第四部 天明の花嫁 ~この世の夜明け~

第29話 湖の奥底

第四部 天明の花嫁 ~この世の夜明け~


「ユルングは、イサベラ高原の湖の奥底に住んでいる、古い神である。その存在は、今世を生きる我々の知る領分をはるかに超えている」と、ラインハルトが古文書を読み上げた。

「古くは、流星群を期待し、祭りを起こした人々が、天を泳ぐ姿を見たのが始まり、と言われている」と、ハルモニアが覗き込む。その下には、ユルングの姿を描いた似顔絵のような絵が描いてある。

「イサベラ高原に行ってみましょう!」と、古文書を一通り読み終えたファニタが言った。

『ファニタ殿の意見に賛成』と、プラトンが言った。

 村人の一人が、道案内を申し出てくれたので、一行はその男性について、ハイキングではないが、穏やかな田舎道を歩いて行ったのだった。

「村長殿から、道案内をするようにと頼まれまして」と、その男性・・・ルニーノが言った。

「ありがとうございます、ルニーノさん」と、ラインハルト。

「なに、旅人さんの助けになるなら」と言って、ルニーノは朗らかに笑った。

 3時間ほど馬で歩いたところで、一行は開けた場所に出た。ここがその場所・・・イサベラ高原だ!

「では、あっしは村に戻りますんで。一本道だったので、お帰りも迷われないでしょう。では、失礼します」と、ルニーノが言って、村に帰って行った。                                    

「なんて綺麗な・・・」と、ファニタ。

 高原の西には、大きな湖もあるという。そこが、伝承の、ユルングの住む湖だろうか・・・。

「これはウスユキソウだな・・・こっちはスズランも・・・」と、ハルモニア。

 高原の花に目を奪われている、ラインハルトとハルモニアを置いて、ファニタは一人、古文書を持ったまま、その地図通りに、西へと進んだ。プラトンも一緒だ。

 ガサガサ、と高原を歩いていくと、一気に開け、透き通るようなグリーンブルーの青の湖が現れた。底まで透けて見えそうだ。

「ここね、ユルングの住む流星の湖ってのは」と、ファニタ。

『本当に行くのか』と、プラトン。

「行くわ」と言って、ファニタはケープを脱いで、簡易な服装になると、自らに、水中でも呼吸のできる呪文をかけはじめた。

 ファニタの契約している水の精霊は、セイレーンだった。名前はエペイア。

(エペイア、頼んだわ・・・いつものように、水の中でも息のできる知恵を貸してちょうだい・・・・)

 心の中で精霊と話した後、ファニタは右手を太陽にかざし、

「天つ空にて、いと青白く輝きたる月は 今宵汝に聖き祝福を授く。 わが祈りと儀式による嘆願にもとづき 主・女神イザヤ神の胸をわれへの愛で満たすべく」と高らかに宣言した。これは、古文書に、ユルングに会うために必要な呪文だと書いてあったからだ。

 ファニタは、その後湖へ飛び込んだ。エペイアのおかげで、水の中でも息ができる。プラトンは、地上に残った。

 ファニタは、水中でも魔法が使えるので、(訓練された魔法使いなので)、すいすいと深淵部へと泳いで行った。

 魚のようなひれがなくても、素早く泳げる。

『我を呼ぶものは誰だ』と、泳いで5分ほどで、声がした。

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