㉜見守り編成
「ダブルデート…?」
「うん。希望君、ずっと病院にいるから退屈だろうなってお父さんと相談したら、私が特別に許可を出すから、二人で羽根伸ばしてこいって…」
「そのことを舞姫から聞いて、私も雷磨さんも最近忙しくて落ち着いたし、せっかくだからダブルデートしないかって……」
「あはは……僕は大賛成です」
「雷ちゃんも…勉強ばかりだからなぁ…」
「医師になるには、勉強漬けじゃないと…」
「無茶は駄目よ…色々買い物とかもしたいし、このショッピングモールはどうかしら?」
「へぇ…あ、そのポップアップ、愛さん好きでしたよね?」
「そうそう!ほんっとに見掛けに寄らないよねぇ……ま、言うて私も興味あるんだけどね」
ある日の病室。舞姫はもちろん、雷磨や愛が見舞に来てくれた。いつもとは少し違う雰囲気でそれについて問うと、ダブルデートというものをこちらに提案してきた。毎日病室にいる俺が退屈そうだと心配した舞姫が院長に相談したらしく、院長も特別に許可するから羽根を伸ばすように言われたのだが、それを愛に話すと、ダブルデートをしたい…という話になり、今に至る。さすが煌星家…報連相が早すぎる。
「舞姫もか……やっぱ姉妹そっくりだ」
「この先も、僕らはずっと一緒です。希望君とはネトゲは何回かしてますが、たまにはお出掛けも…と、僕から愛さんに提案してみたんです」
「そうなのよ…雷磨さんったら、分厚い参考書片手に出掛けようとするし…私達も仕事落ち着いてきたから、せっかくだからダブルデートをしてみたいねって舞姫と話してたのよ」
「愛さん、この前の格好、すっごく可愛かったです…でも、綺麗な脚やボディラインが見えるリブニットにショートパンツは反則ですよ…」
「別に褒めたって何も出ないわよ……」
「あはは……それと、ずっと気になってたんだけど、お姉ちゃんのそのヘアピンさ、ずっと付けてるよね?」
「確かに、そういえばずっと付けてるなぁ…って俺も思ってたんだよなぁ……」
普段は地毛の赤茶髪をポニーテールにしており、きっちりとスーツ姿を決めて、毎日教卓に立っている煌星愛…。彼女は普段厳しく誰よりも努力家かつ人想いで、教師をしている今は「生徒指導よ」が口癖でもあるのだが、実は辛いものやピーマンが苦手だったり、猫好きやプライベートの姿が異常に格上だったり……最近は歳頃の男子生徒に告白されたり下着の色を聞かれたりで困っているらしい。が、それを許さない人物がいる……。そう、普段は医大生として毎日医療の勉強をしている盾澤雷磨…。彼とは共通点が多く、似た者同士。普段は温厚で頭脳明晰な彼だが、怒るとその場は地獄と化してしまう…。もちろん県内トップの高校を首席で卒業し、そのまま首席で医大生の今に至る…のだが、恋人である愛を誰よりも愛している…。大好きな医療よりも、院長よりも、舞姫よりも……煌星愛を、愛している。愛の髪に付けてるヘアピンが気になった俺達は、愛にそのことについて聞いてみた。そういえば、十年前ほどの入院で愛と舞姫に初めて会い、雷磨が退院して数日後にこのヘアピンは存在していたのだが……
「あれは十年前くらいですかね……僕が退院準備を済ませて、この病院を去ろうとした時に僕が愛さんに勇気を出してプレゼントしたものなんです」
「……懐かしいわね…当時の雷磨さん、すっごく緊張してたもの…でも嬉しかったわ」
「今も夢みたいです…こんなに綺麗な人が、今では僕の恋人だなんて……でも当時は携帯持ってなくて…連絡先交換出来なかったんですよね」
「へぇ…々愛さん、当時雷ちゃんなんて言ってました?」
「そうね……顔真っ赤にして、またどこかでお会い出来たらとか、左の薬指空けといて下さいって言ってたかしら…」
「らしくないよ雷ちゃん……」
「まさかねぇ…。それから夢玖ちゃん経由でお姉ちゃんと雷磨さんは再会したんだよね〜。てか思ってたんだけど、夢玖ちゃんと廉命君って、デートしたことないのかな?」
「「それ思った!」」
「あはは…廉命君と如月さんがデートですか…聞いたことないですね」
「そうなんだよ!廉命は…如月が二十歳になるまで待ってんだ……あの二人はこの先も一緒だからさ…」
「夢玖ちゃんを傷付けたくない…大人になった夢玖ちゃんを恋人……将来の嫁にしたいってところかしら……恋って、教育とはまた違うわね」
俺達は、十年ほど前のこの病院で過ごした記憶について談笑していた。この病院には数々の思い出がある。初めて舞姫と出会ったあの時、雷磨が愛を見て恋に落ちた時、雷磨が勇気を出して愛にヘアピンを渡すのを福吉さんや加堂さんや盾澤店長と一緒に陰から見守ったり…その他にもある。舞姫が緑の瞳を丸くしながら、ある疑問について話した。それは、廉命と如月はデートをしたことないのからということだ。
「もちろん、医療とも違いますよ…僕らは、似た者同士ですね」
「そうね。ふふっ……もし夢玖ちゃんがデートするなら、私が服決めたいわ!」
「それなら私はお化粧ね〜?」
「なら俺は如月や廉命の髪をセットしてやりたい…」
「それなら僕は、デートプラン考えます」
「やれやれ…ダブルデートはどこに行ったんだ」
すると、通り掛かった院長もこちらの会話に入ってきた。最近の話…白血球数が減り、免疫力低下による感染症に対する抵抗力が低下しつつあるため、俺は通常の病室から無菌室へと移った。その為、見舞に来る人物が入りやすいのだ。
「お、お父さん…?」
「確かに、如月君と日出君がデートしたことはあるのかは私も気になる…。それに、私もこのショッピングモールのカフェに行きたかったんだ」
「院長が……カフェ……」
「たまには、カフェでコーヒー飲みながら読書でもしたいんだ……」
「とか言って、本当はあの限定スイーツが目当てなんでしょ?それに医療の参考書しか読んでないじゃない……」
「まあまあ。お父さんも、毎日医療や患者さんのことばかり考えて疲れてると思うから、お父さんも連れてこようよ」
「愛さん、僕は賛成です。院長の好みや趣味も把握しないと…」
「俺も〜!舞姫にやりたい髪型あるし、久しぶりに皆で出掛けたい!ベッドの上で過ごしてばかりだからね」
「もう。仕方ないわね……」
その後日を改め、俺達のダブルデートに幕が上がった。院長の車を雷磨が運転して二時間…。話していたショッピングモールに着いた。今の季節は秋で、その日は特に寒い…のだが…
「希望君大丈夫?寒くない…?」
「俺は…大丈夫だけど…」
「僕も大丈夫です……でも」
「「二人の方が寒そう…」」
「そんな心配しなくていいわよ…後で雷磨さんのコート借りるし」
「そういう問題じゃない……毎回、お前達の服装に驚くよ…愛も舞姫も…短いの履いて」
「たまにしか遊びに行けないから…その日だけ好きな服着るようにしてるの」
「まぁ、たまにしか休めないからな…さぁ、それぞれ行きたいところ回って、後で集まろう」
慣れてるつもりなのに、舞姫の格好はいつも目のやり場に困る…。それは愛も同じなのだが、二人とも性格は正反対なのか、雰囲気はそれぞれだ。舞姫は黒いキャミソールの上に裏生地が着いてる白のボアコートを合わせており、ロングブーツにショートパンツを履いている。いつも玉ねぎヘアにしている栗色のロングヘアは下ろし、毛先をカールに巻いている。とても似合ってはいるのだが、時々黒いキャミソールから谷間が見えそうで、彼氏としてヒヤヒヤしている自分がいる…。俺達はそれぞれ解散し、また集まることにした。
「それじゃ、ポップアップ行きましょ!」
「希望君、見終わったら連絡するね〜!」
「……またナンパされないように気を付けて下さいね」
「雷ちゃん、俺らもゲーセン行こうよ」
「もう……行きますよ」
舞姫達が目当てのポップアップを見終わり次第、俺達は合流した。二人は大きな紙袋を提げていて、満足そうだった。
「いやぁポップアップ楽しかった〜!グッズも買えて、写真も撮れて、妹と推し活出来て……ふふっ」
「お姉ちゃん凄く楽しそうだったし、可愛かったから写真沢山撮っちゃった……希望君好きそうなやつも買ってみたよ!」
「わざわざいいのに…」
「愛さん……その、やっぱり何でも似合いますね」
「ふふっ!希望君がセットしてくれたの!たまには前髪ないのもいいでしょ?」
そう、その日の愛の服装は…白のキャミソールの上に黒のレザーのジャケットを合わせ、秋らしいコーデュロイのボルドーのミニスカートにロングブーツを合わせている。それに彼女の髪型は、前髪を上げた低めのツインテールだ。前髪を上げたことにより、美しいルージュを描いた唇が強調されているのだが……。
「…くっ…最高です…可愛すぎる」
「普段の真面目っぽい一面から想像出来ないくらい、愛さんにデレデレだよねぇ…」
「お姉ちゃんすっごい美人だからねぇ…」
「ほんとよね……普段真面目過ぎるせいか、私に対してはこうなのよ…まあ、そういう一面も好きよ」
「ふぅ……愛、無駄遣いしてないか?」
「お父さん…大丈夫よ。ちゃんと目当てのものは買えたからっ!」
「なら構わないが…。いやぁ、愛と舞姫が小さい頃にここに連れた思い出があるなぁ…」
次第に院長も合流し、院長は目当てのカフェの席を予約してくれたらしく、俺達はそこに向かった。エスカレーターに乗り、上の階に上がろうとすると、俺達の後ろにいる男子大生三人が舞姫のことを後ろから見ては話していた。
「なぁ…前のロングヘアの人めちゃくちゃ綺麗じゃね?」
「分かるっ!スタイルいいし、顔めちゃくちゃ可愛いし……何よりも…デカいし」
「何カップなんだろう……デカいのにキャミソール着てるとか……俺達のこと誘ってんじゃね?谷間ガン見えだっての…」
「ヤバいよな…ショーパンの隙間から下着見えないかなぁ…」
「てか隣にいる男の人、弟なのかな?」
大勢の人がいたり、俺達にも聞こえてるにも関わらず、彼らは舞姫のことを舐め回すように見ては、舞姫の胸元や下着のことについて話していた。舞姫の隣にいた俺を弟と勘違いされたことに腹立っていたが……
「悪いがそこの君達、次の階で止まりなさい」
「あ?なんだよジジイ…」
「今俺ら忙しいの」
「そんなことはどうでもいいわ……とにかく、次の階で止まりなさい」
「待ってこの人もめちゃくちゃ綺麗…胸デカいし顔も可愛いしスタイルも最高……」
「……へぇ?」
「…ひっ!」
舞姫は俺らにバレないように涙を流し始めてしまった。それに対し院長と愛は、彼らに次の階で止まるように言ったが、彼らは反省する気が一ミリもなく、むしろ調子に乗って愛のことも舐め回すようにやりたい放題だった。次の階で俺達は一度降りて、彼らに注意した。
「私の娘達をよくもいやらしい目で見たな…」
「私はともかく、妹が怖い思いをしてるの……せめて、謝ってちょうだい!」
「何を謝れと?てかこの二人姉妹なんだ…」
「お姉さんの方が…身長低いけど妹の方より若干胸デカい気がする…」
「いい加減にしろよ…クソ野郎……」
「とにかく、謝ってくれればいい。娘達に謝ってくれ」
「じゃあ…二人のLINE、ちょうだいよ」
「……よく聞け。私は医師をしてる…謝る気がないならそれなりの措置は取る」
「医師?どうせヤブ医者だろ?」
「…私は医師だ。私が娘達の精神的苦痛を証明出来る診断書を用意すれば裁判で勝てる……これでも自分達がしたことを認めないか」
「おい、俺の婚約者を傷付けたことを謝れよ…」
「何だとチビ…こんなチビが婚約者なんて笑えるよなぁ…そこのメガネも、ガリ勉って感じだし」
「……」
院長が法的措置を取ろうとすることを男子大生らに話しても、彼らはまだまだ反省していない…むしろエスカレートしている。舞姫は泣いてしまっていて、愛や雷磨は威嚇している。俺が舞姫を傷付けたことを怒ると、面白がっているのか俺を馬鹿にしてきた。次第に彼らの目線は雷磨へと移り、雷磨は怒りの限界を超えてしまっていた。
「………おい…さっきから聞いてるが、ぜんっぜん反省してねぇじゃねぇか……お?」
「え、あ、え、ええと……さっきまでガリ勉真面目だったのに…」
「あーあ。一番怒らせちゃいけない人を怒らせちゃったわね…彼は…普段温厚で勉強熱心だけど、今じゃ首席で現役医大生よ……でも怒るとすっごいのよ?」
「雷磨君…死人が出ないようにな」
そう……これは最近知ったことではあるのだが、この盾澤雷磨とその兄には…元ヤクザの祖父がいるのだ。もちろん役職は頭…。今は高齢のため引退して、穏やかな日々を過ごしているのだが、その遺伝子が…全て雷磨に渡ってしまったせいか、彼が怒ると地獄と変わらないくらいに怖い。
「同じ大学生が……僕らの恋人をいやらしい目で見るとは…なぁ?どう落とし前つけんだ?あっ!」
「ひぇぇ…す、す、ごめん…ごめんなさい」
「…僕らに謝るな……彼女達に謝れ…」
「す、すみませんでした〜!」
そして彼らは逃げるように去っていった。もちろん一部始終を見ていた大勢の人も驚いていた。ようやくして雷磨も落ち着き、院長が席を予約してたカフェへと足を運んだ。
「ふぅ……このスイーツとランチセットが美味いらしい。今日は特別に私が財布を出そう」
「いやぁ、なんかすみません……僕らの分も…少しくらい出させてください」
「いや、構わん。せっかくの久しぶりの休みだ。少しくらい奮発して贅沢なものを食べても構わんだろう」
「院長太っ腹ですね〜……ん、あそこの二人は…」
「如月さんと廉命君…ですね…」
「日出君が大柄で顔に派手なケロイドあるから遠くからでも分かる…。もしかして…」
……To be continued
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