2潜り目

第8話 凱旋祝い!

「かんぱ~い!」


 あれから隠し通路を歩いていった僕らは、敵に出くわすこともなく町外れのほこらに出れちゃったのでした。


 で、無事に探索都市エンドレスに帰り着いたってことで、ごはん屋さんで凱旋祝いの乾杯の盃をごっつんこ。しゅわわとあふれるエールの泡。


「ぷはぁ~! いやほんとに! カイトのおかげで私どうにか生きて戻ってこられたよぉ~!」


 明るいハルの口からエールのすえた匂いが漂ってくる。


「おまけにこんないいごはん屋さんを奢ってくれるんだからカイトすごい! も~同じ年とは思えない! なんでカイトってそんなすごいの!?」


「別にすごくないよ。ごはんはあれ。ミノタウロスから回収してきたミノが高く売れたからね。臨時収入。ミノタウロスのミノ、通称『ミノミノ』って言うんだけど、薬に使う希少な素材でさ。高く売れるんだ。あ、そうだ。はい、これ。ハルの取り分」


「いやいや、受け取れないよ!」


「え、だってハルがいなかったらミノタウロスに会わなかったし。会わなかったら倒せなかったし」


「でも……私がいたからミノしか取ってこれなかったんでしょ?」


「どのみち僕一人じゃ危なくて解体できなかったかな。解体してる最中に他の魔物に狙われたらヤバいし。それに一人じゃ素材もたくさんは持てないしね。だからこれでいいんだよ」


「えぇ~、な~んか納得いかなぁ~い」


「いらないって言うんならこの店のお客さんたちにお酒奢っちゃうぞ?」


「え、それはちょっと……」


「それがいやならハルが受け取ることだ」


 ハルがむ~っと膨れて上目遣い。


 おいおいおい。

 これだけ怒って可愛いとか神かよ?

 マジかわいい。

 こんな可愛い子とご飯食べてる僕。

 僕史上サイコーにイケてる。

 え、なに? これ現実?

 やっば、胸ぽかぽか心ふわふわ。


 丸テーブルの上のアオちゃん(飴玉)が、丸テーブルの上に落ちたエールの飛沫のほうに転がっていってたので優しく止めて骨付きリブを与えてあげる。


 ぺろりんっ。


 あっという間に飴玉の中に消えるリブ肉。


 ぺっ。


 骨がぺろんって吐き出された。


 ぷっ。


 僕とハルは同時に笑う。


「わかった。受け取る。その代わり、この先しっかり働いて今度は私がカイトに恩を着せてやるんだから!」


「うん、期待してる」


 ハルのことが好きだ。

 ハルは前向きでいつも未来の話をする。

 やたらとウジウジボーイな僕とは対称的。

 ステータス欄の中の数字の手触りも好きだ。

 なんだか人生が一気に明るく拓けてきた感。

 

 そしてなにより。


 無事にダンジョンを脱出できた。

 ハルを助けることが出来た。

 死にそうだったアオちゃんを助けることが出来た。


 みっつの「できた」が僕に与える充足感。


 生きてる。

 楽しい。

 嬉しい。

 人生ってこんなにウキウキなものだったんだ。

 今までおどおどビクビクしてた僕には想像もつかなかったよ。


「なに笑ってんの?」


「うん、幸せだなと思って」


「私……幸せってよくわかないかも。あ、でも楽しい感じはしてる! カイトと出会えて!」


 じぃっと視線がこう、なんか蛇の交尾みたいに絡まり合う。


 え、ちょっと待ってこれ。


 なんか空気がピンクな感じ。


 え、なにこの間。


 でも不思議と間があってもぎこちなくない。


 不思議な感じなんだけど、初体験なんだけど、この感じ。


「ねぇ、このあと……」


「え?」


「どうす……りゅ……にょ?」


「ありゃりゃ? ハル?」


「ありゃ……わらひ……よっぱら……?」


 ハルが顔真っ赤にしてテーブルに突っ伏したのでエールや料理が落ちないようにササッとよける。


 ぺちょっ。


 その際に飛び散ったエールの雫がアオちゃんにかかる。


「うゆ……?」


 むくむくむくと大きくなりそうな感じで震える飴玉状アオちゃん。


 ヤバい、ここでおっきくなられたら殺されちゃうって。


「ここ、宿屋も併設してるからさ! 部屋取ってくるから! 二人そのままで待ってて絶対おねがい!」


 ガシッ! ハルに手を掴まれる。

 ああ、急いでるのに。

 っていうか酔っ払いなのに力強い。


「うにゃ~、カイトぉ……一緒の部屋ぁ……」


「え? ダメでしょそんな」


「うぅ~、一緒の部屋じゃないと手はなさいからぁ~」


「えぇ!? ちょ……アオちゃんめちゃめちゃ震えてるし! わかった! わかったから手はなして!」


「にゃにゃ~、やったぁ~カイトと一緒のベッドぉ~」


「いやベッドは別だからね!」


 ふにゃったハルの手をテーブルの上に置いて僕は急遽部屋を取る。

 なんか一番高いスイートしか空いてないらしくて手痛い出費だったけどアオちゃんの命には変えられない。さいわいミノミノのおかげでお金は足りる。

 鍵を受け取って手早く席に戻るとぷるぷる震えてるボール球くらいにおっきくなったアオちゃんをかばんに入れ、ハルを背負い、骨付き肉を数本口にくわえ、ドタタと三階まで上がってスイートルームへとインした。


 で、ビビった。


 めっちゃいい部屋!


 しかも。


 ベッド……ひとつ……?


 え、なにこれ?


 僕、床で寝ろ的なこと?


「ふにゃぁ~! カイトぉ~、ベッドぉ~!」


「はいはい」


 僕はおぶったハルをでっかいベッドの上に背中から下ろすと──。


「うわっ!」


 ガシッとハルに抱きつかれてベッドへと引きずり込まれた。

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