㉚医師として

「………また病院戻りか…」

「……希望君の場合は先天性で重度の急性骨髄性白血病。強力な治療をした場合は、五割ぐらいの確率で、五年以上生存可能と……本で見ました」

「………五年以上か……」

「あくまでも若い人の場合ですけどね……」

「へぇ……てか福吉さんは?最近見てないけど」

「あぁ…実は福吉さん、来年医師の国家試験控えてるんです。今までは研修医として院長の補助をしてたんです」

「なるほどねぇ……てか雷ちゃん、なんか話したくなった?」

ある日、俺はまた病院戻りで病室のベッドに横たわっていた。天井の模様を見つめては、自身があと何日生きられるのか…を考えるばかりだったが、ちょうどその頃、雷磨が病院にきて、ベッド付近の椅子に腰掛けた。そういえば最近福吉さんが来ていないことを思い出し、彼に聞いてみた。福吉さんは来週に医師の国家試験を控えていて、その勉強に励んでいるらしい。すると雷磨は桜色の瞳をこちらに向け、話してきた。

「あはは…実はあれから思ったんです……僕達、似た者同士だなって……」

「似た者同士、か……」

「そう。十年前くらい、僕達ここで出会いましたね。そして僕らの恋人も、院長の娘……歳もほぼ同じで……同じ次男。あと他にも共通点が多いです」

「共通点ね…他にも沢山あるよなぁ…」

「えぇ…でも僕は希望君や兄貴と違って内向的です。僕も、希望君の治療に手を尽くします」

「……確かに、俺達が結婚したら、義理の兄弟になるのか…」

「義理の兄弟ですか……なんか凄いことになりそうですね」

確かに、俺と舞姫、雷磨と愛が結婚すれば俺達は義理の兄弟と化す。それで似た者同士も当然だと思った。院長からは正式に話されていないが、廉命の予測だと俺の体は一年も持たないとのことらしい。そのお陰でドナー講演会もシューズ講習会も何件か出来ずにいた。それでも国中の人々は、俺に生きて欲しくてSNSで俺に関する投稿がされている。すると、加堂さんも病室に入ってきた。

「よぉ……生野、また痩せたよなぁ」

「なんだよ……」

「……舞姫ちゃん、今式場でドレス下見に行ってるぞ」

「ドレスか……舞姫の花嫁姿、見たかったなぁ」

すると加堂さんは俺に平手打ちをしてきた。流石アメフトの元花形選手…廉命より力は弱かったがそれでもかなりの威力があった。赤くなった頬を抑え、顔を見あげると……

「痛えな…何すんだっ!」

「お前…馬鹿だよな……死ぬ前提でそんなこと言ってんだもん…」

「はっ……それは廉命の言うとおり、俺は一年以内に死ぬみたいだしな」

「だからって……てか、なんで廉命とお前の余命が関係すんの?」

「廉命君は…生き物や人の命の長さが分かる子なんです…この前のビデオレターで、希望君そっくりの少年の余命も彼が当てたんです」

「……嘘だろ…」

「本当だよ…しかもあのビデオレターのガキは々俺の兄貴だったらしい。院長がDNA鑑定したみたい」

「……は…」

俺達が話した直後は理解出来てはいなかったものの、院長に許可して例のビデオレターを加堂さんに見せたら納得してくれた。俺がひたすら体内に抗がん剤が注入され、吐き気や発熱、吐血等に苦しんでいる時、雷磨の携帯に通知が鳴った。

「雷ちゃん……LINE来てたの?」

「えぇ…愛さんからです。希望君は大丈夫かって……舞姫さんも心配してました」

「愛ちゃんも来てるんだね…そりゃ姉妹だからそうか…」

「あはは……って…何ですかこの写真……」

「………え、どしたの?」

愛からのLINEだった。それと同時に送られた写真には試着でウエディングドレスを身に包んだ舞姫が、映っていた。今にでも零れそうでふくよかな胸元を収め、華奢な体を強調させる白いレースの布。化粧やヘアメイクはしていなかったが、それだけでも彼女のウエディングドレス姿は凄く綺麗だった。そして何故だか分からないが、彼女の姉の愛も、ウエディングドレスを身に包んでいた。愛曰く、二人が姉妹と分かった式場スタッフは、姉妹でのドレス試着を提案したらしい。愛は肩を出して、チラッと胸元が見える、セクシーめなドレスを身に包んでいた。

「あ、愛さんから……えぇと……胸がキツいって…」

「愛ちゃんスタイルも良くてボンッキュッボンだからな」

「……加堂さん…後で二人でお話ししません?表に出てもらっても?」

「すみませんでした………」

「いやぁ……すっごく綺麗だな……あはは」

「……死ぬまでには、結婚式やりたいだろ」

「当たり前じゃん………俺はいつ死ぬかも分からないから、死ぬ前に式は挙げたいね」

確かに、俺達は似た者同士だ。こんなにも近い存在で共通点も多い。それに…どんな時でも俺の傍にいてくれたのは……煌星舞姫だ。いつ死ぬか分からない俺との結婚だって、受け入れてくれた。その彼女が、こんなに美しい格好をしてくるなんて……。結婚は家庭を築くということでもある

のだが、白血病の治療によって…俺の方が不妊になってしまったのだ。本当に舞姫には申し訳ないと思っている。暫く加堂さんや雷磨と談笑していたら、空はすっかり暗くなっていた。

「ふぅ…舞姫のドレスを選んでたらすっかり遅くなってしまった。雷磨君、ありがとうな」

「いえ……」

「希望君!ただいま!」

「おかえり。愛さんが送ってた写真見たぞ〜?めちゃくちゃ綺麗でした…」

「愛さんもおかえりなさい。愛さんまでドレス試着してくるなんて…」

「仕方ないでしょっ!式場スタッフの方が……教え子の親御さんで……先生もどうかって…」

「愛さん以上にこんなに綺麗な教師…いや、こんなに綺麗な女性は…いませんよ……」

「別に褒めても何も出ないわよ…というか希望君は…タキシードの下見、どうするの?」

「……出来るだけ早いうちがいいかなって…でも外出許可が「構わん」

「ただ、私の付き添いが必要だがな……」

「いや、院長はお疲れだと思うので僕が付き添います」

「雷磨君……気持ちは有難いが、心配ない。私が行こう」

そしてその夜、日程を決めて俺は、院長付き添いの元で、タキシードの下見に行くことが決まった。



「……なるほどねぇ…」

「店長?なんですかそれ」

「お、凪優ちゃん……生野さんがこの前俺に渡してきたの。今ちょっと時間空いてるから読もうかなって」

「……退職届…?」

「だと思うじゃん?これね……生野さんが遺そうとした手紙なんだよ」

「………凪優ちゃん、加堂さん接客中で凪優ちゃん代わりにテニスコーナーの接客出来そう?」

「あ、すぐ行きます!」

「ありがとう………って、店長それって」

「これはね……生野さんが遺そうとした手紙だ」

ある日の仕事中、俺は事務所にいる凪優に接客を代わってもらうように彼女に声掛けに行った。すると彼女と店長の会話からはいい感じの雰囲気が出ていたが、それを壊さないように凪優に声を掛け、接客を代わってもらった。すると店長は俺にある一枚の紙を見せてきた。

「……これは?」

「…生野が遺そうとした…退職届だよ」

「この日付け………俺がドナーになる前のやつですよね…」

「あぁ。なんか雷磨から聞いたけど、あるビデオレターに映った小さい男の子が、生野さんとめちゃくちゃ似てるみたいじゃん」

「……それが…院長もそれを察して、DNA鑑定したんですけど、ほぼ一致してて……あの子は希望さんの…兄貴だと分かりました」

「嘘……そのお兄さん?が亡くなったのは…?」

「それは俺の予測と一致してました……その少年はこのビデオレター撮影してから二週間後に亡くなりました…六歳だった……しかも彼は無戸籍で、世間で居なかった者として見られていた。でも院長だけは…寄り添った」

「……難しい話だな」

盾澤店長は桜色の瞳を伏せて、俺の話した内容について頭を悩ませていた。すると休憩を終えた、福吉さんが事務所に入ってきた。

「店長、急なんですけど、院長がお話ししたいことあるみたいです」

「院長から?」

「はい…生野の……病状についてです…あいつは…廉命のいうとおり、一年も持たないみたいです」

「………分かった」

そして今日の仕事終わり、俺達は院長のいる病院に向かい、盾澤店長にも例のビデオレターを見せた。それにより、俺や雷磨さんの話してる内容に納得してくれた。その時、一緒にビデオレターを見ていた老人が俺に話し掛けてきた。

「こちらの赤い瞳の君は……ある主や生き物の命の長さが分かる者と聞いたな…」

「えぇ。彼は日出廉命というんです。あの子の余命も亡くなった日もばっちり当てた……もちろん今入院してる希望君の余命と私の予測が一致していた……命が読める人間です」

「……まるで、あの子の…夢命の……友達の犬っころみたいだ……」

「確かに…あの犬も廉命に…猫も如月さんにそっくりだな……」

「それで……夢命が病気だと知った両親は…彼の両脚を…切り落としたんだ。だから彼はいつも、義足で頑張って移動して、毎日わしのところに来てた」

「嘘だろ……自分の子供の脚を切り落として…夢命の友達も殺して……希望さんを捨てて……許せない」

今初めて聞いたのだが、夢命の両脚は彼の両親に切り落とされていたらしい。どおりで院長が持っていた手紙の封筒の中に、義足で立っている少年の写真が入っていたわけだ。

「…あのオッドアイの娘は……ある主の過去や未来、故人の記憶を夢で見ることが出来るそうだな…」

「はい。彼女は如月夢玖っていいます。瞳の色で、拾われた時から希望さんに危険を知らせていた…。もちろん、ビデオレターに映っていた猫は…昔の彼女です」

「夢が見える者と……命が読める者か………」

「え……」

「すまない。自己紹介が遅れたな……わしは生野透助。夢命とあの子…希望の……祖父に当たる者だ」

「……わしの息子が……とても残虐なことをしたな…二人の子が病だと知った時、彼らを捨てることを決めた。当時のわしも病気で…捨てるしかなかったのだろう…」

「夢命の両脚を切り落として、無戸籍のまま捨てて、今度は自身が浪費してきた借金を押し付けて…姿を消して……ぐすっ」

希望さんの隣で入院していた、老人は生野透助…つまり、夢命や希望さんの祖父に当たる人物だった。彼は涙を零しながら話を続けた。これは二十年ほど前…当時の院長が医大生だった時の話…。夢命は先天性の病気を患っていて、それを知った透助さんの息子が…彼の両脚を切り落とし、無戸籍で居ない者扱いした。そして…希望さんも先天性の病気を患っていて、両親は夢命のことはなかったかのように仕事を掛け持ちしつつも、彼のために治療のための資金を稼いだ。しかしそれは、長く続かず両親は希望さんに多額の借金を押し付けて蒸発したのだ。それでも夢命と希望さんは兄弟で、病状も同じだったのだ。しばらくして透助さんは落ち着いた。

「……すまない…」

「いえ、ずっと…誰に聞いて欲しかったのでしょう」

「あぁ。だが、この医師によって、二人の心は壊れなかったんだ…」

「懐かしいですね……確かに当時の私は医大生で、医師として生きることが困難になっていた。だが、あの子…夢命君の生きていた姿…希望君が生きようとしてる姿を見てきたから、私は四十六歳の今日まで医師を続けられている…」

「……院長」

「…日出君の命を読む力を頼りに、治療法を探す……今の私達に出来るのはそれしかない…」

「…福吉君も…またあの子の治療に加わる……きっと彼は国試対策で……」






……To be continued

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