第18話 大賢者様のおうち
家に入って思ったのは。
「あれ? 見かけより広い?」
「ゆ! 魔法で広くしてりゅって!」
「へぇ~、すごいんだね賢者様って」
「ゆゆゆ!」
まるで自分が褒められたかのようにアオちゃんはうにゅにゅと形を変えて喜ぶ。
まず目につくのは書斎。
おっきな机。
頑丈そう。
奥には高級そうな茶革張りの椅子。
窓から入ってきた日差しが埃をキラキラさせてちょうど椅子のところに射し込んでいる。
なんとなく座ってみた。
(おおっ……)
ふかふか。
なんかしっくりくる。
しかもこの椅子、くるくる横に回転ちゃうのです。
ふふふ、なんか楽しいぞ。
きゅっきゅと回転させていると、机の上に置かれた一冊の本が目についた。
なんとなく広げてみる。
ぱらぱらぱら。
うん、わからん。
難しい記号とか式みたいなのが延々と書かれてある。
「これってヘリオンって人が書いたの?」
いつの間にか僕の膝の上にちょこんと腰掛けてきてたアオちゃんに聞いてみる。
「ゆゆ! そうゆ!」
頭をぐぐっと上げて嬉しそうに答えるアオちゃん。
あらら、かわいっ。
「頭がいい人だったんだねぇ」
「うゆ! ヘリオン様はとっても賢かったゆ! いっつもいろいろ話しかけてくれてたゆ! それで言葉を覚えたゆ!」
にこにこ。
「アオちゃんはその時から人の姿になれたの?」
「その時はまだ小さいただのスライムゆ。人の姿になれたのはおと~しゃまと会ってからゆ」
「そっか」
ってことは人型になれるようになったのは僕が若返らせたからか。
たしか、91才から19才に変えたはずなんだけど……19才にしてはアオちゃんちょっと幼すぎない?
まぁ、きっといろいろなあれががどわ~っとなってぐわ~っとなったんだろう。
……バグった?
つくづくアオちゃんがスライムでよかった。
もう誰かの年齢をいじるとかやめとこう。こわい。
気分を変えるべく僕はぐるりと部屋の中を見回してみる。
書斎の正面には玄関。
外から戻ってきてすぐこの椅子に座ることが多かったんだろうか。
なんとなく見たこともない90年前の賢者の姿が頭をよぎる。
家は書斎を中心に左右に伸びている。
左手の方は寝室。
周りを本棚がぐるっと囲んである。
ヘリオンはベッドで横になりながら色んな本を読んでたのかも。
それから色んな小物なんかが収められたガラスケースもある。
あとで見てみよ。
で、右手の方にはキッチンとお風呂。そして白い陶器の椅子……っていうかこれもしかして……。
「トイレ?」
「ゆ! ヘリオン様はそこで用をたしてたゆ! レバーを引くと魔法で全部きれいになりゅゆ!」
「へぇ?」
魔法で全部きれいに?
う~ん、よくわかんないな。
「あのぉ~、カイト……?」
「どうしたのハル?」
「えっと、その、私ちょっとお腹が……」
「あ、使ってみる? 魔法のトイレ」
「うん……えと、その、だからカイトたちちょっと外で待っててもらっても……」
ああ、丸見えだから。
ヘリオンは誰かと暮らすとか考えなかったんだろうか。
「じゃあちょっと表にいるね。いこっかアオちゃん」
「ゆ!」
「ごめんね……」
外に出た僕たち。
はぽかぽか陽気できんもちい~。
池をスイスイ泳ぐきれいな赤色のお魚とたわむれる。
すると。
「きゃあああああああああ!」
ハルの悲鳴。
「ハル!?」
ダッシュでドアを開ける。
「レ、レ、レバーを引いたら、お尻がべろんって……」
下半身丸出しで青ざめてるハル。
「べろん?」
「それが魔法ゆ! ぜんぶきれいになりゅゆ!」
ウキウキと横に揺れるアオちゃん。
「え、らしいけど……大丈夫?」
「だ、だ、だいじょうぶじゃない……手、貸して……」
「やれやれ」
ぷるぷると子鹿のように震えるハルを抱き起こすと、近くにあった毛布を腰にかけてあげる。
トイレの中をちらっと見ると一点の曇りもないきれいな状態が保たれてた。
へぇ、すごいな魔法。
こんな魔法があるならもっと世の中に広めた方が便利じゃない?
なんでしなかったんだろ?
なんてことを考えつつハルをベッドに座らせる。
「ありがと……ちょっとびっくりしちゃって」
「いいよ。落ち着くまで休んでて。いま水筒もってくるから」
そう言って振り向いた時、ガラスケースに体をぶつける。
「おっと……」
ガラスケースの上に置かれていた水晶玉がころころと転がってくるのをナイスキャッチ。事なきを得た。
「ふぅ~、あぶないあぶない。あんなすごいトイレ作る大賢者様のコレクションだもんね。壊しちゃったら国家的損害だったかも。ナイスキャッチ僕」
両手で水晶玉を持ってそっと元の位置に戻そうとした時、水晶玉の中になにかが映ってるのが見えた。
「ねぇ、ハル。なにか映ってる」
「なにかって?」
「人? あっこれ……」
ハルの横に腰掛けて水晶玉を覗き込む。
すると、映像がくっきりと浮かび上がってきた。
「リュウくん?」
さっき会話したリュウくんたち。
場所は、背景から察するに地下迷宮の三階層っぽい。
「なんでリュウくんが……」
「なんかボロボロになってない?」
「三階層で出る魔物はバットとワームだ。ステータスを強化してあげたリュウくんたちが手こずるような相手じゃ……」
「もっと他のとこ見えないのかな? 貸してみて」
ハルが僕の手に重ねて水晶玉を傾けると、リュウくんたちの向かい側が映し出される。
そこにいたのは──。
「あっ──!」
ダンスキー。
僕を追放した元パーティーメンバーだ。
「こいつらがリュウくんたちを……?」
「ハル、アオちゃん!」
僕一人で行ってくるからここで待ってて!
そう言おうと思ったんだけど。
「助けに行くんでしょ、カイト。まさか置いていくだなんて言わないわよね?」
「ゆ! リュウくんたちたすけりゅ!」
先回りして言われる。
心強いし温かい。
ありがとう、ハル。アオちゃん。
こくりと頷くと、僕たちは。
「行こう!」
「うん!」
「ゆ!」
第三階層に向かって駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます