説教のあと
結論から言うと、サボっちゃいました。
広々とした訓練場、様々な武器が揃う倉庫、何万冊もが保管されている図書館。
伯爵家ということもあってそれなりに充実していたが、王国一の学園の設備はそれ以上だった。
人も入学式に参列していることもあって人もおらず、イクスのテンションはアゲアゲ。
本を手に取ったり、訓練場で魔法の練習などしていると、いつの間にか入学式が始まってしまっていた。
「……俺が言うのもなんだけどさ、セレシアちゃんのアラームって機能してた?」
「はい、それはもうバッチリと。しかし、ご主人様のはしゃぐ姿を眺めていたいと思い……入学式のために設定した体内アラームはすぐに止めました」
「俺のせいだから変に叱れないのが悲しい」
入学式は講堂の中。
目の前にある扉を開けると入学式に参加できるのだが、明らかに中から聞こえてくる声は真っ最中も真っ最中。
今ここで扉を開ければ注目の的は必然。変に悪目立ちすることは間違いないだろう。
「気にせず中に入ってしまわれますか?」
「そうしたいのは山々なんだが……今入ったら、確実に教師からのお説教間違いなしだろ? 恥かくし面倒臭い」
「教師からの説教はすでに確定事項だとは思いますが」
それはそうだろう。
「私はバッと入ってサッと怒られるのを提案します。鉄は熱いうちに打て……土下座するのも、早い方がいいかと」
「なぁ、怒られる前提は分かるんけど、土下座が前提なのはおかしくね?」
貴族子息が土下座など、何があったのかと卒倒されそうなものである。
しかし、早いに越したことがないのは一理ある。
確かに「すんません、遅刻しました〜」と「すんません、遅刻したんでサボってました〜」とでは、説教の内容に差が出るものだ。
「そういうことなら、さっさと入ってしまおうか! 鉄は熱いうちに打て……だもんな!」
「はい、土下座するのも早い方がいいです」
「だから、なんで土下座が前提なの?」
そういうことで、盛大に遅刻した二人はゆっくりと扉を開け放った───
♦️♦️♦️
「怒られた」
「ですね」
それからしばらく。
入学式が終わり、さらには入学説明会も終わった頃……イクスは学園の廊下を肩を落として歩いていた。
「クソ……覚悟はしていたが、この俺が説教を大人しく受けるなんて恥辱極まりない……辛苦が頭の中を支配してしまっているッ! これは生徒達だけでなく、教師までも実力で刃向かえないようにしなければならないのか!?」
「単にこれからの遅刻を控えればいいかと。ご主人様はこの学園で独裁国家でも創るつもりですか?」
入学説明会が終わって休憩時間に入ったからか、廊下にはチラホラ生徒達の姿を見える。
何を説明されたか、説教を受けていたので何も知らないイクスはとりあえず自分達の教室へ向かっていた。
「にしても、本当に俺の有名っぷりは凄いな……自分で言うのもなんだが、お忍びの勇者が街へ遊びに来たみたいな構図が完成してる」
入学式を途中で入れば、もちろん注目される。
今までの悪名から先程のことがあったので、イクスは絶賛周囲の視線の的であった。
「どちらかと言えば、魔王が人間界に足を運んだ時の構図なのでは?」
「ふふふ……なるほど、確かに勇者よりも魔王の方が似合ってる気がする」
「今から拳で頂点に立とうとしているのであれば、本当にそちらの方がお似合いですね」
しばらく歩いていると、ようやく自分のクラスであろう教室まで辿り着いた。
イクスは扉を開け、ゆっくり姿を見せる。
すると───
『おい、来たぞ』
『ぷぷっ……入学早々遅刻とか、クズな男らしいな。寝坊でもしたんじゃね?』
『ほんと、同じ貴族として恥ずかしい』
教室に入ると、早速そのような声が。
イクスは気にする様子もなく、そのまま空いている席へ腰を下ろす。
「……言わせておいてもよろしいのですか?」
自然と隣に座ったセレシアが顔を覗き込む。
「構わん……どうせ、俺の実力を垣間見れば自ずと黙る。これだけ散々言ってくるやつが黙ざるを得ない状況になる……これほど愉快なことはない!」
「なるほど、かしこまりました。ご主人様のサドっぷりに敬服いたします」
「………………なぁ、俺ってそんなSっ気ある?」
「ご安心ください。私はご主人様のためとあらば、喜んでMになります」
どこが安心なのだろう?
イクスは思わず首を傾げてしまう。
その時───
「おい」
ふと、目の前に人影が射し込む。
顔を上げると、そこには燃えるような紅蓮の髪を携えた一人の美少女が立っていた。
(確か、こいつは……)
クレア・グレイス。
騎士家系、グレイス公爵家の第三女で、ゲームに登場するキャラクターの一人。
攻略するヒロインではないが、主人公と仲良くなって常に仲間として傍にいた。
家柄のせいか、騎士のように規律意識や愛国心が強く、正義感に溢れる女の子で───
「仮にも貴族の一員であるにもかかわらず、初日から遅刻などと……貴様、ナメているのか?」
そんな少女は、額に青筋を浮かべながらイクスを見下ろすのであった。
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