三年後
次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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『カレイドリリィ・アカデミー』は裏ルートが存在しない。
ステータスを上げるには地道にレベル上げを行う必要があり、経験値も実践でしか培われないのだ。
加えて、いくらゲームとは言えどここが現実。
目に見える数値はどこにも存在せず、筋力や体力、知力を上げるためには鍛錬や勉強を繰り返していくしかない。
とはいえ、ゲーム時代の知識があるのとないのとでは雲泥の差。
こうすれば、効率よく魔法を覚えられる。こうすれば経験値が積める。
知識があれば脇道など逸れず、普通に鍛えていくよりも早く誰にも殺されない最強への道のりを歩くことができるのだ───
「ふぅ……ふぅ……」
転生してから三年。
イクスの日課は、早朝からのランニングから始まる。
早く起きて、着替えて、顔を洗ってから。
屋敷の広大な敷地を、使用人達の視線を時折浴びながら走り回る。
(いいぞ……だいぶ体力もついてきた! あのぽっちゃり体型の時とは比べ物にならんな!)
三年も経てば、この世界にも慣れてしまうものだ。
日本では見ることのない景色や常識、あり得ないであろう魔法まで。
未だに慣れたくはないが、必要な時に盗賊や魔物まで逃げずに殺し、順応できるように努力してきた。
これも、イクスの執念が成せる業だろう。死なないためにも、やれることは全てやってきた。
おかげで、運動神経皆無な体型もスリムボディに変わり、好青年一歩手前へとジョブチェンジ。
あと、もう一つ変わったことと言えば───
「ふふっ、一生懸命なご主人様の可愛らしい横顔を毎朝見られるなんて……私は幸せ者です♪」
横を並走している銀髪美人。
三年も経てば、イクスの専属メイドの少女も美しく変わる。
愛らしい顔立ちも綺麗になり、同性までもが羨みそうな抜群のプロポーション。
すでに、街を歩けば誰もが目を惹きそうなほどの美姫にへと成長していた。
「お前は、本当に……朝から、何言ってんの……! ってか、一緒に走ってるのに、なんで……余裕なの……!?」
「あらあらご主人様、あと三周残っていますよ。この程度で息を荒らしてどうするのです? メイドに負けっぱなしでいいのですかやーい♪」
「お、女の子に負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
スピードアップ。
負けじとペースを上げるイクスに、セレシアは小さく笑いながら横を一緒に走っていく。
なお、まったく息は上がっていない模様。
『またイクス様が走ってる……』
『ねー、もう見慣れちゃったよね』
『最近じゃ怒ることなんて滅多にないし』
『それに、あんまり他人に興味を示さないセレシアちゃんがあんなに懐いてるなんて、いつ見ても不思議よねぇ』
通り過ぎたメイド達からそんな声が聞こえてくる。
しかし、走ることに夢中なイクスは気づかず、ただただ女の子に負けないよう足を進めた。
「セ、セレシアに負けているようじゃ、圧倒的強者など夢のまた夢! 俺は頂点に立つ男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「そんなにお強い方が学園に入学されるのですか? ご主人様も、充分に実力が上がってきているように思えますが……」
というより、セレシアとしては「イクスに勝てる同年代などいるのか?」なんて思っている。
剣単体や基礎体力だけで見れば、セレシアの方が上。
しかし、魔法ありの実践ともなれば、すでにセレシアが敵うことがないほどイクスは実力をつけてきている。
それこそ、もう駐屯している騎士全員を同時に相手にしても勝ててしまうほどだ。
セレシアも、自分のスペックがバグっているのは自覚しており、だからこそイクスが危惧するようなことがあるのか疑問に思ってしまう。
「いる! きっと! 恐らく! 多分! そういう奴らに殺されないように、俺は強くなるんだ!」
息を荒くしながら、気合いを入れるように叫ぶ。
「……ふふふ、そんで二度と逆らえないように実力差を教えてやるんだ。大嫌いな俺に手も足も出なかった主人公達の悔しがる姿とか想像しただけで涎が出てくるぜ……ッ!」
「なるほど……イクス様らしい発言。まぁ、ご主人様がそう仰るのであれば、私は付き従うのみです」
残りの三週を走り回り、息を荒くしたイクスにセレシアはタオルと水をそっと手渡す。
「っていうか、今自分の力がどこまでなのか分かってないしな。ずっと鍛錬ばっかりで社交界になんて顔を出してないし、刺されたら嫌だからそういうイベントも逃げてたし」
「私も、ご主人様と同年代の方がどれほどの実力をお持ちなのか具体的には知りませんが、そういう面では鍛錬し続けているのは問題ないかもしれませんね」
「そうだろう、そうだろう……うん、俺の進む道は間違っていない! 残り僅かな時間も、夕日に向かって走り続けるスポコンのように鍛錬あるのみ……ッ!」
「ご主人様、メイドとのイチャイチャの時間も残していただけると助かります」
「男は狼さんなんだ、そんな勘違いしちゃいそうなセリフはやめなさい」
ぶーっ、と。
セレシアは頬を膨らませて不機嫌アピールを見せる。
その姿を見て、タオルで汗を拭きながら───
(セレシアってこんなキャラクターだったっけ? 無表情で淡々としているイメージがあったんだが……なんかここ数年で変わってきたよな)
確かに実力を見せつけたりはしたが、と。
イクスは首を傾げながら頬を掻く。
「それで、ご主人様。本日の朝食なのですが……」
「あぁ、父上と同席だろ? どうせ学園の話とかな気がするなぁ」
「最近のご主人様は大人しいですからね、昔みたいに涙浮かべるまで鞭と鞭の説教とかもないでしょう」
「……あの時は酷かったなぁ。新しい性癖が目覚めていたら、絶対飴ちゃんをくれなかった父上のせいだ」
セレシアはイクスの口元に水筒を当て、さり気なく飲ませてあげる。
なんとも甲斐甲斐しいメイドさんだ。
「強いて怒られるとすれば、貴族らしいことしてないぐらいかな? ずっと剣振ったり魔法書読んでたりだったし……ヤバい、なんか想像したら一気に行きたくなくなった。脳内に鞭と鞭が……」
「怒られてしまった場合は、可愛い女の子の膝枕をご用意しておきますね。デキるメイドは、一緒になでなでもしてあげます♪」
「……あ、うん。デキるメイドは自分で「デキる」って言わないんだけど嬉しいよありがとう」
メイドからの慰めが待っている。
その割には表情が疲れ切っているような気がするが……とりあえずはランニングしたからということにしておこう。
イクスはタオルをセレシアに渡し、屋敷の中へと戻っていくのであった。
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