第5話 隠し通路発見!

「説明はあとでするからまずはここから離れよう。騒ぎを聞きつけた魔物が寄ってくるかも」


 ハルはこくりと頷く。

 素直についてくるってことは他に仲間はいないっぽい。

 ってことでさっそく離脱。

 僕が前に立ってハルは後ろから。

 ハルの足取りが重い。

 心配だ。


 ハルの残りHPは「1」。

 魔物の不意打ちでも食らっちゃったら一発でアウト。

 僕は最新の注意を払って逐一スキルを発動させつつ進む。

 SPの消費がかさむ。

 けど、十階まで行けば休めるところもある。

 仲間ができた分、交互に休みも取れる。


 だからがんばれ、僕。




 と思ったけど、頑張る必要もなくあっけなく十階層に到着してしまった。

 なんと途中で一切敵に遭遇しなかったのだ。

 なんたる幸運。

 え、これもしかしてハルのLUK値のおかげ?


 十階の湧き水の出る広間には他に三組のパーティーがいた。

 みんなこっから先に進むか戻るかを話し合ってる。

 ここは初心者パーティーの目指すゴール地点みたいな感じだからね。

 二人っきりで戻ってきた僕らを見て「マジ? なんなんこいつら?」みたいな目を向ける他のパーティーさんたち。


「十二階層にミノタウロスいたよ。進むのやめといたほうがいいかも」

「は!? ミノってマジ!? 三十階層以降にしかいなんじゃねぇの!?」

「マジマジ。めちゃくちゃ運よく逃げられたから助かった」

「マジか~。やべぇな……今日はやめとくか……」


 倒したことは言わないよん。

 だって素材取りに行くとか言い出して死なれたら夢見が悪いじゃん。


「はい、これ」


 水筒に湧き水を汲んでハルに渡すと「ぷはぁ」と一気に飲み干した。


「あの……!」


 息を吹き返したハルが聞いてくる。

 あ、唇から水滴がたれてる。

 ちょっとえっち。


「なにかな?」

「さっきなんで倒したって言わなかったんですか? ほんとは逃げたんじゃなくて倒したのに……」

「ああ、だって危ないでしょ?」

「あぶ……?」

「本来ミノタウロスってこんな浅い階層に出る魔物じゃないんだよ。そんなのが十二階に出た。つまりなにか異変が起きてるかもしれないんだよね。だから危ない」

「はぇ~! そうなんですね! 色々知っててすごいです! それに優しい!」


 えぇ? 常識だと思うけどなぁ。

 なんだか褒められてくすぐったいので話題を変えよ。

 ってことで聞きたかったことを聞いてみる。


「えと、一人なの?」

「はい、パーティー? とかよくわかんなくて」

「わかんない? ギルドでパーティー組まなかった?」

「ギルド?」

「冒険者ギルド」

「へぇ、そんなのあるんですねぇ」


 はい?

 冒険者ギルドを知らない?

 この称号「村娘」さん、もしかして……。


「エンドレスにはいつ来たの?」

「今日です」


 や、やっぱり……。

 この子、本物のおのぼりさんなんだ……。

 だから称号「村娘」……。


「えっと、それでなんで地下迷宮に?」


「私、親がいないんですよ。村で一人で暮らしてて。で、こっそり聞いちゃったんです。親はこの地下迷宮ってとこで死んだらしいって……」


「なるほど。それで居ても立っていられず来たってわけか」


「はい……」


 なるほどね。

 称号が「村娘」なこと。

 仲間がいなかったこと。

 冒険者ギルドを知らないこと。

 つじつまも合う。


「まったく無鉄砲だなぁ。たまたま僕が通りがかったからよかったようなものの」


「はい! あなたは命の恩人です! ちょ~かっこよかったです! シュバッ! ば~ん! ってやっつけるんですもん! なんですか!? あなたは神ですか!? マジですごいです! ありがとうございます! あ、よかったらお名前を教えて下さいっ!」


 急にぐいぐい来るハルに押されながら「カイト……カイト・パンターだけど」と答える。


「カイトさん! カイトさんっていうんですね! あぁ、なんて素敵なお名前なんでしょう! 私はハル・ミドルズ! って、あれ……? そういえばなんで私の名前を……?」


「ああ、それはね」


 僕は自分のスキルについて正直に話すことにした。


 通常、冒険者は自分のスキルの全貌を明かさない。

 スキルは冒険者にとっての財産。

 いくらパーティーメンバーだからといってそれをすべてバラすというのは自殺行為に近い。


 パーティーメンバーは永遠に一緒にいるわけじゃない。やがて別々の道を歩み、いずれ敵になるかもしれない存在。一時の目的が一致してるからこそ組むその時だけの臨時の仕事仲間。


 それがパーティーというものだからだ。


 でも僕はこの子になら話してもいいかなって思った。

 なんでだろう?

 ダンスキーたちに捨てられたのがショックだったから?

 ううん、それよりも。


 この子の信頼を勝ち取りたいと思ったから。

 

 ステータス欄の中に入ってこの子の数字を触った時に気持ちよかったのも関係してるかも。

 それに、僕個人としてもこの子に好意を抱いてる部分もある。

 僕のことを知ってほしいと思った、単純に。


「はぇ~、ステータス欄? そんなのがあるんですねぇ~」


「あ、一応これ企業秘密だから。絶対に人に言っちゃだめだよ?」


 シ~。


「秘密! はい、わかりました! 任せてください! 秘密を守るのは得意です!」


 そう言ってキラキラと丸いお目々を輝かせるハル。

 微妙に頼りなく感じるのは気のせいか。


「にしてもスキルですか~! いいな~、私もスキルほしいな~!」


「スキルもらえるよ、ギルドで冒険者登録さえすれば」


「ほんとですか!?」


 無邪気に振り向くハルの綺麗な金髪がふわりと揺れる。


「うん、地上まで戻ったら一緒に冒険者ギルド行ってみる?」


「はい! 行きます! はいはい!」


 お、一緒に冒険者ギルドに行くことになった。

 ちょっと嬉しいぞ。

 何も知らない田舎娘につけ込んでる感はいなめないけど、それ以上にこんな可愛い子とこれから先も一緒に行動できるってことが嬉しい。

 なんだかちょっと心ふわふわ。


「よ~し、私もスキルゲットしたらカイトさんみたいに……!」


 シュシュシュとシャドーボクシングするハル。


「おいおい、HP1しかないんだからそんなにはしゃいだら……」


 言ってる先からハルが石につまずいた。


 あ、これコケたら死ぬ可能性。


 とっさにハルに飛びついて抱き止める。


 そのまま僕の背が壁に激突。


 すると。


 くるん──。


 と壁が回って。


 あ、あれ……?


 目の前には上へと続くなだらかな一本道が伸びていた。


「こ、これってもしかして隠し通路……?」


 壁の裏から声が聞こえる。


「あれ? さっきの二人組は?」

「さぁ? もう行ったんじゃね?」

「マジかよ。俺らも帰っか」

「んだな、おいとま~」

「はよ中級者なりて~」

「中級者なったとしてもミノはヤバいって」

「マジそれ。いかちい」

「てか腹減った」

「ミノ食いて~」

「あれ半分人じゃね?」

「牛部分だけ」

「タンは? 牛?」

「牛の睾丸美味しいって」

「おぇ」

「俺うんこ」

「帰るまで我慢しろ!」


 声は遠ざかっていってすぐに無音になった。

 あ、みんな帰っちゃったっぽい。


 え~っと、これ……。


 横ではハルが「カイトさん! なんですかこれ!? これもカイトさんのスキルですか!?」なんて言って目を輝かせてる。あはは……。


 あ~、うん。

 とりあえず……進んでみる?

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