殿下の処遇
ローズお姉さまから視線を外した陛下は次に隣に座っているフロイデン殿下に視線を向けました。
「息子のフロイデンとデリエント・オリシュ公爵令嬢の婚約は愚息が宣言した通り白紙になった。オリシュ公爵にも話は通してある。詳しい話はここですることはできないが」
「ええ」
フロイデン殿下の婚約破棄に関して、こちらは巻き込まれただけですからね。私たちが王族と現公爵の間で交わされた話の内容を聞く資格はありません。聞かされても困りますしね。
しかし、そうなるとフロイデン殿下は今後どうなるのでしょうか。デリン様の新しい婚約者もどうなるのか。あの方はフロイデン殿下の暴走に巻き込まれただけですし、いい感じのお相手がいればいいのですが。
デリン様は公爵家の令嬢ですし、学業も優秀な方ですから相手には困らないでしょうけれど、状況が状況ですしどうなるのか。
この辺りは陛下がどうにかすると思いますが。
王族と公爵家の間で交わされた婚約は繋がりを強くするための政治的な意味合いが強いものです。それを一方的に破棄する宣言をしてしまったフロイデン殿下は王族どころか上位貴族の中でも相当危うい立場にあるはずです。
あのような場でどうなるのかを一切考えず宣言してしまったフロイデン殿下の自業自得ではありますが、自国の王族、同年の王子となれば不得意な相手であっても少々心配にはなります。
「陛下。それではフロイデン殿下は今後どのようになるのでしょうか?」
「今後そちらに関わらないよう厳重に注意している。おそらくまともに顔を合わせるのは今回が最後だろうな。詳しい処遇についてはまだ決まっていないが、少なくとも今までのように扱うわけにはいかない」
陛下はそう言葉にした後、小さく息をつきそれ以上言葉を出すことはありませんでした。
私たちに伝えることができないからもあるでしょうけれど、本当にまだフロイデン殿下の処遇についてはっきりと決まっていないのでしょうね。
フロイデン殿下は思い込みが激しく、相手の言葉をあまり聞かない方ですが、剣術などの武術においては国内でも有数の実力を持っている方です。そのため、何事もなければ学院を卒業した後、軍の幹部になる可能性が高いと言われていました。
陛下の様子から軍属になることは変わりなさそうですが、所属する場所や立場は変わっている可能性が高そうですね。
「さて、私は執務に戻る。時間がない中呼び出すことになってすまなかった」
「いえ、こちらも事前に対応できず、本当に申し訳ありませんでした」
陛下はそう言うとそのまま席を立ちお父様の言葉に対し手を前に出し、それ以上の言葉はいらないと示すとそのまま部屋から出て行ってしまいました。
出ていくときにフロイデン殿下に小声で何かをつぶやいていましたが、こちらの反応をろくに見ず出ていったところ本当に執務の合間を縫ってこの場に来ていただいたのでしょう。
そして陛下が部屋を出て行ってすぐ、外に待機していたと思われる執事の方が入れ替わりで部屋に入ってくると、私たちに案内する者が迎えが来るまでここで待機していてほしいと言い残すと部屋を出ていきました。
こちらの方も部屋を出ていく際にまだ残っているフロイデン殿下のことを一瞬確認していきました。
なんとなくその反応から、案内してくれる人が来るのはフロイデン殿下がこの部屋から出ていくまで来ないのだろうことは理解しました。
執事の方が部屋から出て行ってから少し。沈黙していたフロイデン殿下がこちらに視線を向けてきました。
しかし、それからどう切り出していいのか迷っているのか、口を開いたり閉じたりしていたので、こちらから声をかけることにしました。
「フロイデン殿下。その頬はどうなされたのでしょうか? 普段武術の授業でも怪我どころか息を乱すようなこともない方ですのに」
会話を始めるため気になっていたことを口に出してしまいましたが、怪我について聞くのはあまりいい切り出し方ではなかったですね。でも、こちらから会話を始めるにも他に話題がありませんし、仕方ないですよね?
「これは父様にやられたものだから心配はいらない。しかし、本当に双子だったのだな」
「そうですね」
私たちが2人一緒にいるところを見てフロイデン殿下は本当に私たちが双子であることを信じたようです。おそらく殿下は実際に自分がも確認したり経験しない限り、信じることができない性分の方なのでしょう。
このやり取りをしている間、お父様は見守っているのか一言も発することなくこちらを静観しています。
ローズお姉さまは静かに私の隣に座っていますが、フロイデン殿下から見えない位置で私の服をぎゅっと握りしめています。服にしわがつくのでやめてほしいのですが、殿下に見られることなくこの場でやめさせることはできません。
これは家に帰ったらしわ取りを頼まないといけませんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます