母の言葉

そこは薄暗い地下水路だった。

等間隔に設置された松明たいまつは申し訳程度にあたりを不気味に照らしているだけだった。


ここは狭く続く通路の途中に設けられた少し開けた空間といったところだろうか。

ただ暗いのに変わりなかった。


その空間の一番奥に置かれたソファーに座っている大柄な男。

頭はモヒカンで、頭の両サイドにはタトゥーの模様が入っている。

黒いサングラスをかけていて、口には葉巻をくわえている。


こわー。なに、絶対この集団のボスじゃん、、。


その大柄な男の横には、男に体をもたれかけ、不敵な笑みを浮かべ、こっちを

眺める女がいた。その女が口を開く。


「やっぱりそうだわ。この女の子、さっきから“魔力”がま~ったく感じられない。

魔合者だなんて、嘘なんじゃないの?」


そうですそうです。お姉さんもしかして魔法使い?

どうしよう、めっちゃお腹すいてるし魔法なんていま使えないよ。

もしかして私がマゴーシャじゃないってバレたら〇されちゃうの?



するとその女の言葉を聞いて、倒れている私の横に立っていた男が慌てて言う。


「い、いえ!ま、まさかそんなはずは、、、間違いなくこのガキは酒場で魔法を使ってやした!間違いねーです!」


間違いないですよ、はい。

今の私じゃまったく魔法つかえないですよ。


「おい、どういうことだ?もしホントにそのガキが魔合者じゃないってんなら、

バレないようによなぁ。」


あ、もうその流れになっちゃいますか。

どうしようどうしよう。結構やばくない?


そこでゆっくりと大柄な男がソファーから立ち上がる。

そして私のほうに近づいて歩きながら腰元から何かを抜き出した。


私は体勢を起こす。


剣じゃん、、、。


いくら暗がりでもその鋭くとがった先端が剣のものであることは

すぐに分かった。


男の影はどんどん大きくなり、とうとう私をまるごと覆った。

男が目の前に立ちはだかる。


緊張が流れる。


私の頬を汗がつたう。


やばい、死ぬかも。


なんで?私、殺されちゃうの?

意味わかんなくない?おかしいよ、こんなの。


なんのために“異世界転生”したの?

ただただ幸せに生きたかっただけなのに。

別に特別なことを成し遂げたいわけじゃないのに。


そうだ、別に異世界だからってラノベの主人公みたいに

魔王を手なずけたり、億万長者になったり、世界征服したり

王国の王子様と結婚したりしたいんじゃない。


私はただ、私は、

美味しい食べ物と、優しいお母さん、お父さんと平和に暮らせれば

それでよかったのに。


なにも起きないでいい、特別なことは。

なのに、なのに、どうして、どうして、、、!


男が私の額ぎりぎりにその剣を突きつけ、今にも刃が肌に

触れそうな距離を維持する。


「ま、待ってくだせぃアニキ!こいつかなり威力のでけえ魔法つかって

やしたから、今は魔力が切れてるだけかもしれね、、、」


「うるせぇっっ!!!!」


私を酒場で捕らえた若い男が大柄の男に意見しようとするが、すぐに

退けられる。


「“いま”使えねえと意味ねぇんだよ。作戦決行は今晩だ、ほんとに“魔合者”か

どうかもわからねえガキをこのまま捕らえててもしょうがねえ。

魔力がねえってんならここで死んでもらうしかねえよなぁ?」


男は剣を私の額からその首元に滑らすようにもっていき、気味の悪い

笑みを浮かべた。


お母さん、、お父さん、、。

まず私の頭には六年という月日ではあったが、私を最大限の

優しさで大事に育ててくれた異世界の両親の姿がよぎった。


短い間だったけど、二人の子供になれてよかった。

私、本当に幸せだったよ。


そう心の中で感謝の思いを伝える。


そして次に思い浮かぶのは前世のお母さんだった。

その時ふと、さっきまで見ていた夢のシーンがフラッシュバックする。


ソファーで目覚める私、あたりを見渡し、お母さんがそんな私に

声をかける。テレビの画面を見て私に呼びかけるお母さん。

テレビにはお菓子の家。それを食べてみたいという私。

お母さんはそれを笑ってとがめる。


そして私は冗談のように言った。



この家も全部食べられたらいいのに。



そうすると、お母さんは微笑ましい様子で私に言ったんだ。

思い出した。


そうだ、お母さんはあの時、こう言ったんだ―――。



私は、思いっきり自分の首元に突きつけられた剣の

刃に嚙みついた。

そしてあごに力をこめそのまま刃をかみちぎった。


お母さんは確かにそう言ったんだ。


「 試しに食べてみたら?案外、食べられるのかもよ? 」



私は剣の刃を口の中で細かく噛み砕く。


うっま。


目を丸くして、唖然とする大男をよそに

私はかみ砕いた剣を飲み込む。


≪グルメ実績報告。“下級武器”・盗賊の剣を食しました。≫


≪スキルレベルアップ。スキル“脂肪”のスキルレベルが1上がりました。

【カロリー体内吸収率+1、グルメ消化スピード+1、魔力保存時間+1】現在のスキルレベルは28です。≫


え?あれれ?


続けて精霊ちゃんの声が聞こえる。


≪攻撃魔法・猫爪キャットクロー習得。使用しますか?≫


やったー、形勢逆転見えちゃった。














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