言葉の断片

海珠ミキ

はじまり

 何も書ける気がしない。僕には文才がない。頭の中をいくら探ってもポカンと虚空が広がってるだけで、何かを生み出す予感を一切与えない。じゃあなぜ書こうとしたのかと問われれば、何かを書きたかったからと応える。虚空を見つめていると、それは虚空なのに何かわだかまっている。重さも体積も質量もない。触れないし目にも見えない。だけど、そこにあると感じるのは何故だろうか。名前を、形を与えてやらなくてはと思うのは何故だろうか。

 そうやってなんだかんだと書いているうちに文字はたまり、一連の意味らしきものが生まれる。苦手だった作文がいつの間にかできるようになっている。書き手にも予想のつかない言葉の連なりが現れる。しかし、確かに現されるべき言葉たちだ。

 ここに1人の作者がいる。何の作者かというとこれから語る物語の作者だ。彼はいつも1人でいて、友人も少なく、家から出ることも稀な奴だ。やることといえば、窓の外を走る車を眺めるか、部屋の中をうろつくか。何一つ生産的なことをしていない。たまにパソコンに何やら打ち込んだかと思うとすぐにトイレに立つ。後は昼寝をしているくらいのものだ。

 彼が何をしているか。物語を作ろうとしている。一文字一文字ゆっくりと、人が見れば止まっているかのごとき遅さで。それでも言葉は積まれていく。物語は進んでいく。

 物語は常に前に進むわけではない。時に止まる。思い出したように進む。しかし、後戻りすることはない。始まった物語はただ前に進み続けるしかないのだ。

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