺にわかるんだ?

 自慢じゃないけど俺は日本のテレワーカーだぜ?


 就職した時からテレワーク。

 研修期間はテレワーク。

 配属もテレワークで、歓迎会もweb飲み会だった。


 まぁ、今そんなことは全く関係ない。

 問題は、俺の歩みが止まらないことだ。

 もうすぐモンスター群に接敵してしまう。



 ……あれ?

 なんでこのモンスターたちは俺に攻撃してこないんだ?

 ただただゆっくり歩いてくる俺なんて、格好の獲物なんじゃないのか?



「我が祈りに応え、天界より姿を現せ!サモン・アークエンジェル!!!」

 そうこうしているうちにヴェルダーの次の召喚が完成したようだ。

 気障ったらしいセリフに、気障ったらしい仕草で天使を呼んだようだ……。

 


 <コスト不足により召喚は失敗しました>


 

 だが、なにも現れなかった……。



 えっ?どういうこと?

 

「なっ……」

「「ヴェルダー様!?」」

 振り下ろした自らの手のひらを眺めて呆然としているヴェルダーと、『信じられないことが起きちゃったわ、ヴェルダー様、いや~んこの世の終わりよ~』みたいな目を向ける露出狂リーゼ気弱モニカ


「くそっ、ならこっちだ。我が祈りに応え、地中より顕現せよ!アースドラゴン!!!」

 今度は地面に掌を向けて詠唱し。それが終わると同時にモンスター群に向けて突き出したポーズを取るヴェルダー。

 アースドラゴンっていうのはアークエンジェルよりコスト低いのか?と心配になったが……



 ぐぉおぉぉぉおおおおおお!!!!!


 出てきた。

 俺の心配は杞憂きゆうだったようだ。

 

 モンスター群が一斉に警戒を強める。

 俺の歩みは止まらない。


「行け、アースドラゴン!ブレス攻撃だ!!!」

 手を縦横無尽に振り回し、様々なポーズや仕草を取りながらヴェルダーが叫ぶ。

 

 ぐぉおぉぉぉおおおおおお!!!!!

 アースドラゴンはすさまじい咆哮と共にブレスを吐きだした。


 「「きゃ~~~~」」

 その攻撃に……いや、違うな。きっとヴェルダーの仕草に黄色い声をあげる露出狂リーゼ気弱モニカ


「*@*@□!」

 その攻撃、俺にもあたるじゃね~かと抗議の声をあげる俺……。


 いてぇーーー!!!!

 


 

 やっぱり直撃かよぉおおぉぉおおおおお!!(怒)



 

 

 俺は正面にいた複数のモンスターにぶつかりながら吹き飛ばされた。

 そして……


 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはデーモンLv92を倒しました>

 なんだこれ?

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはデーモンLv89を倒しました>

 もしかして今ぶつかったモンスターたちか?

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはハイオークLv76を倒しました>

 俺が倒したって言っていいのかな?

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはアークゴブリンLv90を倒しました>

 吹っ飛ばされただけなんだけど。

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはキメラLv63を倒しました>

 俺自身は何を倒したかなんかそもそも見ていないが、いつまで続くんだろう?

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはハイトレントLv72を倒しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトはアイスリザードLv84を倒しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトはゴールドスケルトンLv80を倒しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトはマッドリザードLv87を倒しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトはルインスネークLv102を倒しました>

 多くないか?

 そもそも俺、ラングヴェルトなんていう名前なんだな……。

 

 <同時に倒したモンスターが10体を超えたため省略します>

 えぇ?


 <ダークナイト・ラングヴェルトは1,748,293経験値を入手しました>

 完全にRPGの世界だな……。

 経験値が来たってことは、レベルが上がるのか?

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはLv1→Lv106となりました>

 めっちゃ上がってる~。

 

 <ダークナイト・ラングヴェルトはレベル100を超えたため称号"固定化"を獲得しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトは自分より強いものに囲まれたところから生き残ったため称号"起死回生"を獲得しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトは絶体絶命のピンチから生還したので称号"大逆転"を獲得しました>

 <ダークナイト・ラングヴェルトは自分よりレベルが100も上の敵を倒したため称号"格上殺し"を獲得しました>

 もうよくわからん……。



 そして俺はヴェルダーたちからかなり離れたところに吹っ飛ばされていた。


「素晴らしいですわヴェルダー様♡」

「かっこいいですわヴェルダー様♡」

 

 俺は一応召喚主を探したところ、両腕にまとわりつく露出狂リーゼ気弱モニカに気をよくして進んで行くヴェルダーの姿が見えた。


 

「あのダークナイトはどうなったのでしょうか?」

「どうでもいいでしょ、モニカ。どうせアースドラゴンのブレスに巻き込まれて一緒に散ったんじゃない?あはははは(笑)」


 耳を澄まして聞きとれたのは、俺のことなんてどうでもいいと思っている露出狂リーゼの声だった。

 俺の方こそお前らなんて願い下げじゃい!!!(怒)

 

 

 そのままあいつらはモンスター群の後ろにあった階段を下って行った。

 ヴェルダーがなにか首をかしげていたのが気になるが……。




 俺の今の疑問は1つだ。


 召喚主からこんなに離れても大丈夫なんだろうか?

 


 まぁいっか。

 召喚されたということは何かあったら戻るだろう。


 それまで面白そうだからここを探検でもしてみようかな。

 長きにわたるテレワークで体が訛っていたし、旅行とかにも行かなくなったから今の状況は新鮮だ。


 レベルもモンスター群を構成していたやつらよりも上になってるし、よっぽど下手を討たなければそう簡単に負けたりしないだろう。

 なぜかみなぎる力と自信を感じる。


 召喚されたときから手に持っている剣で、アースドラゴンのブレスで死んだと思われるモンスターを斬ってみたが、まるでバターか何かようにスゥっと斬れた。


 やべぇ!?


 俺、超強くなってないか?






 そう浮かれていた時代が俺にもありました。


 えっ?

 なにがあったのかって?


 今の俺は地面に倒れ伏し、背中を踏みつけられているがなにか?


「面白いものがいると思ったのだが、まだそこまでの力はなかったようだな……」

 

 俺の背中を踏みつけて美しい声を紡いでいるのはこの妖艶な女性……はぁはぁ。

 腰まで届く長く自然にウェーブした銀髪、天使のようではあるが真黒な6枚の翼、透き通るような白い肌、肩が凝ってしょうがなさそうな迫力ある胸、折れそうなほど細い腰。


 俺が中二病全開だった頃に運命のすれ違いによって思い合う勇者と魔王と戦わなくてはいけない悲恋の物語を妄想していたが、そこに登場しそうなザ・魔王。


 ん?当然ながら勇者は俺だ。


 出会ってから頭の中では警鐘が鳴り響いていたにもかかわらず無防備に接近し、気付いたら蹴り倒されて、今に至る。絶賛踏まれ中だ……はぁはぁ……羨ましいだろう?……はぁはぁ。



「そろそろ人間どもがやってくるので少し寝ておいておくれ。その後で遊んであげるから」

 なんて素敵なお誘い……はぁはぁ。

 暴虐なまでの力で俺を持ち上げたと思ったら、俺の顔を覗き込みながらそう言った後、俺は投げ飛ばされた。


「*@△……」

 痛い……。

 

 


 そうしてやってきたのは、なんとヴェルダーたちだった。

 

「ようやく見つけたぞ四天王・デミアルファ!」

 ヴェルダーがいつものように大げさな仕草で魔物を指さして叫ぶ。


「あら、人間の……自殺志願者かしら? わかったわ。ちゃんとはらわたを引きずり出してあげるからね」

 美しい声音なのにセリフが怖い。

 そしてただ立っているだけなのに放たれる恐ろしい魔力……。


「ヴェルダー様~やっちゃって~!」

「ファイトですヴェルダー様」

 心なしか賑やかしの2人の元気もない……『♡』をプレッシャーで消されたのかな?


 

「ふざけるな! この俺、ヴェルダーこそが貴様を倒すのだ!」

 手を振り乱し、唾をまき散らしながら主張するヴェルダーは、そのままの勢いで召喚魔法を唱えた。

 

「我が祈りに応え、深淵より出でよ!サモン・ダークナイト!!!」

 

「*@?」

 現れたのは地面に倒れ伏す俺……。えっ?

 

「えっ?」

 そんな俺を見て呆然とするヴェルダー。


 そもそもあの魔族に手も足も出なかった俺を呼び出してどうする?

 あと、こういうときって、同じ種類の別のモンスターが呼ばれるものじゃないのか?

 なんでまた俺を呼んでんの???

 

 

「あはははははは!!!!」

 そんな俺たちの姿をみてデミアルファは大笑いしている。

 

 

「なにやってんのよダークナイト! 早く立ってヴェルダー様をお守りしろ!!!」

 倒れているだけの俺に業を煮やした露出狂リーゼが叫ぶ。




「っく!サモン・ゴーレム! サモン・エンジェル! サモン・スカルナイト!」


 <コスト不足により召喚は失敗しました>

 <コスト不足により召喚は失敗しました>

 <コスト不足により召喚は失敗しました>



 ……もしかして俺のレベルが上がったから俺のコストが上がったんだろうか。

 よくある話だと思うが、既に召喚した魔物にもコストをつぎ込み続ける関係で、新しく召喚する場合は残りの魔力でやるしかないんだろう。

 これは詰んだのではなかろうか……。


 


「くっ、ダークナイト! そんなところで寝てないでなんとかしろ!」

 ヴェルダーは相変わらず手を振りながら俺に指示してくる。

 そして俺の体は勝手に立ち上がり、デミアルファに向かい合う。



 わかるかな?

 オシッコちびりそうなんだけども。



「すでに倒したものがもう一回召喚されて向かってくると言うのは違和感があるわね。なにか意味があるのか?」

 デミアルファは首をかしげながらヴェルダーの意図を訝しんでいた。

 だけどそれきっと考えてもムダだと思いますよ?



「よし、リリース・ダークナイト! 急げ! 戻るんだ!!!」

 ヴェルダーは前より少し賢くなったのか、腕を振り回しながら帰還の魔法を唱える……


 <ダークナイト・ラングヴェルトのスキル"固定化"によって帰還をリジェクトしました>



 えっ……?

「*@……?」

 相変わらず自分の声が何を意図しているのかわからないが、俺はヴェルダーと一緒にびっくりしていた。



「あはははははは。お前たちは私を笑わせに来たのか?」

 右手に強力な魔力の塊を作り出しながらデミアルファが聞いてくる。



「「ヴェルダー様!!」」

 心配そうな露出狂リーゼ気弱モニカ



 

 きっと俺はこの3人とコミュニケーションを取っておくべきだったんだろうな。まさかこんなことになるとは思わなかったし、今さら遅いが。

 思い返してみれば、"固定化"は『レベル100を超えたため』に取得したはずだ。

 この情報をもとに、ヴェルダーの召喚した魔物をたくさん"固定化"して軍団で挑めばこの美しい魔族を傅かせることもできたのではないだろうか?

 なのにヴェルダーは俺をもう一回召喚して魔力を圧迫してしまっている……。


 いや……俺の方を見て『どうせアースドラゴンのブレスに巻き込まれて一緒に散ったんじゃない?あはははは(笑)』とか言いやがったし、こいつらと一緒に探索できる気はしないけどな。




「さぁ、覚悟はいいかしら」

 魔力を貯めた右腕を差し出してくるデミアルファ。



「(おい、ダークナイト!)」

 そんなタイミングでヴェルダーが神妙な面持ちかつ小声でなにか話しかけてきやがった。こいつまさか……


「(ここは無理だ。お前が盾になれ)」

 ……予想通りだよチクショウ!

 誰がなるか!



 俺はその声を無視する……が、勝手に前に進み出る俺の足……。


「ヴェルダー様!?(涙)」」

 この期に及んで露出狂リーゼ気弱モニカはヴェルダーにもたれかかり、俺に非難するような視線を投げてくる。

 お前ら自分のことに集中した方がいいぜ?

 あの魔力に俺は耐えられる気がしないからな……。



「ダークノヴァ!!!!!」

 そして放たれたデミアルファの攻撃はあっさりとヴェルダーやリーゼ、モニカに加えて俺も飲み込んでいきやがった。

 だから言っただろ?俺を盾にしようなんて甘いんだよ!!!

 ざまぁあぁぁあああぁぁぁあああああああ!!!!!!!

 

 

 視界が暗転する。



 そして……









 

「我が祈りに応え、深淵より出でよ!サモン・ダークナイト!!!」

 強力そうなデーモンと対峙する男がその手を掲げながら詠唱し、ダークナイトを呼び出したようだ……。


「えっ?」

 

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サモン・ダークナイト!!!「えっ、俺?俺は日本のしがないテレワーカーなんですけど」 蒼井星空 @lordwind777

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