第4話 格上狩り

 地下迷宮で殺されそうになってた女の子。


 助けようと思って僕はその子のステータス欄の中に入ってみたはいいんだけど……。


 LUK値(幸運値)がすご~~~い!


 その数値、なんと109!


 109だよ!?


 配置を動かしたら「901」!


 え、901!?

 僕のLUK値が「1」だから901倍だよ!?


 そもそも三桁のステータスを持ってる人なんて見たこともないってのに。


 以前、達人級エリアまで進んだことがあるっていうパーティーのステータスに興味本位で入ってみたことがある。

 その時の最高の数値が80台。

 三桁台は誰もいない。

 それをこの子は……。

 しかも、しかもだよ?

 それを並べ替えて「901」にしちゃったら。

 一体、どうなっちゃうんだろう……?


 ごくり……。


 女の子を救うべく──むしろ正直に言うと興味の方が優先して、僕は女の子のLUK値を並べ替えはじめた。


 女の子の数字はすっごく軽い。おまけに僕の手にひっついてくるみたいな感覚。その吸い付き具合がちょっと気持ちいい。こんなの初めて。ちょっとクセになりそう。


 さて……。


 僕は動かした「901」の上によいしょと登る。


 うわ、光ってる。


 僕の足元で「901」がうっすらと銀色に光を放っている。


 ふぇぇ、なにこれ。

 大丈夫なの? ヤバくない?


 けど、不思議と危険な予感はしない。

 それどころか、この子の中はとても落ち着く。


 うん、そうだ。

 僕がベストを尽くしてあげないとこの女の子は死んじゃうんだ。

 もっとちゃんとステータスをチェックして万全を期してあげないとね。


 僕はつま先立ちしてステータスの全容を改めて確認。



 名前 ハル・ミドルズ

 称号 村娘

 種族 人間

 性別 女

 年齢 16

 LV 2

 HP 1

 SP 2

 STR 4

 DEX 6

 VIT 3

 AGI 11

 MND 4

 LUK 901

 CRI 38

 CHA 7



 ハル!

 この子の名前はハルって言うんだ!


 称号が「村娘」?

 駆け出し冒険者とかじゃなくて?

 しかも冒険者じゃない人がなんでこんなところに?

 歳は16。僕と同じだ。

 レベルは低い。

 こんなレベルで一体どうやって十二階まで……。

 え、もしかして。


 運?


 えっと……他に動かせる数値はCRI(会心率)だけ。

 にしても高い、CRI。「38」。

 普通のレベル2の数値じゃない。

 なんで? LUKの影響?


 CRIってのは要するに必殺の一撃。

 うまくいけば一撃で強敵を屠ることだってある。

 まぁ僕はそのCRIが「1」しかないから恩恵に預かったことはないんだけど。


 よし、とりえずCRIも動かしてっと。


 ズズズズ……。


 おぉ相変わらず軽い。そして数字が手に吸い付いてくるようだ。前のパーティーメンバーの数字を動かす時はこんな感覚なかったのになぁ。


 相性がいいのかな?


 相性……。

 

 この子のカリスマ「7」なんだよなぁ。

 レベル2にしては高め。

 そしてまぁ実際になんというか。


 カワイイ。


 魅力的だ。

 単純計算でカリスマ「1」の僕より7倍は魅力がある。

 おおぅ……。

 言ってて自分で悲しくなってきたぜ。


 ま、なんにしろせっかく居合わせたんだ、この子は助けますよ!

 ミノタウロスは強敵だろうけど、二人で力を合わせればなんとか……。


 あ、ミノタウロスのステータスも見とくか。


 僕はハルのステータス欄から出ると、次はミノタウロスのステータス欄の中へとジュゥゥン──! した。


 どれどれ……?



 名前 ジグル=ガエイン

 称号 魔を喰みしもの

 種族 ミノタウロス

 性別 オス

 年齢 7

 LV 44

 HP 222

 SP 11

 STR 66

 DEX 22

 VIT 111

 AGI 22

 MND 8

 LUK 12

 CRI 3

 CHA 4



 あれ……ゾロ目ばっか。

 LUKは入れ替えたら逆に上がっちゃうし。

 これって……もしかしてイジれるとこ、ない感じ?


 そう思った瞬間。


 シュゥゥ──ン。


 ミノタウロスのステータス欄が平面になると再び僕の体を通り過ぎた。


「やべっ! 集中力が切れたから!?」


 灰色だった世界が色を帯びていく。

 再び動き出したミノタウロスの斧がハルの頭目がけて振り下ろされる。


「ハル! 逃げろ!」


 とっさに声を掛ける。


「へ?」


 ハルがこっちを向く。


「グガ?」


 つられてミノタウロスもこっちを向く。


 振り下ろされた斧がズレて地面を直撃する。「ガッ!」


 欠けた斧の破片がミノタウロスの目に入る。「グワァ~!」


 目を押さえたミノタウロスがのたうち回り、石に足を取られる。「ガッ!」


 ミノタウロスが僕の目の前に後頭部からぶっ倒れる。「ドタァ~!」


 僕に天機到来。


「……ハッ! でりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」


 ボッコ。フルボッコ。

 HP222だったはず。

 何十発かぶん殴ればいけるか!?


 クリティカル率さえ高ければ手数増やしたら格上も狩れるとは思うんだけど、いかんせん僕のCRIは「1」。期待できない。


 と思いきや。


 スコーン!


(……ん?)


 スカーン!


(……んん?)


 なんか……手応えが。

 会心、クリティカルヒットの手応えがあるぞ?

 なんで?

 僕、CRI「1」なのに。


 まぁいいや!

 とりあえずこれで……!



 ドッガァン──!



 トドメだ!


 虫の息のミノタウロスの顔に鉄拳を振り下ろす。


 スッコーン!(クリティカル!)


 ミノタウロスはピクピクと痙攣すると、そのままパタリと力尽きた。


「ふぅ……」


 思わぬラッキー? 会心のおかげ。

 超格上を狩ることに成功した僕はハルを見る。


「あ、あなたは……一体なん……なんですか?」


 ぺたりとお尻をついたハルが尋ねてくる。


「僕? 僕は──」


 両手でグー! 大丈夫だよ! 安心して!


「ダンジョン脱出中のバッファーです!」


 ハルはきょとんとした顔で「はぁ……」と答えた。

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