第20話 悪魔

 もはや人間ではないなにか。


 さっきまでゴンダラだったもの。


 皮膚は赤く、頭には黒い二本の角。

 背中にはコウモリのような羽が生え、臀部からは尻尾。

 手足の爪が長く、瞳は闇のように真っ黒。


 言い伝えられている悪魔そのもの。



枠入自在アクターペイン



 僕は再び時を止めてカーソルをゴンダラだったもの、悪魔に合わせて意識を集中させる。



 シュゥゥン──。



 浮かび上がってきたステータス欄が僕を飲み込む。


 と、目を開けてびっくり。


 だって数字が紫色に濁ってるんだもの!


「うぇ……なにこれ、気持ち悪いな……」


 めちゃめちゃ不吉な色。


 枠線、つまり周囲を覆ってる壁も紫色。


 なんか空気まで悪い気がする。


「うぇぷ……」


 生臭さに耐えて背伸びして全体を見渡す。



 名前 ゴンダラ・ンコム

 称号 下級悪魔

 種族 悪魔

 性別 男

 年齢 1

 LV 1

 HP 345

 SP 89

 STR 69

 DEX 57

 VIT 386

 AGI 68

 MND 24

 LUK 1

 CRI 1

 CHA 4



 称号『下級悪魔』!


 種族『悪魔』!


 名前は……ゴンダラのまま。


 ゴンダラ……悪魔になっちゃった。


 なぜ? ホワイ?

 僕が年齢をいじったから?

 それとも……。


『魔薬』の影響?


 例えば、使用した反動で年を取ったときに悪魔になるとか?


 だから年を取らせたら悪魔になった?


 じゃあ、年齢を戻したらゴンダラも人間に戻る……?


 と思ったけどダメだ。

 年齢「1」才。

 動かせない。


 レベルも「1」。


 HPが「345」で、VIT(丈夫さ)が「386」。

 盾職のゴンダラらしいステータスが特に伸びている。


「レベル1でこのステータスってヤバすぎでしょ……」


 エンドレス史上最強の冒険者ロンでもオール二桁だったのに。


 まぁ、ロンは54才であれだからすごいんだけど。


 しかも、どのステータスも動かして入れ替えられるような部分がない。


 う~ん。


 年を取らせて弱体化させるつもりが、逆に悪魔化させて強化しちゃったんだけど、これ一体どうすれば……。


「とりあえず動かせるかだけでも試してみよう」


 悪魔のステータスだもんね。


 紫色だし。


 なにがあるかわかんない。


 とりあえず確認できることだけでも確認しとこ。


 不吉なオーラ漂いまくってる数字の上からひょいと下りると、ためしにグググと押してみる。


 ぶわっと不吉オーラが広がった気がした。


 なんかいや~な感触。


 ズズズ……。


 でも動くことはちゃんと動く。


 どうやら悪魔だろうがステータス自体は動かせるらしい。


 確認できたので数字を元の位置に戻す。


「さてさて、このまま元の世界に戻ってもハンパないステータスの悪魔ゴンダラにやられちゃうわけで。ハルのLUKと会心率に賭けるにも一か八かすぎるしなぁ。はわぁ~、一体どうしたもんやら……」


 一人でブツブツ口に出して状況を整理する。


 ここは僕だけの空間。

 誰にも気兼ねする必要ないし。


 なんならお昼寝だってできちゃうわけで。

 いや、しないけどね。


 ハルやリュウくんたちが危険なときに寝てなんかいられない。


 にしてもこのままじゃお手上げ。


 ずっとここにいるってわけにもいかないし。


 う~~~ん。


 どうすっかなぁ~~~~~~。


 数字の上に座って頭をうんうんと左右に振っていると。


「んっ?」


 見えた。


 数字の陰からひょこっとこっちを見てる、


 へ? 気のせい?


 だって、ここには僕しか入れないはず……。


 ひょこっ。


 あ、また。


 数字の陰からこっちを覗き込んでる。



 小鬼インプ



 紫の体。額に生えた角。ちっちゃい翼。先の尖った尻尾。尖った耳に黄色い目。小鬼インプ。どこからどう見ても言い伝えられてる小鬼インプそのものだ。


 それが、えっと、あ、なに? 手に体の半分くらいある巨大な針付きの透明な筒を持っている。筒の中には禍々しい緑色の液体がたっぷんたっぷん。それを数字に刺して中の液体を押し込むと──。


 ジュワァァン……。


 いやな煙を吐いて数字が変化した。

 HPが「345」から「477」へと。


(……は?)


 え? なに?


 僕以外にもステータス欄の中に入れる存在がいるってこと?


 それともこれは『魔薬』とやらの影響?


 なんにしても……。


「クキ……クキキキ……!」


 小鬼インプはカランと液体を注入しきって空になった筒を捨てると、僕に向けて邪悪な笑みを向けてきた。


 え、これもしかして僕ヤバくね?


 外に出たほうがいい?


 いや、でも外に出たら悪魔化したゴンダラに殺されるし……ああ~、どうしたら……。


 ぐるぐると思考が回ってるうちに小鬼インプはそのちっちゃい翼をはためかせて一直線に僕めがけて飛んできた。


 マジ!? はやっ!



枠入自在アクターペイン!』



 ダメ、ステータスの中じゃスキル使えない!


 ヤバ、もう目の前。


 小鬼インプの勝ち確なニヤケ顔が目の前に迫る。


 あ、死……。


 そう思った瞬間。



「ぶふぉっ!」



 小鬼インプの顔面が上に跳ねる。


「ゆっ!」


 その声は僕の首から下げたネックレス。

 そこから伸びた青い腕から発せられた。


「アオちゃん! ついてきてたのっ!?」


 青い飛沫を漂わせながら、ネックレスの中からアオちゃんがにゅるんと出てくる。


「ゆ! おと~しゃまを傷つけようとする奴は許るさんゆ!」


 助かった! 地獄に仏!


「ありがとうアオちゃん! どうやらあの小鬼インプがみんなをおかしくしてるらしい! 倒そう、あの小鬼インプを! そしてハルたちを助けるんだ!」


「ゆ! おか~しゃまもおと~しゃまもみんなを守るゆ!」


「グギギ……」


 こうして突如、ステータス欄の中で僕&アオちゃんvs謎の小鬼インプの戦いが幕を開けたのだった。

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