乙女ゲーのざまぁされる馬鹿王子に転生したので、死亡フラグ回避のため脳筋に生きようと思う。婚約破棄令嬢と欲しがり妹がヤンデレるとか聞いてねえ!

東夷

第1話 別れ話

「智くん、私たち別れよ……」

「なんだよ……いきなり別れようなんて」


 俺の彼女、井澤和葉とカフェでお茶をしていたら、別れ話を切り出されてしまう。


 長い黒髪に鼻筋の通った顔。彼女は痩せている上、肌と唇の血色はあまり良いとは言えず、「ちゃんと食べているか?」が俺の口癖となっていた。そんな風にどこかさちの薄そうな和葉に俺は庇護欲をくすぐられかれていた。


「せめて理由を言ってくれよ……」

「智くん……鍛え過ぎなんだよ……」


 和葉は罰が悪そうに俺から視線を逸らす。鍛え過ぎが原因で別れるとか意味が分からない。


「いや、分かんねえよ! 和葉が逞しい男の子が好きって言ってたじゃないか!」

「う、うん……それはそうなんだけど……」


 ストローのビニール袋をいじって、口ごもる和葉。


「智くん……気をつけ出来ないでしょ! 友だちの彼氏でそんな人……一人もいないもん!」


 発達した僧帽筋と上腕三等筋により俺は気をつけをしようとしても腕がまっすぐにならないようになってしまっていた。


 和葉と付き合い出した頃の服を着ようものなら、ピチピチ過ぎて咳やくしゃみをしようものなら瞬時に破けてしまう。


 気をつけできないのは、ある意味トレーニーの勲章だと思っていたのに和葉にとって、それは別れの理由になってしまうほど堪えられないことだったらしい。


「じゃ、智くん……明日からは井澤さんでお願いするね……」

「……」


 空になったドリンクのカップを持った和葉は立ち上がりながら言った。


 五年も付き合った彼女から人間関係のリセットを宣告されて、俺は俺は無言になる。ゴミを捨てて、何事もなかったようにカフェを去る彼女の姿をただ見つめることしかできなかった。



 和葉に別れを切り出され、ぼこぼこに殴られKOされたあとのような足取りでなんとか自宅の前まで戻ってくる。


 社宅のネームプレートに書かれた岡田の文字……まったく変わり映えしないのに今日はその左右対称の文字がふにゃふにゃに歪んでいるように見えた。玄関のドアを開けると見覚えのあるダークブラウンのローファーが置いてあった。


 振られたことを罵られるんじゃないかと思いつつも、覚悟を決めてリビングへと足を進める。


「ただいま~」

「おかぁ~」


 精いっぱい平静を装い、ブラウスにチェックのプリーツスカートのJKに声をかけると、JKは携帯ゲーム機の画面に夢中になりながら、若者特有の緩いあいさつを返してきた。


 紺色のブレザーとソックスはソファーの背もたれにかけられていている。皺になると思って、ブレザーをハンガーへかけてやると彼女は画面を見つめながら右手でサムアップしていた。


 彼女は俺の歳の離れた妹のめぐみ、今年で高校二年になっている。ほんのこの間まで、つるぺただったのに成長著しく胸元やおしり、太股は大人の女性へと蝶のような羽化を遂げようとしていた。


「愛……また俺ん家でゲームしてたのか」

「うん、母が家でゲームしてるとうるさいから。おにいのとこでゲームするのが一番落ち着く」


 だが中身はまだまだ子どもなのか、愛はソファーへうつ伏せに寝そべり、足をぱたぱたさせている。ソックスを脱いだJKの生足……長い足指に整った足底は


 えっ!?


 俺は思わず息を飲む。ペロンとスカートがめくれ、愛のおしりとおパンツが露わになったからだ。


 見た目こそギャルっぽいのに豹柄とかじゃなく、純白だなんて……。


 おパンツの足ぐりに食い込んだおしりは我が妹ながら喉を鳴らしてしまうほど、俺を緊張させていた。


「鍛えんの面倒~、でもDLCパック高いし~」


 愛は見えていることに気づいていないのか、画面を見ながらぶつぶつと呟いていた。


「どこかに優しくて、あたしのおパンツ見て興奮してるおにいがお小遣いをくれないかなぁ?」

「気づいてたのかよ……」

「まあ、そゆこと」


 ころんと寝返りを打った愛は蠱惑な笑みを浮かべて、見学料を要求してきていた。


「ほら、受け取れよ」


 紫掛かったセミロングの黒髪に気だるげな三白眼の瞳が俺の姿を移している。目は笑っていないが、口角が上がり、愛がよろこんでいることはすぐに分かった。


 俺が秘蔵のギフトカードを渡すと愛は呪文のような感謝の言葉を返してくる。


「アーザーザース、アーザーザース、ウンタラタカンタラ、アーザーザース」


 最近のJKは変わっているのか、愛が変なのかは俺に知る由もない。


 詠唱を終えた愛は彼女ポジよろしく俺の腕に成長著しいたわわを押し付けながら、訊ねてくる。


 以前よりもデ、デカい……。


「お礼に愛がおにいにちゅ~してあげよっか?」

「い、いや、いいよ」

「嫌がんなし、クラスの男子ならクレクレもんなのに……」


 愛はぶすっと頬を膨らませて、ぷいっと顔を背けて拗ねる。こんな彼女に振られ立て社畜リーマンに現役JKのキスとか……愛が妹じゃなかったら、小躍りしてよろこんでしまうことだろう。


 まあ……年頃のJKが男を連れ込んだりせずに乙女ゲーをしているだけなら兄としては安心なのだが、喪女まっしぐらにならないか心配でもある。


「あ、おにいにニュースがあるよ」

「なんだ?」

「昨日、告られた」

「ふ、ふ~ん……」

「気にならないんだ?」


 限りなく愛にばれないよう平静を装った。


 だが内心は違う!!!


 愛が告られただと!?


 気になる! 妹がどんな男から告られたのか、イケメン? スポーツできる? 勉強できる? 真面目? ヤンチャ? ヤリチンだったら、猛反対!


 血の繋がった妹なのに愛と俺とはまったく容姿は似ておらず、愛がコンビニに行くだけでナンパされたり、店員から連絡先を渡されたりする。街に出ようものなら、芸能事務所のスカウトの集団を引き連れて、実家に帰ってきたこともあった……。


 愛は【俺の認めた男じゃないと絶対に嫁にやらん】モードが発動していた。


「おにい、汗が凄いよ。おにいってホント分かりやすいよね」

「なにがだよ?」

「動揺してんの、丸分かり」

「そ、そそんなことはないぞ」


「いいんよ、それくらいおにいが私のこと心配してることくらい分かってる。告白はちゃんと断ったよ、趣味じゃない子だったし」


 ふ~っと深い深い安堵のため息が出た。


「ふふっ、おにいかわいい」

「あまり兄貴で遊ぶんじゃない」

「うん、分かった。ゲームしてる~」


 愛の傍にいると振られたことを悟られそうで俺は距離を取る。キッチンの椅子からゲームに興じる愛の様子を窺っていると……。


「おにい、なんかあったっしょ?」


 なっ!?


 俺の心の中を見透かしたように訊ねてくる。無気力というか、飄々として空気が読めなさそうなダウナー系妹なのに。


「なんもない、なんもないから!」

「おんにゃの子の勘を舐めたらいかんぜよ」


 愛はゲーム機をソファーにほっぽりだし、俺の頭を撫で始めていた。


「愛、なにを……」

「頑張った子には頭を撫でて、誉めてあげる。これ、愛の自分ルール」


 深いことは訊ねることなく愛は椅子に座り、落ち込む俺の頭を優しく撫でてくれていた。


「あたしとおにいの付き合いは何年だと思っとるん? あたしが生まれたときから、おにいはあたしのおにいで、あたしはおにいの妹なんよ」


 年下なのに母性の塊のような妹の優しさに思わず涙が込み上げてくる。



「おう、母の呼び出し。不粋、不粋、超不粋。またおにいんとこ、来るから」


 もう夜の九時になっていたので、愛を最寄り駅まで送ってゆく。


 別れ際に愛は背伸びしながら俺の頭を撫でた。


「また落ち込んでたら愛が撫っで撫っでにしてやんよ」

「ありがとう、愛」



 愛を送って帰宅すると……って愛の奴、大事なゲームを俺の家に忘れてしまってるじゃないか……。いや置いて行ったのか?



――――翌日の会社。


「岡田! おまえ、井澤と別れたってホントなのか!?」


 同僚の三迫が席につくなり俺に訊ねてくる。しかも俺と和葉しか知らないであろう最新情報を携えて……。


 まだ一日も経ってないのに情報が知れ渡ってしまってるなら隠しても仕方ないと思い、俺は三迫に打ち明けた。


「そうか……岡田には言えなかったんだけど……」


 三迫は課長の席を指を差し、告げる。


「一ノ瀬課長がどうかしたのか?」

「岡田に見せたいものがある」


 そう言って俺を給湯室まで呼び出し、スマホの画像を見せてきていた。


「一ノ瀬課長と和葉がなんで……?」


 三迫が俺に見せた画像は二人がラブホへ入る直前を撮したものだった。


―――――――――あとがき――――――――――

はじめましてもしくは毎度でございます、東夷と申します。お読み頂き誠にありがとうございました。

作者の近況なのですが、先日カドカワに魂を売りました。カドカワが美プラ業界に参入し、あろうことか御坂美琴を出してしまったのです!!! ええ、買いましたよ、DX版の水着付きを。JCの水着……JCの水着……実に罪深い美プラだ。

あ、大事なことを言い忘れておりました、この先楽しみとかございましたら、フォロー、ご評価頂けますと幸いです。

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