2学期~冬休み始め

Ep.10 -デートに行く。そして外野が増えた-

 …本当に、服どうしよ…。

 クローゼットを漁りながらそんなことを考える。デートに行く機会なんかなかったから、何を着て行けばいいとか分からない。

 というわけで、変に着飾らないようにした。

 グレーの長ズボン(秋用)、無地のTシャツ、それとグレーのジャケット。グレーまみれ。

 クローゼットにこれと黒とか白とかの服しかないし。

「…まあ、お洒落かと言われると…」

 自室にスタンドミラーなんて無いし、伶衣の部屋に無断で入るのもどうかと思ったので、洗面台の鏡で自身の姿を映し出していた。

 少なくともお洒落ではない。が、そんなにダサくもないはず。

 玄関に向かい、「行ってきます」と、誰もいない室内に一言呟く。

 伶衣は別荘扱いの篝音宅に戻っている。待ち合わせがしたいらしく、別々の場所から待ち合わせ場所に向うことになっている。

 2人きりで出かけるのは今回が初めてではない。けど、『デート』という言葉は、不思議と、胸を高鳴らせる。

 待ち合わせ場所に、一歩、また一歩踏み出すたびに、緊張と胸の高鳴りがつのっていく。

 待ち合わせ場所は、高校近くの公園。家からは徒歩20分程度。

「…あ、伶衣」

「彼方」

 可愛い。第一の感想はそれ。

 肩を露出させた白いワンピースに身を包み、背中の3分の2程の長さの髪をポニーテールにしている。

「変じゃ、ないよね?」

 そう言って、不安そうに胸元に手を置く。

「うん。可愛いと思う」

 そう言うと、安心したのか胸元から手を下ろして、流れるように僕の左手を握ってくる。

「ふふっ…。じゃあ、行こっか」

「うん」

「あれあれ、瀬戸くんと伶衣ちゃんじゃん」

「…あ、佐藤さん」

 僕らを見るや否や、隣にいる友人?を置いてこちらに寄ってくる佐藤さん。

「…ほーん?なるほどなるほど~?」

 そして、ニヤニヤしながらそんなことを言う。

「…どっちからぁ~?」

「「ノーコメント」」

「わぁお、息ピッタリ。流石姉弟」

「義理だけどね」

 奥の方にいる佐藤さんと一緒にいた人がこちらに寄ってくる。

「こ~ら、二人が困ってるでしょ」

 そう言って佐藤さんの頭を軽くチョップする佐藤さんの友人的な人。

 佐藤さんから「いてっ」と声が出る。

「すみません、二人とも」

「いえ、佐藤さんとは友人ですし」

 僕と伶衣で何かしようとしたら大体佐藤さんが来るのは想像つくし。

「あ、えっとね、こっちは天笠―――」

「久しぶり、彼方くん」

「あぁ、はい。久しぶりです」

「え、2人って知り合いなの?」

「そうだね。知り合いではある、かな」

 天笠あまがさ実乃みの先輩。体験入学の時に迷った僕を助けてくれた人。それ以上でも未満でもない。知り合い、というよりは顔見知りの方が近い気がするけど、まぁいいや。

「でも、顔見知りの方が近いかな」

「多分。そうですね」

「まぁ、彼女さんとお幸せにね~。ほら、由希ちゃん、行くよ」

「引っ張らないで~!瀬戸くん、伶衣ちゃん、助けて~!」



 電車に揺られること約数分。ショッピングモールに到着した。

 はぐれないように、と心の中で理由をつけて、伶衣の手を少し強く握りしめる。すると、握り返してくれる。

 視線を左に向けると、伶衣が少し俯きながら顔を赤くしていた。

「い、行くよ」

「うん」

 とは言ったものの、どこで何を買うかとかは決めてない。

「取り敢えず、服屋でも行く?」

「うん。そうだね」

 というわけで服屋に来た。

「これ、彼方に似合うかな?」

 そう言って持ってきたのは黒いパーカー。

「ちょっと着てみてよ」

「ああ、うん」

 試着室に入って服を着替える。黒いパーカーが似合わない人っているのかな。まあいいや。

「…ちょっと大きい気がするんだけど」

「良いんじゃない?これなら私も着れるし」

「え?着るの?」

「彼シャツ…じゃなくて彼パーカー?してみたいんだもん。サイズ合わないパーカーは萌え袖的なね?」

「あぁ…僕の方がちっちゃいからサイズが合わないのか」

「そうそう」

 それから約三十数分の間、僕は伶衣の着せ替え人形みたいになっていた。

「…じゃあ、会計しようか」

「うん」

 満足げな伶衣の表情を見て、思わず口元が緩む。

 会計を済ませて店の外に出ると、見覚えのある人が二人。

「あ、彼方くん」

「伶衣ちゃんも」

 天笠さんと佐藤さんが、こちらに気づき近づいてくる。

「これは、私たちがデートを見守れって言う神様からのお告げなのかな?」

「流石にないでしょ」

 ない…よね?

「…じゃあ、せっかくだしお昼ご飯一緒に食べませんか?」

「いいね~」

「じゃあそうしよっか」

「はい。お言葉に甘えさせていただきます」

 そう言うわけで、4人でフードコートにやってきた。

 休日の、それもお昼時というのもあってか、人はかなり多い。

 幸運なことに、たまたま4人が座れる席が空いていた。

「いや~、人多いね~」

「まあ、お昼時だから」

「何食べる?」

「オムライス~」

「由希ちゃん、本当にオムライス好きね」

「美味しいもん」

「じゃあ、僕らもオムライスでいい?」

「うん。問題ないよ」

「じゃあ、私が注文してくるね」

 そういって、天笠さんが立ち上がる。

「あ、僕も行きます」

「良いよ別に。大丈夫」

「そうですか」

「注文何が良い?」

「適当な美味しそうなのでお願いします」

「分かったわ。じゃあ、注文行ってくるね」

 そう言って、天笠さんはオムライス屋の注文口へと向かって行った。


――――――――

作者's つぶやき:天笠さん。佐藤さんの友人兼彼方くんの顔見知りが出てきましたね。体験入学で校内を迷った時に助けてもらって…っていうくだり。実は意外と、真面目な彼方くんがドジってる珍しい事例だったりします。

それと個人的には彼方くん母…水香さんにももっと登場してほしいなって思ってます。彼方くんと水香さんの絡みは個人的に結構好きなんですよね。なんかこう…言葉にできない良さと言いますか、私の語彙力が低すぎるのも原因の1つなんでしょうけど。

っと、長話が過ぎましたね。

――――――――

よろしければ、応援のハートマークと応援コメントをポチッと、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る