第2話 ファンの到来
「初めまして!秋葉先輩。先生の大ファンなんです!!!」
玄関の扉を開けたら出てきたのが見知らぬ可愛らしい女の子でした。そんなラブコメみたいな展開現実世界で普通あるか?
まあ脳内選択肢で①「美少女が空から落ちてくる」を選んだら、本当に落ちてきました、みたいな展開よりかは確率高いだろうけれど。
えーと、まず誰?疑問で頭がいっぱいである。そもそも柊が来る予定だったはず。もしかしてTSして記憶喪失とか・・・はないか。うん冗談。決して最近、お〇まいを見ていたとかそういうのではない。
とはいえ何か言わないといけないし、場が持たない。だから意を決する。
「え、えっとどちら様ですか?」
うん、絶対におかしいよ、この返答。けど、こんなまぶしいくらいの笑顔を向けてくれる女の子なんて知り合ったこともないし、そもそも女の子と話した記憶が漆黒の封印されし右腕レベルのリアル特級呪物ものだから挙動がおかしくなるのもしょうがない。
小学生時代にクラス全員の女子から嫌われ総スカン喰らったら黒歴史にそりゃなるよね。しょうがないしょうがない。と脳内反省からの脳内開き直りを行う。なんとか自分の対人能力の低さが露呈したことへの羞恥心を抑えることにしよう。気休めでしかないけど。
「あっ自己紹介が遅れましたね。私、
「おい美雪。誰が愚兄だ愚兄。今日連れてきてあげたのはどこのどいつだ?あと清十郎、ほら土産だ」
そういって妹に苦言を呈しながら、柊葵は俺にレジ袋を渡してきた。中身はいつも通りポテチだろう。見なくても軽さでわかる。コンソメかうすしおかで毎回茅野と柊と3人で論争になるのだが...まぁ今日はこいつの好きなコンソメだろうな。
そんなことよりも、柊の妹?柊に妹がいること自体初耳だし、まして妹が来るなんて聞いてない。そしてなにより俺のファンと名乗った。俺の、ファン。俺にはファンと呼べるような人ができる作品は1度だけしか作っていない。それも5年も前。
つまり俺の5年前の出来事を知っている。この事実を知っているのは家族と茅野・柊を除けば殆どいない。そしてその残った人達も口を開くことは必ずない。順当に考えて、柊は妹の美雪に言ってしまったわけか...言うなって伝えてたのに。あとでコイツ絞める。
とりあえず、脳内で推測し謎は解けた、が解は出てこない。つまり、どうこの後反応すればいいのか。黙っていても仕方がないため、顔を上げ、二人の顔を見る。
兄のほうは見慣れている。整った顔。170後半の身長。大学生になって茶髪にしたことで、軽薄さは高校の時に比べてより一層増したが、男の俺から見てもイケメンだと思う。癪だが。
問題は妹。こちらも兄同様に美形。髪は兄同様に明るめの茶髪。少し短めのボブ?というやつか?マジで女の子の髪型わかんない...ほんと兄貴そっくりだな。違いがあるとするなら、身長が160ぐらいの低身長(女性としては平均だが)なぐらいか。
茅野が綺麗な美人系ならこっちは可愛い系に分類されるのだろう。女の子を分類するというのもこれまたおかしな話だが。
あと茶髪ということは大学生か?兄が俺同様大学2年生なら新大学1年といったところか。また推測。そんなに物事を観察できるぐらい冷静な状態ならさぞかしいい返答ができるんだろうな、俺。心の中で自分自身に悪態をつきながら、俺は答える。
「柊ありがとな。そして初めまして。美雪さんでいいかな?俺のほうこそ、君のお兄さんにはお世話になっています」
彼女は頷く。
両方とも柊だと区分けできない。しょうがないから葵と美雪さんで通すか。にしてもうん、当たり障りのない返答。これでいいのかと自問自答するが発言してしまったものは取り消せない。やっぱり定型文は便利だな!
「立ち話もアレだから早く家に入ろう。茅野のやつも中で待ってるから」
「ん、おけまる水産。美雪も早く入れよ。憧れの先輩と話ができるぞ」
「ちょ、ちょっと兄さん、辞めてよ恥ずかしいから」
2人を中に通す。おけまる水産は古いだろというツッコミはなしだ。話がややこしくなる。
それと一旦今は美雪のことは置いておく。まずはあの部屋にどうやって入れるべきか。俺とか茅野、柊あたりなら汚部屋でもいいし、そのことを承知で葵も第4の人物を呼んだと思っていた。が相手が妹さんなら話は別。さすがにあの部屋に入れるのは如何かと思う。
「えーと、美雪さん大丈夫?俺の部屋かなり汚いんだけど・・・」
「大丈夫ですよ。秋葉先輩。兄の部屋で慣れてますから」
靴を脱ぎ、美雪は後ろの俺に振り向きながら答える。もう既に部屋に入っている兄のほうからは抗議の声が聞こえるがシカト。可愛らしい外見には似つかわしくないドライさだが、まあ世の中の兄妹なんてこんなもんなんだろう。俺も妹に対してはそうだし。
にしても玄関の中で改めて柊妹を見れば見るほど可愛らしいことに気づく。兄同様垢抜けている。これは相当モテるタイプに違いない。何より先輩呼びしてくる女の子に会ったことないからなぁ。普通にときめきそうになる心を落ち着かせる。これだから陰キャはダメなんだ。すぐ勘違いして、傷つく。ほんと俺含めて嫌になる。
そんなことを考えながら自分も部屋に入る。3人でギリギリな部屋は4人も収容できるがやはり圧迫感は否めなかった。
にしても改めて見るとほんと汚い。折り畳み式の雀卓とそれを囲んでいる4つの椅子。その横に設置されているベッドとその上に置かれているお菓子。床には色々物が散乱しており、足の踏み場がないとまではいかないけど、汚いことには変わりない。
ふぅ、もっと片づけておくべきだったと悔いてももう遅い。しょうがないから、そのまま入ってもらおう。少し狭いけど、4人でも座れるだろ。
「で、そちらの可愛いお嬢さんは誰かしら?と聞くのはきっと野暮よね。さっきドア越しに会話聞いてたから。私は茅野凛よ。よろしくね美雪さん」
茅野が自己紹介をする。ほんとこいつはキザな台詞を吐く。それも低音ボイス。カッコいい奴がカッコいい声で言うと様にしかならないな。
「初めましてです、茅野先輩。私、柊美雪です。兄からよく美人な方だと伺ってたのですが、本当に美人さんですね!あと服も可愛い~!どこで買っているんですか?」
男どもを差し置いてガールズトークを始める二人。そもそもネット通販で全てを済ませる俺には、メンズのブランドさえ分からない。ましてやレディースなんて分かるわけがない。
ゆりゆりフィールドが展開されていく。あそこだけ何かいい匂いがするのも相まって別世界と言っても過言じゃない。これ固有結界とか発動してるんですか?
残された俺たちはやることがないので、飲み物でも準備しに2階の台所へ向かう。部屋を出て階段の方へ向かいながら「なぜ妹さんに教えた」と葵を問い詰める。
「いやさ~俺だって言うつもりはなかったよ。お前の話を聞いて、これは話しちゃいけないことだなって思ったから。けどよ、あいつが何度も何度もクロノスを読み返している姿を見たら、真実を伝えたくなってな」
階段を昇り終わり冷蔵庫を開け、葵にお茶を渡す。葵は4つのグラスにチャポチャポと注ぎながら続けて語る。
「あいつ、本当にクロノスのストーリーが好きで好きで仕方がないんだ。批判したことなんてないし、アンチレスに殴り込みに行くレベルだ。あいつはネットのやつらと違う。お前の味方なんだよ」
1杯目を注ぎ終わり2杯目にとりかかる。俺は何も言えず、唯々聞き入れることしかできない。
「お前が俺たちに語ってくれた当時のことは全て話した。お前が創作活動を一切行っていないこと。全て。お前には申し訳ないと思ってる。本当にすまない。」
そこで注ぎ終わったグラスを一旦置いて、葵は俺に頭を下げた。こいつが誰かにここまで謝罪する姿を俺は見たことがなかった。確かに俺自身こいつの立場になったとき、言わない選択を必ず取るとは限らない。
だから怒らない。俺に一言相談ぐらいしろとは思うけど、謝罪は受けたし、もう既にどうしようもないことだから。
やっぱりお前は妹思いのいい奴だな、そう伝えようと思ったその時
「で、俺の妹はどうよ。兄の贔屓目抜きにあいつは可愛いと思うんだが、パイも大きいしさ」
とニヤついた顔で葵はとんでもないことを言ってきた。
前言撤回、こいついいやつだけど、あほだった・・・俺の温情を返せバカ野郎。
てか俺はなんと答えればいいんだ、人様の妹だぞ。もし思ってても言えねぇよバカ。まぁ思い返せばかなり可愛い子だと思ったし、確かに胸も大きかったなとは思うけどさ。
「お前は一回地獄に落ちろこのエロ猿。で、俺は彼女に何をしてあげればいいんだ?そもそも俺がクロノスを書いた証拠も何もないんだが、サインとかもできないし」
「いや、俺は何も知らん。あいつが今日来たいって言ったから連れてきただけ。お前とあいつで仲良く喋ればいいんじゃない。てか4つ注ぎ終わったしそろそろ下に戻ろ」
などと無責任なことを言って、グラスを2つ持った葵は階段を下りて行く。いつの間にか残る2杯にも入れていたようだ。
俺は残された2つの綾〇が注がれたグラスを見ながら「やっぱお茶は綾〇に限るな・・・」と呟くことしかできなかった。
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