【短編】ある勇者は、魔王を捕まえました【ファンタジー/ダーク】
桜野うさ
第1話
その日、光が落ちて来て、すべてを奪った。
一夜にして俺の村全部が灰になった。まるで、最初から何もなかったみたいに。ずっと後になって、それが「魔王」と呼ばれる存在の仕業である事知った。絶対に許さない。必ず「魔王」を殺してやる。
空っぽになった心の中に、小さな焔が灯った。これで俺はまだ、生きていられる。
※※※
「勇者様に永劫の繁栄あれ!」
豪華絢爛な装飾の施された城内は、夜遅い時間だと感じさせないほどに明るかった。整然と陳列されたいくつもの大きな白いテーブルの上には、高価でめずらしい食材を使った料理が隙間無く並んでおり、数百は軽く超えるだろうこのパーティーの参列者は、談笑しながら料理を頬張っていた。人々の脅威であった魔王が死んだ。それを祝ってのパーティーがこれだった。
祝いの席の主役は、魔王討伐を果たした勇者――レオン・セイデリア。彼は、人垣から離れた場所で所在投げに立っていた。
「勇者」
レオンは背後から聞き覚えのある声で呼ばれ振り向いた。そこにいたのは、パーティーの主催者であり、レオンの住む国の王グスタフである。
「楽しんでいるかね?」
「はい、我が国王」
レオンは唇の端を上げながら、声の主に向って恭しく頭を垂れた。
「それは良かった。主役の君が楽しまなければ意味が無い」
グスタフの鋭いダークグレーの瞳が、レオンを射抜くように見つめた。男はもう五十過ぎだったはずだが、精悍さの衰えない眼力にレオンは畏怖の念さえ感じた。この眼光のせいで、レオンは国王が苦手であった。
パーティーの参列者に豪勢な食事を出せるほど国が潤っているのは、一重に国王の戦争の腕のお陰である、と、仲間の魔導師が興奮気味に話していたのを前にレオンは聞いた。
「アリシア」
グスタフが後ろを振り返り名を呼ぶと、後ろから華奢な若い女が出てきた。グスタフの一人娘だった。
「勇者に旅の話を聞きたがっていたろう、聞かせてもらいなさい」
「はい……お父様」
消え入りそうな声でそう言うと、アリシアはレオンにお辞儀をした。その拍子に真っ白なドレスの裾が軽く揺れた。
レオンはアリシアとは何度も会った事がある。しかし、印象が薄すぎて顔を覚えられず、毎度初対面の様な気にさせられた。
「さて、君のお仲間にも挨拶をしないといけないな。すまないが私は席を外す。後は若い二人で楽しみなさい」
グスタフは、にぃ、と笑うと、踵を返し人垣の中に消えた。レオンは内心溜め息をついた。グスタフはアリシアと自分を結婚させようとしているのだ。
「こうして再び姫君にまみえる事を神に感謝いたします」
表情は笑みを作ったままで、レオンはアリシアに向って空々しい台詞を吐いた。
「私は貴方の無事を信じておりました。正義の使者様を無残な目にあわせるなど神のする事ではありませんもの」
アリシアは上品に微笑んだ。相変らず意思を持たない人形みたいだ、と、レオンは心中で毒づいた。彼女の台詞はすべて父より仕込まれた物だ。
「世の安寧のため、自ら危険を冒して魔王を倒してくださった貴事、感謝しきれませんわ」
レオンは唇を噛み締め、胃が競りあがって来そうになるのを耐えた。何も知らないアリシアの台詞が耐え難い物であったからだ。アリシアだけではない。この城内にいる者全て、レオンの本心を知るものはいなかった。
「……勇者様」
レオンは勇者と呼ばれるたびに、苦虫を噛み潰したような気持になる。
「何でしょうか姫」
「魔王は」
アリシアはか細い声をさらに細くさせて言葉を紡いだ。
「魔王は本当に死んだのですね」
レオンは自分の片眉がぴくりと動いたのを感じた。
「はい」
アリシアはレオンの返答を聞き、元々青白かった顔をさらに蒼白にさせた。
「何故その様なご質問を?」
「……まだ、信じられなくて」
アリシアは眼を見開き、唇を震わせ怯えた様な表情をした。瞳の色こそ国王と同じダークグレーだったが、父親とは似ても似つかぬ弱々しい眼光だなとレオンは感じた。
震えるアリシアの唇は、なかなか次の句を告げようとはしない。暇を持て余し、レオンは視線を壁の時計に持って行った。時計は九時半過ぎを指していた。
「姫、今日はもう失礼させていただいてよろしいでしょうか」
「もうお帰りですか?」
「申し訳ございません。家に残してきた幼い妹が心配で」
「まぁ、それは気が付かず……」
アリシアは手を二度叩いた。するとすぐに若い男が三人ほどこちらにやって来た。
「勇者様がお帰りです。すぐにお土産の用意を」
「畏まりました」
即座に男たちは四散した。
「勇者様、またお話をお聞かせくださいね」
アリシアは空虚な笑顔をレオンに向けた。
森は鬱蒼と茂っており、この時間になると不気味な場所になった。
この森の中にある簡素な建物で、レオンは妹と二人で慎ましい生活を送っていた。
勇者になった後、国王から王都に家をやると言われたがレオンは断った。人の少ない場所で妹と二人で静かに過ごしたかったからだ。
彼の住む家を、国の勇者が住むにはあまりに質素な家だと人は言うが、ずっと貧しい村で過ごしてきたレオンにとっては質素な家の方が落ち着いたのだ。
「ただいま、シャリー」
木製の扉を開き、中に向って声をかける。一歩部屋に入ると、ひんやりとした空気が頬を撫ぜた。すぐに妹の姿を見つけ破顔する。
「遅くなってごめん、寂しくなかったか?」
「うん」
妹は小さく頷いた。
「お土産があるんだ。城で貰ったご飯。食べる?」
「食べる!」
レオンが小さなテーブルの上に包みを広げ、中の物を並べる様をシャリーは嬉しそうに見ていた。レオンは、妹が喜ぶのを見るのが何より好きだった。
「好きに食べて良いよ」
包みの中からパンとチーズを取り出しながらそう言うと、シャリーはおずおずと果物に手を伸ばした。レオンは妹を肩越しに見やりながら、下に降りるため階段に向った。
「ご飯、持って来たよ」
暗い地下室は上の部屋の中よりもずっと冷たい空気を纏わせていた。歩を進めると、薄ぼんやりした輪郭が目に入ってくる。さらに近づくとそれが人の形をしているのがわかった。
「いくらお前だって腹くらい空くだろう?」
レオンが魔法で小さな炎を呼び出し、壁にかかっている灯篭に火を灯すと、目の前の男は目を細めた。
「魔王?」
枷で体の自由を奪われたその男の体は、生きているのが不思議な程に傷ついていた。元々は貴族然とした衣装も、今では見る影も無いくらいにぼろぼろだ。だが男の眼光は未だ死んではおらず、今にも飛び掛ってきそうで、肉食獣の瞳を思わせた。
「警戒しなくても毒なんて入ってない」
レオンは先ほど持って来たパンとチーズを側にあった棚の上に置いた。
「手、解いてあげるよ。どうせその怪我じゃ動けないだろ?」
「……何故、殺さなかった」
魔王との戦いの時、レオンは仲間達に魔王の手下の相手をさせ、一人で魔王の元に向った。レオンは魔王が動けなくなるまで傷を負わせたが、殺さず、誰にも気づかれないようにここまで運んだのだ。誰もレオンの「魔王は死んだ」と言う言葉を疑いもしなかった。
「あの場で殺すなんてもったいない」
レオンは魔王に笑みを向けた。レオンが勇者になったのは正義感からではない。魔王を自らの手で殺すために生きてきた結果、たまたま勇者と呼ばれただけだ。
勇者の立場は魔王を殺すために都合が良かった。だからこれまで理想の勇者を演じて来たけど、それももう終りだ。勇者として復讐するのでは意味が無い。一人の人間としてとして復讐してやるのだ。
「嬲るために生かしたか、勇者のくせにいい趣味だな」
レオンは魔王に顔を近づけ、鋭い眼光放つ瞳をじっと見つめた。
「俺は勇者じゃない!」
魔王もレオンから瞳を逸らさなかった。
「……確かに、ただの勇者はこんな真似せんな」
にやり、と魔王は笑う。
※※※
――光が空から降ってきた日、レオンは仕事のため、家のある村から離れて町に来ていた。
町の人々が口々に騒ぐのを聞き、レオンは空を見上げた。その目に写ったのは、光がレオンの住んでいる村へ落ちていく光景だった。美しい、と、目に写る景色に一瞬見とれた。しかし光の雨降った一帯が炎の海に包まれた時、レオンは正気に戻った。
気が付くと、レオンは仕事など放り出して村まで駆け出していた。
村に近づくにつれ、酷い臭いが濃くなる。生きている人間が見つからない。何処を見ても煤けた肉塊の山だ。人が焼ける臭いとはこういうものかと、レオンどこか冷静に感じていた。
家は無残にも壊れ、瓦礫のあちらこちらに血液が付着していた。吐き気を堪えながらふらふらと歩き回った。
「父さん……母さん……シャリー」
レオンは自分の家を目指した。すでに家は瓦礫の山になっていた。
瓦礫を掘り返したレオンが見たものは、父と母の死体だった。涙は出なかった。必死で妹の姿を探した。
気づいた時には町の病院にいた。いつの間にか倒れていたらしく、心配してレオンを追いかけてくれた仕事仲間が助けてくれたのだ。
朦朧とする意識の中でレオンは部屋の端に妹の姿を見た。そこで彼は安堵し、再び深い眠りに落ちた。
※※※
「……ここに来ちゃ駄目って言ったろ」
レオンが物音に振り向くと、妹のシャリーが立っていた。
レオンは魔王の前に立ち、妹を魔王から隠すようにした。傷だらけの魔王の姿は妹には刺激が強すぎる。
「さ、戻って」
優しい声色でレオンは言ったが、妹は一向に動こうとしなかった。
「一人でいるの怖い」
「さっきまで留守番してくれてたのに?」
「でも、怖い……」
仕方のない奴、とレオンは口元に笑を浮かべる。
「わかった、俺もすぐ行くよ。もう少しだけ待っててくれないか?」
「嫌!」
甲高い声でシャリーは叫んだ。シャリーがここまで駄々をこねるのは珍しかった。
「……今日ね、一人でいた時、お兄ちゃんがどっかに行っちゃう気がしたの」
レオンは今にも泣きそうな妹を抱きしめた。
「俺がお前を置いて何処かに行くわけないだろう?」
魔王に復讐を果たしたら、妹と二人で静かに暮らす事だけを願ってここまで来たのだ。
「母さんたちを殺した奴をやっつけたら、もうお前の側から離れるもんか」
「本当に?」
「うん。だから今だけ、ほんの少しだけ待っていてくれないか?」
妹の顔は依然翳っていたが、無理矢理笑って見せてくれた。
「わかった、待ってる」
ぱたぱたと可愛らしい足音を立てて、シャリーは上へと戻って行った。レオンは再び魔王の方に視線をやった。
「どうやって殺そうかゆっくり考えようと思ったけど……妹が悲しむから今すぐ殺すね」
魔王は硬く唇を結び、何も言おうとはしなかった。
レオンは懐からナイフを取り出し、躊躇無く魔王の首筋に持って行った。やっと念願が叶う。レオンは満たされた気持ちだった。しかしその気持ちとは裏腹に、胸の奥がきゅうと締め付けられるのをレオンは感じた。
「そろそろ踊らされている事に気づいたらどうだ?」
不気味な程楽しげに魔王は笑った。
「このままではお前も奴の手駒だぞ?」
「奴?」
「現国王だ」
嘲笑う様な口ぶりで魔王は続ける。
「あんな者に国を任せていては滅びは免れない。私は奴から国を守るために反旗を翻したのだ」
魔王の冷静だった口調が、少しずつ熱を帯びていく。
「この国で戦争が絶えないのは、国王の欲望のせいだ。あれは欲しいものは全て手に入れなければ気がすまない男だ。土地も、力も、権力も。全て手に入れるために戦争を起こす。自らはけして玉座から動こうとしないくせにな」
怒りを吐き捨てる様な物言いだった。
「随分と詳しいね」
レオンがそう言うと、ぴたりと魔王は話すのを止めた。しかし息苦しそうな表情で、意を決したように再び重々しげに口を開いた。
「私はあの男の部下だった。あの男に力を所望され、乞われるままに剣と魔法の腕を振るっていた」
「お前は人間なのか?」
魔王はきっとはじめから魔王という存在なのだと思っていたレオンにとって、それは驚くべき事実であった。
レオンは、ある時忽然と姿を消した国王の優秀な参謀の噂を思い出した。
「エリアス・オールストレーム……」
魔王の顔色が一瞬変わったのをレオンは見逃さなかった。
「国王の参謀が何故魔王なんかに……」
「……国王にはめられたのだ」
ゆっくりと、魔王――エリアス――はレオンに視線をやった。
「国王は私を魔王に仕立てあげ、己が国の結束を固めようとした」
レオンは驚きを隠せなかった。国王に対して何か一物ありそうだと感じてはいたが、国民全てを騙すような真似をする事をする男だったとは。
「勇者よ。本当に倒すべきは悪の化身は国王だ」
エリアスはレオンを見据えた。
「私と手を組まないか? 貴様と私が手を組めば国王を倒す事も可能だろう」
「……ごめんだ」
「国王が死ねば戦争は減る。結果的にお前も得をするだろう?」
「そんな事、どうだって良い」
レオンは楽しげに、喉の奥で笑った。
「俺の目的はお前を殺して復讐を果たす事だ。それ以外はどうだって良い」
「……これでは勇者どころか狂人だな」
「狂わせたのは誰だ。お前に村を消さなければ俺は正気でいられた」
「村?」
エリアスは過去に意識をやり、何とか記憶を辿ろうとした。
「お前の光魔法で滅ぼされた村だ!」
「ああ……あれか。貴様の村は、国王軍のために武器の製造を行っていた。殺傷能力の高い武器が開発されたと聞き、戦力を殺ぐために村ごと消させて貰った」
「嘘だ。俺の村は武器なんて作ってない」
「お前が知らないのも無理はない。あそこには何も知らないただの村人も混じっていたからな」
「関係無い人間を巻き込んだのか」
「誰が無関係な人間かを調べるのは時間がかかる。調べている間に国王に私の計画がばれる。多少の犠牲は仕方あるまい」
エリアスは悲痛な表情を浮かべたが、レオンには人の事を駒のようにしか考えない人間にしか見えなかった。
「俺はお前を絶対に許さない。絶対に殺してやる」
「私を殺して、貴様に何が残ると言うのだ」
「妹と幸せに暮らす事が出来れば他には何も要らない」
レオンは先ほどシャリーが去って行った方を見つめた。エリアスはそんなレオンの様子に眉を顰めた。
「貴様の意思は変わらないのだな」
レオンは答えなかった。
「……そうか。残念だ」
眩い光にレオンは目が眩んだ。光が強すぎて何も見えない。耳は煩い程に破壊恩音を捉えていた。
やがて光は止み、レオンは何が起こったのか理解できた。エリアスがあの時と同じ光の魔法を使ったのだ。
家は無残に破壊され、瓦礫と焦げ臭い臭いだけが残った。
レオンにとっては大した攻撃で無かったために痛みは感じなかったが、ただ妹の事だけが気がかりだった。
「シャリー……シャリー!」
レオンは夢中で叫んだ。
「……しぶとい奴め」
エリアスは毒づいたが、その体は立っているのがやっとの様に見えた。レオンはエリアスなどには目もくれず、妹の姿を必死で探した。
「お兄ちゃん」
レオンは一目散に妹に駆け寄った。
「怪我、してないか?」
「うん」
「そうか……良かった」
「大丈夫よ。私は簡単に死んだりなんかしないわ」
シャリーはレオンに笑いかけた。
レオンは冷たい目つきでエリアスを睨んだ。
「まだそんな力があったのなら、早く始末しておけば良かった」
エリアスは息をつきながら、それでも不敵な笑みを浮かべた。
「貴様に私は殺せない。貴様は貴様が思っている以上に弱い」
レオンは手を空中に翳し、剣を召還した。
「俺に負けたくせによく言うよ」
「貴様が弱いのは心だ」
シャリーはレオンの腰をきつく抱き締めた。
「俺はお前を殺して、妹と二人の静かな生活を手に入れる。お前を殺すのなんてわけない」
「妹など何処にいる」
エリアスの声に、レオンは視線を下に落とした。
「シャリー?」
先ほどまで抱きついていた妹の姿が忽然と消えていた。
「……貴様の家にははじめから貴様しかいなかった」
「嘘だ」
レオンは辺りを見回した。あるのは瓦礫と灰だけだった。
「幻覚を見るなど、心が弱い証拠だ。貴様には縋れるものが必要なのだ」
光が落ちた後の村の凄惨な風景、人の焼ける臭い。レオンの中では様々な過去の記憶が呼び起こされていた、
最後に自分の家だったものに張り付いていた黒い消し墨のイメージが現れた時、レオンはその場に膝をついてしまっていた。
消し墨は前方に向かって手を伸ばす子どもの姿をしていた。その子どもは……
「貴様に縋るものを与えてやれるのは私だけだ。共に国王を倒そう」
よろよろと拙い動きで、レオンは立ち上がりエリアスを見た。
「……それがお前の生きる理由か」
「これからは我々の生きる理由となる」
「わかった……魔王、俺に生きる理由をくれないか?」
※※※
暗い森の中をアリシアは走っていた。ドレスを翻し、息を切らせ、アリシアはレオン・セイデリアの家を目指していた。
眼前に広がる光景に、アリシアは驚きを隠せなかった。
そこは勇者レオン・セイデリアの家があるはずの場所であった。しかし、今は瓦礫と焼け野原が広がるだけである。地面の草は消し墨になり、周辺の木も失われていた。
「勇者様!」
アリシアはか細い声で懸命に叫んだ。
「勇者様! 何処にいらっしゃるのですか?」
アリシアは焼け野原を歩いた。焦げ臭い臭いが鼻腔を擽った。つまり、この懺悔機はつい最近起こされたものという事になる。
優に数十分は森を彷徨ったアリシアの目の前に、大きな池が現れた。そこに、一つの影があった。それは人の形をしている。まだ子どもと呼べる年齢のようだった。
「勇者……様?」
雲に隠された月が顔を覗かせると、影の主が誰であるかわかった。
アリシアはレオンに駆け寄った。レオンは全く反応を示さなかった。
「お探ししましたわ、勇者様」
ゆっくりとこちらを振り返ったレオンの姿を見て、アリシアは思わず声をあげそうになった。レオンの服は血に塗れていた。
「その格好は……」
「そんな事より、俺に何か用があって来たんじゃないのですか?」
レオンは無表情でそう言った。
「貴方に魔王の事をお伺いしたくて」
相変わらず全く表情を変えないレオンの姿にアリシアは恐怖を感じていた。
しかしここで足を竦ませてはいけない理由が彼女にはあった。だからアリシアは、勤めて平然を装おうとした。
「魔王は……本当に貴方の手によって殺されたのですか?」
「エリアス・オールストレームならそこです」
レオンは池を指差した。
「そんな……」
「アリシア王女は。魔王の正体を知っていたのですね」
青ざめた顔の女は、力なく小さく頷いた。
「父を止めることが出来るのはあの方だけでした。だから私はあの方を手伝い……」
レオンはここで初めて笑みをアリシアにくれた。
「安心してください。国王なら俺が止めましょう」
「勇者様……何故?」
「エリアス・オールストレームより話を伺いました」
アリシアにとって願っても無い話だったが、彼女の心臓は危険信号を告げていた。
「ところで姫、俺はもう勇者ではありませんよ。エリアス・オールストレームより生きる理由を貰いましたからね」
「それはどう言う……」
「あいつの代わりに俺が魔王になったんです」
そう言い放つレオンに、アリシアは底知れぬ恐怖を感じた。
この日、勇者と魔王が死んで新たな魔王が生まれた。
【短編】ある勇者は、魔王を捕まえました【ファンタジー/ダーク】 桜野うさ @sakuranousa
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