第23話 アルゴス峠を越えて
「樹齢1000年はありそうね、兄さん」と、ファニタが馬に乗りながら、ラインハルトに言った。というのも、一行の目の前に、巨大な針葉樹が姿を現したからだ。
「カンヌ山脈の南側部分は、手つかずの自然が多いから、当たりまえだろう」と、ラインハルトが冷静に言った。
西リラと東リラの交流は活発だ。カンヌ山脈にも、山道を切り開いた街道があるぐらいだ。
一行がいるのは、その街道を目指して、まだ山脈の南部にいた。
一休憩して、一行は川の水を水筒にくみ、座って飲むことにした。馬にも水を飲ませる。
「イサベラ高原まで、あと少し・・・というより、だいぶ近付いたな」と、ハルモニア。
川の近くで涼んでいると、近くから人や馬の歩いてくる音がした。
(誰だ・・・??)と、ラインハルトが身構える。
「おや、旅の人かな」と、声がした。黒のローブを身にまとった老人だった。後ろには、5名ほどの男女の若者がいる。
「あなた方も、旅を・・??」と、ラインハルト。
「あんたら、西リラを目指していらっしゃるのだろう??我々は東リラを目指しておる」と、老人が言った。
「ならすれ違いだな」と、ハルモニア。
「街道の存在をご存知かな?服装でみたところ、あなた方リラ出身ではないね?」と、老人。
「街道なら、今目指している最中なのです、ご老人」と、ラインハルトが言った。
「おっしゃる通り、我々はリマノーラの南らへんの町出身なのです」と、ラインハルト。
「それはそれは遠い旅路を」と、老人。
「ザッケローニ、街道への道を教えてあげたらどうです?近道なら、我々の方が詳しい」と、男女の一人が言った。
ザッケローニ・・・と呼ばれた老人が、後ろを向いて頷く。
ラインハルトが持っている紙の地図(魔法がかかっているので、一行の現時点だけは赤い光で分かる)を見て、ザッケローニ老人は丁寧に、街道への道を教えてくれた。
「おぬし、魔法使いだったとはのう」と、ザッケローニがラインハルトに言った。
「なに、ちょっと病身の妹のために、リラに用がありまして」と、ラインハルト。
「そうか・・・うまくいくことを祈っておる」と、言って、ザッケローニ率いる若者たちの集団は片手をあげて挨拶して、去っていった。
「だいぶショートカットできますね、ハルモニア兄さん!」と、ファニタ。
「そうだな。それともう一つ、いいことを聞いたよ。カンヌ山脈の街道は3つあるらしいが、そのうちの一番北側を行け、と言っておられた。なんでも、そこが一番混まないそうだ」と、ラインハルト。
「あと、ザッケローニ殿が、本当に近道したいのなら、ベルゲン峠の北側にある、アルゴス峠を通って行けばいい、いつもは年中雪に閉ざされているが、今年は猛暑のせいか、雪が解けていて、5日ほどなら山脈越えを短縮できるだろう、と教えてくださった。なので、俺らはアルゴス峠を目指そうと思う」
ラインハルトの言葉に、ハルモニアとファニタは思わず心がざわついた。ベルゲン峠ほどではないが、アルゴス峠も、なかなかの山脈越えの難所と聞く。だが、ヘーゼルには残された時間がない。
「行きましょう」と、ファニタが言った。
「雪解けのアルゴス峠、スケッチブックでも持ってくればよかったぜ、滅多に見られるものじゃない」と、ハルモニア。
『アルゴス峠まで、案内してやる』と、プラトンが申し出た。
「!ありがとう、プラトン!」と、ファニタ。
一行は、こうしてアルゴス峠を目指したのだった。
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