第7話 うゆゆ?
「おと~しゃま!」
俺の足にしがみついてくる裸の女の子スライム。
いや、女の子っていうかこれ……。
幼女?
91歳の死にかけスライムを若返らせたら幼女スライムになって? 懐かれて? そんでもって父親だと間違われちゃいました?
どゆこと?
ボーゼンとしてるとハルの声。
「カイト!」
ドキッ。まだハルのタメ語に慣れない。
タメ語でいいって言ったの僕なのにね。
「な、なに?」
「その子……!」
あ、うん。モンスターだもんね。若返らせたらなんかステータス異常に高くなっちゃったし。しかも人型に変化だなんて厄介きわまりな……。
「かわいいいいい~~~~!」
えぇ……?
「見て見てカイト! この子めちゃくちゃかわいくない!? あ~ん、もうぷにっぷに!」
ハルは幼女スライムのほっぺたを人差し指でぷにぷに押す。
押されるたびに幼女スライムのほっぺたはぽよんぽよんお餅みたいに反発する。
「あぅ……うゅゅ……」
なすがままにされる幼女スライム。
「あの? ハル? 危険だからさ。その子めちゃくちゃステータス高くなっちゃったから」
「え~? 危険~? 絶対そんなわけないって! こんなにかわいい子が危険だなんて! ね~!?」
ハルのほっぺたと幼女スライムのほっぺたがペタ~。
あぁ、気持ちよさそう……。
じゃない!
ほんとに危ないんだって!
とはいえ。
「うゆ? うゆゆ?」と言いながらハルになでなでモミモミさわさわぷにぷにされている無防備幼女スライムは──。
かわいい。
たしかにかわいい。
なんなら鬼かわいいくらい言ってもいい。
なんだ? これが萌えってやつなのか?
全身水色。
身の丈僕の腰くらい。
髪が長くて手足が短い。
ほっぺたぷにっぷに。
お目々が垂れててくりっくり。
お鼻ちっちゃ!
ちっちゃな唇は「む~」と突き出てる。
髪の先っぽはくるんってなってるし、体の周りには水色の泡みたいなのがポンって浮かんでは消えている。
改めて僕の人生を振り返ってみると野生の幼女ってものに遭遇したのはこれが初めてかもしれない。
いや、野生じゃなくても養殖の(?)幼女だったとしてもだ。
つまり初幼女。
僕はずっと田舎でじいちゃんと二人で暮らしてた。
その間に会ったのはたまに尋ねてくる大人くらい。
だからこれが幼女との初遭遇。初エンカウント。
幼女と言ってもまぁこれスライムではあるんだけど。
「ねぇカイト。この子、もしかしたらあなたのことお父さんだと思ってるのかも」
「え、なんで?」
「ほら、生まれて最初に見たものを親と思い込む動物とかいるじゃない?」
「え~、なにそれ」
幼女スライムを後ろから抱きかかえたハルが僕を指さして「お父さん?」って聞く。
すると幼女スライムが「うゆゆ……うん、おと~しゃま!」って嬉しそうに答える。
「マジかよ~。勘弁してくれよ16歳で子持ちとか……」
「え、そこ!?」
「っていうか魔物でしょ? 懐かれても困るよ」
「じゃあなに? こんな可愛い子をここに置いていくってわけ? こんなに懐いてるのに?」
「いやそういう問題じゃなくてさ、例えばこの子を町に連れて行ったらどうなるさ? すぐスライムだってバレて殺されちゃうって。だからムリ、連れて行くとか」
「あう……たしかに……」
ホッ。
やっとわかってくれたか。
いくら可愛くても萌えてても僕のことを父親だと思いこんでたとしても魔物を町に連れて行くなんてことはできない。
たしかにちょっと後ろ髪を引かれる気持ちはある。
でも、ここで91歳まで生き延びてきたスライムだ。
ここにいる限り少なくとも死ぬってことはないだろう。
安全なはず。
だからここにいるのが彼女のためにもいいんだよ、うん。
ハルが抱きかかえていた幼女スライムを名残惜しそうに地面に下ろす。
急に解放された幼女スライムは「??」な顔をしている。
「ごめんな、僕らはもう行かなきゃいけないんだ。それから僕は君のお父さんでもなんでもない。だからここでお別れだ。いつかほんとうのお父さんに会えるといいね」
幼女スライムの頭をそっとなでる。
「……ごめんね」
ハルも申し訳無さそう。
「ほら、行こう」
ハルの背中を押して前を向かせる。これ以上なさけは禁物だ。
「うゆゆ……うゆゆぅ……」
あぁ……嘘でしょ……背後から泣き声が聞こえるんだけど……。
「おとうしゃまぁ……おかあしゃまぁ……私を置いて行かないでぇ……おねがぁい……うゆゆゆ……」
あああ……罪・悪・感!
っていうかもう無理!
振り向く。
幼女スライムが立ったままびえんびえん泣いてる。
うわ、マジごめんって。
「カイト! やっぱり連れて行こう、この子!」
ハルが幼女スライムに駆け寄って抱きしめる。
「うん」
あ~だめだめ。
これを見捨てていけるほど僕は非情じゃないって。
でもだからといって町には連れていけないわけで……。
う~ん、一体どうしたら……。
「あ、そうだ!」
ハルがなにか思いついたっぽい。
「ねぇ、アオちゃん?」
「アオちゃん……?」
「うん、青いからアオちゃん。ねぇ、アオちゃん。あなた形を変えられるんでしょう? それならさ、小さくなったり出来ない?」
「うん……できりゅ」
幼女スライム──もとい「アオちゃん」は、そう答えるとぎゅるんって小さな飴玉みたいになった。
「え、こんなに小さくなれるの!?」
「うゆ、なれりゅ」
飴玉がしゃべった。
「すごい! これなら連れていけるね!」
「そうだね」
僕はかばんのポケットにそっとアオちゃんを優しくしまうと、なだらかな一本道をゆっくりゆっくりと
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