第24話 ノアの打ち明け話
*
「ヘーゼル、話があるんだ」と、ノアが扉をしめて言った。今日は珍しくヘーゼルは起きていた。
「どうしたの??」と、ヘーゼル。
「ナスターシャ、悪いけど、少しの間、席を外してくれる・・?」と、ノアが言うので、ナスターシャは部屋を出て行った。
「あのね、ヘーゼル。交換条件。君のその壊れた羅針盤を僕にくれるなら、『ガデル』という人が誰か、教えてあげる」と、ノアが言った。
ヘーゼルは、何度も何度も、夢の中でガデルという名前が出てきていて、気になっていた。
「あの、ノア、その羅針盤がないと、兄上様が安全かどうか、分からないの。説明してないけど、その・・・」
「それについては知ってるよ、ヘーゼル」と、ノア。
「魔法に詳しい村の知人に尋ねてみた。そしたら、これは魔法のグッズだって、教えてくれた。この赤い針と青い針の意味も、なんとなく僕にはわかる。これは二人の人間の寿命を表したものなんだろう・・・??」
ヘーゼルはドキッとした。
「う、うん、実はそうなの・・・・」
「心臓に悪いね。こんなものは捨てた方がいい」と、ノア。
「あとね、この羅針盤、君は気づいていないみたいだが、裏に魔法の文字が刻まれている。なんて書いてあるかというと、これもその知人のつてから聞いたんだが、呪いらしいよ。持ち主の寿命をだんだん減らす効果があるらしい。弱い魔術だから、そんなに効果は、幸いないみたいだが、わかったでしょ、これは僕にちょうだい」と、ノアが言った。ヘーゼルも、思わず頷く。
「うん・・・じゃあ、ガデルが誰か、ってこと教えてあげる・・・。ヘーゼルは天使の存在を信じてる・・??」と、ノア。
「天使・・・??天使って、おとぎ話に出てくる綺麗な人たちでしょう??」と、ヘーゼル。
「おとぎ話・・・じゃないんだよね」と、ノア。
「実際、いたんだ。世界アラシュアができて、この世の創世と共に神々から創られたんだ。この僕らの住む世界アラシュアを見守るためにね。僕も、この話は、ラインハルトさんから聞いた。ただし、天使たちは、イブハール歴500年ごろ、裏切者たちとの戦争で、そのほとんどが亡くなり、一部が生き残って、転生を繰り返しているらしい。それが、天使ガデル。そして、その天使ガデルの生まれ変わりが、僕」と、ノアが自分を指さして言った。
「え・・・??」と、ヘーゼル。
「ここまではついてこれる??」と、ノア。
「う、うん、なんとか」といって、ヘーゼルが苦笑いする。
「天使ガデルは、かつて双子の兄だったらしい」と、ノアが続けた。
「双子の妹がいたんだ。それが天使レファ。そして、その天使レファの生まれ変わりが、君らしい」と、ノアが静かに言った。
「わ、私が!?!?」と、ヘーゼル。
「そう」と、ノア。
「僕らは、遠い昔、ツインフレームと呼ばれる、仲のいい双子の兄妹だったんだ」と、ノアがヘーゼルの枕元に近付いて言った。すでに、壊れた羅針盤は回収してあり、ノアの左手にある。
「兄上様は、全部ご存知で・・・??旅に出たの??」と、ヘーゼル。
ノアが頷く。
「僕がさっき話したことは、すべてラインハルトさんから教えてもらったんだ」
「そう・・・」と、ヘーゼル。
「ねえ、ノア、このこと、ナスターシャにも話していい・・・??アルヴィンにも」と、ヘーゼルが言った。
ノアが頷いたので、ヘーゼルは二人に話すことにした。ただし、今日は疲れたと言って、ヘーゼルは眠ってしまった。
明日にでも、二人に話すそうだ。
*
「なんて美しい景色・・・!!」と、ファニタが感動して言った。
一行はアルゴス峠に着いていた。雪が解け、現れた地面には、雪割草の青や白の花畑が広がっている。その広さたるや、一行の想像をはるかに超えていた。
「綺麗な花だな」と、ハルモニア。
「見とれてる場合ではないが、これは珍しい景色だな!」と、ラインハルトが歩きながら言う。
一行は、花の絨毯を横目に、人工で作られた登山道を登って行った。この峠を越えれば、西リラへぐっと近づく。
ザッケローニの話では、ベルゲン峠は、いまだに猛暑とはいえ雪に閉ざされているという。
*
「そうだったの・・・!?その話、本当・・・?」と、ナスターシャが手を口に当てて驚きを隠せず言う。
ヘーゼルの話を聞き終わり、ノアの補足も聞き、ナスターシャとアルヴィンは二人とも驚いていた。
「4人とも魔法が使えないからね。僕らの理解の及ばないところで、そんな運命が動いていた、ってことさ」と、ノアが言った。
「そうだな」と、アルヴィン。
「俺らは魔法が使えない」
「そうね」と、ナスターシャ。
「今は、ラインハルトさんたちが旅を終え、戻ってくるのを待つしかない」と、アルヴィンが言った。
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