名探偵は魔法を使わないー王都怪奇殺人事件ー

無一文

1話 殺人事件

「ライト」

ぽわぁ…

男が杖を振ると光が辺りを照らす

ガサ

男は手を合わせ目を閉じる

「安らかに眠ってくれ」

「ゴルド隊長」

後ろからの呼びかけに立ち上がる男

「残痕調査班が到着しました」

「了解だルダス騎士…じゃあまず魔力残滓を調べてもらいますか」

……

目の前の死体を見る兵士

「まだ若いのに…酷いですね」

パシ

頭を叩くゴルド

「割り切れ、俺たちにできることは死体を見ることじゃなく犯人を探すことだろ」

「はい!」

パシャ!!

バサ!!

ウーウー!!

王都の居住区

その一角に貼られた大きな幕とそれを取り囲む憲兵達

近隣住民は心配そうに群がる

「はいはい押さないで!」

ちっ

「野次馬の奴ら全員牢にぶち込んでやろうか」

怒るゴルド

「まぁまぁ、近場でこんなことになってたら誰でも来ますよ」

「ゴルド隊長も気にはなるでしょ?」

笑いながらなだめるルダス

「ではまず被害者の情報を整理、後は事件の経緯…」

「言わなくてもわかってる」

「被害者はアルノ・シェルパード、15歳」

「王都「ルクセンダ魔法学院」の生徒、普段は物静かで温厚な性格」

「母と二人暮らしの好青年…だろ?」

ルダスの声を遮るゴルド

「あはは…おさらいするまでもなかったですかね」

シュポ

「ふぅ…ハァァ」

煙を巻くゴルド

「15歳なんてよ…まだまだこれからじゃねぇか」

「誰がなんのために殺したんだ」

「失礼します!!」

深緑のローブを羽織る

「調査が終わりましたので現場責任者であるゴルド魔導部隊長殿に報告をしに参りました」

「そりゃどうも」

ヒュイ

シュゥゥ

ゴルドがタバコをつかむと次第に黒い炭へと変化し消える

「……」

それを見る深緑のローブ

「どうした?」

「いえ…ゴルド隊長の焼炎しょうえん魔法を直に見れて光栄だなと…」

「さすが25の歳で隊長に昇格した実力者ですね」

ふっ

「こんなの戦場に来ればいつでも見れるぜ?」

……

固まるローブ

ふっ

「冗談だよ…早く調査結果を教えてくれ」

「はっ!」

……

「遺体の周辺と家屋の隅々まで調べましたが被害者を死に至らしめる魔力残滓は見つからず」

「残された魔力残滓も被害者の少年と第一発見者の母の物であり…そのどれも殺すほどの魔力ではありませんでした」

……

「おいおい」

ガシ!

ローブの胸ぐらは掴まれる

「隊長!!!」

ドン!

ゴルドの顔はローブの男の額に頭突きする

「お前は誰だ!?」

ガクガク!!

恐怖するローブの男

「わ…私は宮廷調査班の…ローレンであります」

「だよな!!ならそんなふざけた報告してくんじゃねぇぞ!!」

「魔力残滓がない!?バカ言うな、この世界は魔力で成り立ってんだぞ!??」

「人が死ぬのに魔力がないなんてありえな…」

ガン!!

「ふが……」

ゴルドの額に当たる岩

ドサ

倒れるゴルドとローレン

「い……誰だ!!」

「バカはあんただろゴルド」

ビシ!!

敬礼をするルダス騎士

「これはエイレイン司令!」

前に現れる金髪のお姉さん

「ゴルド、宮廷調査班は王国の精鋭集団だよ?」

「お前みたいな成り上がり野郎じゃなく歴とした実力者さ、なら疑うのはローレンじゃなくお前の常識だろ」

……

立ち上がるゴルド

「わかるなら教えてくださいよ、どうやって魔力なしで人を殺せるんですか?」

「わかるものならですがね…この若造りババ…」

グリぃ

「レディに言うことじゃねぇな…若造!」

ドン!

ドサぁぁ!!!

・・・

殴り飛ばされるゴルド

敬礼しながら目を丸くするルダス

(ゴルド隊長を一撃で……さすが魔導隊司令…おっかねぇぇ)

ふふ

笑うエイレイン

「私はこの事件を解けないけど」

「解けるやつなら知ってるよ」


王都

タッタッタ

大通りに走る1人の少年

「おい!待ちやがれ!!」

少年を追いかける大男

ドサ!!

「よし!捕まえたぞクソガキ」

「盗むんならもっと上手くやるんだな!」

ガサ!

チャリン!

少年のポケットから赤く輝く宝石

「違う!これは僕のものだ!!」

反抗する少年

「バカ言うな、これは「治癒の魔石」俺の店から奪っただろ!」

「盗む所を俺は見てたんだぞクソガキが!!」

ざわざわ

2人の問答でざわつく大通り

「おい!誰か憲兵を呼んでくれ」

「このガキを牢屋に…」

ぬぺぬぺ

大男のハゲ頭を撫でる手

!!??

「待てよおじさん」

「だ!誰だお前!!」

佇むのはくせっ毛が強い男

「その少年は盗んでないと思うぞ」

!??

驚く大男

「な…何言ってんだあんた」

「俺はこの目で並んでるその魔石をとった所を見たんだ」

「なぁぼうず」

「お前はその商品を盗んだのか?」

「盗んでない!!」

食い気味に返事をする少年

「そうか…じゃあ首元を見せろ」

少年は服を伸ばし首を見せる

「みろ店主」

「これは…斑点?」

少年の首元には黒い斑点

「いいか店主、この斑点は「黒点病」という幼年期に現れる呼吸器系を害する病」

「この病はひと昔は難病に指定されていたがこの赤い魔石の発掘により病気を抑えることが出来ることがわかった」

「その上黒点病は幼年期の未熟な体にのみ発現する事から今は発症しても成人するまで魔石を持っておけば治る病となった…合ってるかぼうず」

……こくり

「なんでわかったの…」

ピッ

「この伸びた首元は服を執拗に引っ張る時にできたシワ、それに服のサイズも少し大きい」

「そうなると君には何かを見られたくない心理状態が働いてるとわかる」

「それは一目でわかるもの…となると暴力による鬱血した痕かもしくは病からくる外傷と検討がつく」

男の口は止まらない

「だが君は半袖…しかも走る時体を庇う様子がなくこの怖いおっさんから全力で逃げていた」

「なら鬱血などの痛みを伴う外傷ではな病からくるものの可能性が大きい」

「じゃあ考えられる病は何か…君は外出できていしかも買い物をし威勢よく大きな声も出ている」

「であれば大きな病ではないが体の模様で一目でわかる病気、「黒点病」ってわけだ」

「それにこんな追われても魔石を持つ理由を隠しているあたり、いじめが起きやすい「黒点病」だとわかる」

……

「黒点病は常に魔石を身につけなきゃいけない、てことは少年は魔石をとっていない」

「だよな?」

言葉を失う少年

「で…でもよ」

「俺はこの子供が商品をとってる所を見たぜ…この目で」

「それに店から追いかけて……」

はぁ

「なら今すぐに憲兵じゃなく魔導騎士を呼んだ方がいい」

「魔法の犯罪ならそいつらの方が早い」

「魔法?」

「変身魔術師の定石じょうせきはその場にいる魔力が弱い子供に変身すること」

「それでもこのぼうずが怪しいって言うなら魔石の残量でも調べな」

!!

「ありがとうよ!兄ちゃん!!」

その場から立ち去る大男

……

「お兄ちゃん…ありがとう」

「で、盗んだ商品は後で戻すよな?」

!!

少年はうつむく

「……うん、ごめんなさい」

はぁ

「あのまま憲兵が来てたらお前は牢屋行き…最悪強制労働させられてたんだぞ」

「わかってるのか?」

少年は立ち上がる

「わかってる…でも」

「どうしても欲しかったんだ」

チャラん

少年のズボンポッケからは金色の指輪

「なるほどね…それを盗む目眩しに魔石強盗に加担したのか」

頷く少年

「毎日あそこの店でこれを見てたら「協力してくれたら買ってあげる」って言われて」

「悪いことはわかってるけど…僕これ買えないし」

「母さんが死ぬ前に…欲しかった物をあげたかっただけなんだ」

「母さん僕の魔石のためにお金全部使って…自分の病気は後回しにして」

「でもこの魔石があれば…」

グイ

「いだだ!!」

少年の頬をつねる

「バカいうなクソガキ、犯罪に口実はねぇ」

「その指輪を誰かの努力であそこに並んでんだ…それを貶すのは最低の行為だろ」

……

「ごめんなさい」

はぁ

「わかればいい…ほれ」

パサ

少年の手には紙幣

「え……これ」

「この事件で魔導騎士とあの店主に借りを作ることができた」

「そのお礼とでも思って受け取れ…今店はガラ空きだから戻して店主が帰ってきた時に買いな」

!!

「お兄ちゃん……何してる人なの?」

ふっ

「俺は王都で探偵をしている」

「エルド・マーズという、まぁ困ったら王都グレーシス通り4番地にある「エルド探偵所」に来てくれよ」

「うん!」

「ありがとうエルド!!」

少年は手を振り遠くへ消えていく

「いやぁ〜いい事したなぁ、後で国家経費でかさ増し請求するか」

「儲かったぜ」

グイ

振り返ると袖を引く赤髪の幼女

「おぉ、どうした我が助手アルルよ」

「ホグホグホグ!」

グイ

アルルの口を拭うエルド

「食べながら喋るんじゃない」

ゴクリ

「先生…あれ」

アルルが指を刺す方には割烹着を着たおばさん

「おや、さっき我々が食べていた食場のバァさんじゃねぇか」

ドッ

目の前に立つおばさん

「はぁ…やっと追いついた」

「あんたが保護者かい?」

「まぁ…はい」

ペラ

おばさんの手には紙幣

「それは…さっき置いて行ったお金?」

ぽん

「なるほど」

「お釣りはいらないって言ったろ」

「わざわざお釣りを届けるなんて気の良い人だ…」

「ち・が・う!!」

ぺら

もう一枚の紙

「請求書?」

「数えてみな!」

「えーーと」

「足りない………足りない!!??」

「しかも大幅に足りないじゃないか!?」

「どう言うことだアルル!!」

キョロキョロ

目が泳ぐ幼女

「いや…あの…誰かが追加で注文した」

???

「誰かって誰だ?」

アルルは手を広げ大きさを現す

「こーんくらいの人」

「だから誰だ」

ガッ

エルドの首を掴むおばさん

「良いから!保護者なら金払いな!!」

「ちょ!…ちょっと待ってくれ店主」

「時間をくれ」

「はぁ!??」

「考えてみろ店主よ、もしこれが誰かの犯罪行為だったら犯人を捕まえなければいけないだろ?」

手を離すおばさん

「犯罪?」

「それにだ、こんな幼女を騙すような輩は野放しにして置けない」

「そうだろ!?」

・・・

「まぁ…ね」

ペラ

請求書をまじまじと見るエルド

「なるほど、追加で注文された金額を見ると…これは魚料理だな」

「確かメニューにあった「ラグラの刺身盛り合わせ」が固定徴金込みでこの値段か」

「あとは野菜「ラスタ」魚料理「アットマの煮付け」の組み合わせもあり得るか」

「あとはドリンクと肉料理…」

!!

「あんた…うちのメニュー全部覚えてんのかい!?」

「まぁ…何驚いてんだ」

ふっ

笑うアルル

「先生は見た物を完全に記憶できる、しかも魔法なしで」

「え…」

(うちのメニューって100種類はあるのに…しかも常連客じゃないだろ)

(魔法でも飛んでも無いのに…何者なんだい)

パチン

指を鳴らすエルド

「なぁアルル、お前トイレに行ったりしたか?」

「うん、かなり溜まってた」

「そう言うこと言わないの」

………

「なぁ店主、この注文受けたのはホールにいた子か?」

頷くおばさん

「だったらその子に聞いてみるか」

はぁ

「そりゃ無理だね、今の時間は繁忙の時」

「誰が誰の注文なんて覚えてるわけないだろ、それにこの紙を持ってきたのは嬢ちゃんのテーブルにラグラの刺身盛り合わせを食べた跡があったから来たんだ」

「普通に考えて嬢ちゃんが食べたんだろ?」

・・・

「そう決めつけるのは良くないぞ店主」

「俺の助手はこの商品を頼んでいないと言ってる、なら誰かが幼い子だからと食事代を付けたとは思わないのか」

ガッ!

胸ぐらを掴まれるエルド

「や!やめろ!暴力反対!!」

「あんたね大人なら子供のケツくらいふきな!!」

「ヒィぃ!!」

「誰かがアルルに食事代をなすりつけたと…」

グイ

??

両者の袖を引く幼女

「先生…何か勘違いしてる」

「勘違い?」

頷くアルル

「私は頼んでないけど食べてないとは言ってない」

???

「てことは…お前食べたのか?刺身の盛り合わせを?」

「うん、美味しかった」

「ははは…それは何よりで」

ゴゴゴ!!

おばさんの顔が近寄る

「で、お金は払ってもらえるんですかね?」

………

「あの…明日まで待って貰えますか?」

「無理」

「すみません!!」

綺麗な男の土下座

「なんでもしますから憲兵には伝えないでください!!」

・・・

はぁ

ため息を吐くおばさん

「まぁ、こっちが間違っておいた可能性もあるしね…」

「今日一日働いてくれたら無しにしてあげるよ」

「はたら…く?」


ガシャン!

「おい!こっちに酒をよこせぇ!!!」

「はい!」

ホールには食材が乗ったお膳をもつ従業員

「注文お願いします」

「はい!ただいま!!」

………?

「なぁあんた、新入りの人か?」

従業員制服に身を包むエルド

「まぁ一日だけですが」

ガラン!

「注文入りました!!」

もぐもぐ

「お嬢ちゃん、次は何食べたい?」

カウンター席で肉を頬張るアルル

「……もういいありがとう」

カラン

カウンターでカクテルを作るおばさん店主

「私も働くよおばさん」

ふっ

「良いのよ子供は食べるのが仕事、動くのは大人の責任だからね」

「それにしても最初はふてこいてたけど、やるもんだねあの男は」

「うん、先生はすごいから」

カラン


………


とある来客で静まる酒場

「ありゃ…なんでまた魔導隊司令殿がこんな場所に」

入り口には金髪の女

「あいつは…何やってんだかね」

「エルド!!出てきな!!!」

酒場に響く大声

ガシャン

「人の名前を大声で呼ぶな、情報漏洩で訴えるぞエイレイン」

客が急ぎ声をかける

「あんた…魔導隊司令殿はまずいだろ」

「は?なんで?」

「え…なんでって」

「魔法大戦の英雄に向かって…まずいだろ」

ふっ

笑うエイレイン

「いいよ、彼には幾度も助けてもらってるから少しの粗相も見逃しているんだ」

「あ………はい」

ガタン

「はい、おまちどう様です」

「おう…ありがとよ」

平然と食材を並べるエルド

「で、お前が来るって事はあの教団絡みか?」

首を振るエイレイン

「いや、今回は王都で起きた殺人事件だ」

「それじゃあお前ら魔導隊で…」

「その現場に魔力残滓は検出されなかった、凶器も犯人の動機も不明だ」

「君の力が必要だエルド」

「知恵を貸してくれ」

………

「わかった、ただ明日にまた来てくれ」

「なにか用があるのか?」

タラタラ

汗を流すエルド

「まぁあれだ…俺はここで仕事があるからな」

「あとここで働いていた事を憲兵に言うなよ」

ふっ

「あぁ、そうするよ」

「頑張って借金を返しなよ貧乏探偵」

………

「うるせぇ!!性悪女!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る