第7話

マサルの思っていた通りカオルはイズモの事などどうでも良かった。

カオルが恋愛感情を持っていた相手は小濃阿このあ宝也ほうやという医者だ。

そしてホウヤの指示でカオルは医療ミスを装ってマサルの父を殺した。

そうすることでイズモは責任を問われることになるはずだった。

するとイズモの後釜にホウヤが納まる流れ。

そのような寸法であった。


ところでイズモはこの殺人を医療ミスと信じ込んで隠ぺいを上手くこなした。

そのおかげでカオルたちはイズモの責任を追及できなかった。

カオルはそれでマサルを利用することを思いついたのだ。

マサルがイズモを責める事で病院もイズモの責任を追及するはずだった。

だがマサルは病院に来なかったし、イズモは行方不明となった。


カオルがマサルにイズモの隠ぺいを垂れ込んでから、

イズモが行方不明となったので、カオルはマサルが手を下したと確信していた。

根拠もなく状況だけ判断するとは短慮だが、まあ当たっていた。

最期の時も「やっぱりあんただった」と思いながら倒れた。


さて、マサルの父は医者どもの権力争いのために殺されたのだ。

あの病院に入院したのが間違いだった。

父が倒れた時に担ぎ込まれた病院でも港に近くて良かったのだが、

家から近いほうが良いと母が言ったのだった。

それで選んでしまったのが不運だったと思うしかない。


ここでマサルが今許せないのは黒幕であるホウヤだ。

卑怯にも自らの欲のために他人の手を使って無関係の人を殺す奴だ。

控えめに言って屑である。

何とかしてホウヤに仕返ししてやりたい。

きっとそれはすごく気持ちの良いことだ。


マサルはもはや殺人を躊躇しないし、後悔もしなくなった。

イズモやカオルを捌いて食べた時に良い気分になったからだ。

欲望に素直になったのだ。

それで自分が喜んでいれば母も少しは楽になるだろうと信じている。

これらの犯行がずっと露見しなければ良いだけなのだ。


マサルはカオルの記憶の中から使えそうな情報をまとめることにした。

だがホウヤに対する方策については後にすることにした。

今はカオルの骨の処分の方法について立ち戻ろう。

このまま店に置いていたのでは危険だ。


マサルはカオルの肉をすべて丁度良い大きさにして冷蔵庫に入れた。

他に血と内蔵をしみ込ませたものを普段の生ゴミとまとめた。

明日の朝に廃棄業者に引き渡すつもりだ。


骨は自分で海に捨てることにした。

手足と頭骨だけは形がわからないように砕いておいた。

明日に朝市で仕入れをするからついでに捨ててしまえば良い。

肉や内臓がなければ浮かんでこないはずだ。


マサルはやるべきことをやった。

後は仕込みの続きをやって寝るだけだ。

明日の処分がすべて終わってからホウヤについて考えよう。


次の日の早朝にマサルはすぐ漁港へと移動した。

普段よりはやく家を出て朝市が始まる前に骨を海に投げ捨てる。

漁師の心得があるとはいえ自然に還るゴミなら別に心は痛まない。

それが終わってから朝市に寄って仕入れした。


マサルは仕入れが終わった後には店に移動した。

仕入れたネタの仕込みの準備をした。

実際に仕込みをする前に廃棄物収集に生ゴミを出した。

これで肉以外はまた処分できた。

マサルは安心して仕込みを開始した。


仕込みを始めてすぐに入口の引き戸が開いた。

「すみません。まだやっとらんです。」

マサルが御免したが犯人は中に入ってきた。

これは刑事だろう。

「マサルさん、話を聞きに来たんだよ。」

他に警官らがついてきていることはなさそうだ。

邪見にもできないのでマサルは話を聞くことにした。


仕込みをしながら話を聞くということで刑事は納得してくれた。

マサルはもちろん可能な限り友好的に接するつもりだ。

「あんたの親父さんが入院していた病院で、二人ほど行方がわからなくなった。」

なるほどやはりそのことか。

「最初に消えたのは医者だったが、次は看護師だ。

 その看護師が一昨日ここに来たと、このあたりのご婦人に聞いたんでな。」

やはり口の軽い婦人たちだ。

しかしこういった聞き込みが来るのはあの時すでに覚悟していた。

「来ましたよ。イズモさんをどこにやったーって。

 いなくなった医者ってのがイズモさんですかいね?」

刑事は頷いた。

「実際にイズモはここに来たんか?」

「いいや本当に来てない。」

マサルの回答を聞いて刑事は黙ってメモをした。


顔を上げた刑事がニカッと笑って挨拶する。

「忙しい時に悪かったよ、ありがとなマサルさん。」

マサルもそれに挨拶を返した。

最後に刑事が一言。

「看護師はここに来た後どこ行ったと思う?」

この質問はマサルの想定にあるものだ。

無意味におかしなことは言わない。

「脅かしたらとっとと帰ってたんで、さてねえ。」

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