最強バッファーはステータス欄の中を自由に出入りできる ~時止め、鑑定、バフ、デバフ能力で陰ながら仲間を支えてた僕、パーティーから追放されたので新米冒険者たちとイチからやり直すことにします~

祝井愛出汰

第1話 最強バッファー、追放される

「カイト、お前をこのパーティーから追放する!」


 僕、カイト・パンター十六歳は探索都市エンドレスの地下に伸びるダンジョンの二十二階でそう言い渡された。


「な、なんで……?」


 パーティーリーダー、戦士ダンスキーの顔が醜くゆがむ。


「あぁ!? なんでってテメエのバフ、全然効いてる実感ねぇんだよ! マジでちゃんとやってんのか!? あぁ!?」


 じ、実感……?

 そんなもののために僕追放されるの……?


「でも……ちゃんとバフは効いてるよ!」


「だぁ~かぁ~らぁ~! その実感がねぇっつってんだろうが!」


「それは朝イチでみんなが寝てる間にバフをかけてるからで……あうっ!」


 横から脇腹に蹴りを入れられる。


「なぁ~にゴチャゴチャ言い訳してんのよ!」


 女魔術師のゼラ。

 彼女はダンスキーの彼女で、敵を残虐に弄ぶクセがある。


「言い訳じゃ……」


「い~え、言い訳よ! だってバフってのは戦闘の時にかけるものよ? それがなに? 朝イチで寝てる間にバフ? そんなのあるわけないじゃない! 魔術の専門家の私が言うんだから間違いないわ! あんたはインチキ野郎のクソ詐欺師よ!」


「そんな……詐欺師なんかじゃ……あうっ!」


 ゼラの吐いたツバが頬にかかる。


「口答えすんじゃないわよ! 大体あんたのこと気に入らなかったのよね! いっつもヘコヘコしてて後ろからこっそりついてきててさ! きもっ! あ~……思い出しただけでもサブイボ立ってきた! もう生理的に無理! さっさと消えろゴミ詐欺師!」


 生理的に無理?

 元から僕が嫌いだったってこと?

 それならそうと最初から言ってくれたらよかったのに……。


「んまぁ~、ゼラが言うならそうなんじゃね? 知らんけど。俺はお前になんの感情もないから別にどっちでもいいんやけどね。存在すら気にしたことほとんどなかったし。ってことで俺はリーダーたちに従うわ。ま、こんな奥深くに置いていかれたら死ぬやろ~けどしゃ~なしやね。おつ!」


 盾職のゴンダラ。

 大体いつもこの調子。

 物事を深く考えないおおざっぱな大男。

 しかしなにげに「存在すら認識されてない」ってのはキツいな……。


「……前からキモかった。私の後ろ歩くな。お尻ばっか見てたでしょ、死ね」


 無口な女回復師バーバラ。

 普段の態度から察してたけど、この子たぶん僕のことめちゃくちゃ毛嫌いしてる。


 この四人。

 戦士ダンスキー。

 魔術師ゼラ。

 盾職ゴンダラ。

 回復師バーバラ。

 僕が共に旅してきたパーティーメンバー。


「わかったか!? これがうちのパーティーの総意なんだわ! ドゥーユーアンダースタァ~ン? お荷物バッファー詐欺師のカ・イ・トくぅ~ん?」


「そんな……! 僕はちゃんと……」


「おう、やれぇゴンダラ!」


「ほ~いっと」


 なすすべもなく、というか抵抗する気力すら失った僕はあっさりと組み伏せられて後ろ手に縛りあげられた。


「ってことでぇ~! お前にはぁ~! これからここで魔物たちのエサになってもらいまぁ~す!」


「きゃはは~! 詐欺師のくせに最後に役に立ててよかったじゃん!」


「最後にタンク役……いや、囮役ってことか? ま、なんでもいいや。よろしく~」


「……死ね」


 うつむく僕に目もくれず、僕のパーティー……いやたちは「あ~せいせいした!」「いい気味だぜ!」と笑いながら立ち去っていった。




「はぁ……捨てられ……ちゃった」


 知らなかったよ……。

 そんなに僕が嫌われてただなんて。

 にしても……ダンスキーたちは下層に行ったけど大丈夫かな?

 ここから先はまだ未体験の階層なはずなのに。

 ま、今日の間はまだ僕のバフも効いてるし。

 よぽどのことがない限りはたぶん大丈夫。


「にしても……がっくりだよ、はぁ……」


 なにもこんなところに置いていかなくても……。

 あれが、あの姿が、僕が信用してた仲間、なんだよなぁ……。


 そのまま立ち上がる気力すら失い、うなだれていると。


 現れた。


「グルルルルル……!」


 キマイラ。

 獅子、ヤギ、ヘビからなる凶悪な魔物。

 久しぶりのエサなのかダラダラとヨダレを垂らしている。


 さぁ、いよいよ命の危機。

 けど、いくら絶望してても……食べられるわけにはいかないなぁ。


「これ、疲れるから本当は嫌なんだけど」


 キマイラが飛びかかってきた。


「はぁ……」


 ため息ひとつ。

 僕はスキルを発動させる。



枠入自在アクターペイン



 世界が灰色に染まる。

 まるで時が止まったような。

 いや、止まっている。実際に。

 その証拠にほら。


 僕に飛びかかってきたキマイラが宙に浮いたまま固まってる。


 けど僕も動けない。

 この時間停止の絵の中で僕に出来るのは観察だけ。

 そして──。


 だけ。


 灰色の世界の中で僕とキマイラの間を白い矢印が行き来する。


(まずは……僕だな。縄もどうにかしなきゃだし)


 自分に意識を集中。

 ぴこんと矢印が点滅。

 すると僕のステータス欄がぐわわぁ~と浮かびあがってきて。


 ジュゥゥ──ン。


 と


 つむっていた目を開けると、僕の足元にはずらりと並んだ巨大数字の数々。


 そう、ここは。

 


 



 さ~てと。


 ステータスをいじってここから脱出するとしますか〜。



 ────────────


 【あとがき】


 読んでいただいてありがとうございます!

 新連載です!


 今日4話まで、明日以降毎日1話更新です!

 少しでも「続きが気になる」と思われたら★★★、ブックマーク、ハートお願いします!

 では、2話でまたお会いしましょう!

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