呆れられるのは当然ですよね

 


 視線のあったデリン様の表情は、あの……なんと言いますか、呆れているが一番近いのでしょうか。怒りを通り越して呆れているというのではなく、最初からこうなることがわかっていた感じの呆れが近いですかね。

 ああやはり、という感じの呆れと諦めが混じったような表情をしています。

 少し、私に向けられる視線に申し訳なさが浮かんでいるようですが、勘違いされていないようなのでよかったです。


「殿下、そちらの方は本当にローズではありませんよ」

「いや、そんなわけはないだろう」


 私だけではなく他の方、特にデリン様からも否定されたことで、殿下も本当に違うのではないかと思い始めたようですね。


「それとフロイデン殿下。この件については陛下に話は通りしてありますか?」

「なぜそのようなことをする必要がある。当事者である私が相手を選ぶのは別におかしいことではないだろう?」


 殿下の返事を聞いてデリン様が周りからもわからない程度にため息をついたことがわかりました。おそらく、この様子が見えたのは、正面にいる私と殿下くらいでしょう。

 

 しかし、殿下は婚約の破棄を簡単にできるような感じで言っていますが、普通であればそう簡単にできることではありません。

 ほとんどの場合、貴族の婚約、婚姻というものは家同士のつながりを強化するために行われるものです。特に王族ともなれば、相手の家柄、国の中での立場などを吟味したうえで決められるもの。ゆえに生まれて早々に相手が決まっているということも多々あることなのです。

 デリン様と殿下も齢3つのときに婚約が決まったと聞いていますので、その例に漏れないのです。

 

 そして、殿下は王族である以上、その婚約にはこの国の王様、陛下の意思が大きくかかわっているわけです。なので、陛下の息子である殿下であってもそう簡単に婚約している相手を変えるということはできないものなのです。


 それを理解しているデリン様……だけではなく、よく見れば他の方の中にも呆れたような表情をしている方もいますね。そういう方たちも含めて、簡単にできないことを当たり前のようにできると宣った殿下に呆れ果てているわけです。


 私も同じように呆れたいところですが、立ち位置が悪いので、出来る限り顔には出さないよう努めています。


 ああ、胃が痛い気がしてきました。


 デリン様の発言で私が意図せずここに出てきたことを理解したのか、会場中から私に対する哀れみの視線が集まり始めました。


 その視線に何とも居たたまれない気持ちになり、すぐにこの場から逃げ出したい気持ちを抑えながら、呆れ顔をしているデリン様に対して視線で助けてほしいことを伝えてみます。もとより察しの良い方なのでおそらく視線の意図を理解してくれるはずです。


 そして私の視線に気づいたデリン様はやれやれといった感じでため息をつくと左腕を少し上げ、会場の端に待機していた王宮関係者をこの場に介入させる指示を出しました。


 できるなら、すぐにそうして欲しかった。

 ですが、そうしてしまうと殿下の考えがわかりませんし、私が殿下に同意しているかもわかりませんでしたから、仕方のないことだとあきらめるしかありません。

 でもやっぱりもう少し早くしてほしかったです。デリン様。


 デリン様の指示を受けてすぐに待機していた王宮の方。あまり顔色がよくありませんので、もしかしたら殿下の付き人として参加していた方でしょうか。その方がすぐに殿下の元まで駆け寄ってきました。

 そして流れるように私の隣に立っていた殿下の身を確保し、すぐに会場から殿下を退出させるために出入口の方へ移動していきました。


「おい!? 何をする!」

「申し訳ありませんが殿下。一度この場から退出をお願いします」

「なぜだ!?」

「理由は後程説明いたしますので、とにかく今は黙っていて下さい。本当にお願いします」


 羽交い絞めにされ無理やり会場から移動させられている殿下が抵抗していますが、殿下の付き人たちは有無を言わせぬ態度で殿下を会場の外へ連れ出していきました。


 そして、殿下が会場から退出してそう時間も経たないうちに今回の夜会は閉会ということになりました。


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