モンスター娘生態調査団 応用実験部 ハメ撮り配信探検隊

まだ温かい

MMEI-0032 ドライアド ハメ撮り配信

俺の名前はたちばな しゅん。モンスター娘生態調査団の応用実験部で、実験配信班の主任を任されている。いやー、責任なんて持ちたくないからヒラで良かったんだけどなー。実験対象のモンスター娘が可愛かったんでこっそり動画を撮ったんだけど、つい魔が差して動画投稿サイトに上げちゃったのよ。そしたらバレてもうめちゃくちゃに怒られちゃってさ、ダメかと思ったね!でも、視聴数が結構あったみたいで、お偉いさんに気に入ってもらったとかなんとか。よくわからないけど新しい班が作られてさ、主任にされちゃったのよ。

困るよな~~~!


<すご>

<そのくだりいる?>

<研究テロじゃん>


配信画面のコメント欄が一気に流れる。広報部が宣伝してくれたおかげで結構見てもらえてるみたいだな。


「悪い悪い、いつもちょい早めにカメラ回すんだけど、見せるもんなくてさー。」


じゃあ回すなよと言われても、そうはいかない。今俺がいるこの未知の土地というのは、いつなにが起きてもおかしくないのだ。だから、記録のために現地入りから動画を撮る。ついでにライブ配信も始めたほうが楽でいいだろ?


「お前たちも興味があったらさ、モンスター娘生態調査団にこいよ。」


24年前、突如現れた巨大な扉の中には未知の世界が広がっていた。その未知をあらゆる分野から解明していくべく、様々な団体が起こった。モンスター娘生態調査団もその一つだ。モンスター娘と呼ばれる生物を研究し、友好関係を築くのが目的だ。

まあ、ぶっちゃけ俺は可愛い人外っ子目当てだけど…。




「森林地帯に到着~。」


スマホを構えてくるくるっと一回転。


<なんも見えねえ!>

<黄ばんでる>

<どこだよ>


「丁度今、花粉地獄ってヤツの時期みたいでさ、もーすっげぇのよ。」


植生調査保護グループの環境調査報告書に書いてあったはずだ。ちょっと見てみるか、相当顔に近づけないと読めないな。

えー、なになに。


「3月から6月にかけて花粉地獄と呼ばれる現象が発生する。スギに似た高木が一斉に大量の花粉を撒く事によって起こるもので、足元が見えないくらいの視界不良となる。だってさ。」


<カンペ>

<棒読みやめろ>

<撮る意味ある???>


まったく、攻撃的な奴等だ。でも俺はこれくらい張り合いがあるほうが好きだから別にいい。


「安心しろって、他の班のヤツに聞いた話じゃ、花粉が薄くなる時もあるんだってよ。」


そのまましばらく待っていたら、確かに少し薄くなってきた。足元を確認しながら、今回の対象が住む場所に近づくか。同じ部の奴が実験するために目印を建てたって言ってたから、それを見つけられれば楽できるな。


「ほら、薄くなってきたろ? ちょっと移動するぜ。」


目印を発見。

これより近づくと危険だから、絶対に内側には入らない。もう一度まわりを皆にみせてやろう。くるっと一回転。


<本当に森なの?>

<でけー木だ>


確かにその疑問は湧くな。森林地帯の中に、一本だけやたらデカい木があって、そのまわりだけ全く他の木が生えてない。


「このデカい木、スギモドキって呼ばれてるんだ。スギの木にそっくりだろ? だからだ。ちょっと向こうに戻れば、これのちっちゃいやつがいっぱい生えてるぜ。」


ちっちゃいと言っても比較しての話だけどな。さて、今回の対象はドライアドっていう木みたいなモンスター娘だ。映像で見たが、形だけなら確かに女の子みたいだったな。まずはどんなもんか、確認してみるか。


「アキラー、ウサちゃん出して!」

「はい、主任。」


こいつはアキラ、俺の相棒だ。面倒なことはアキラに全部任せてるが、文句を言わないでやってくれる。今回の任意実験の申請だってアキラにやってもらったんだ。運動が下手で歩くのが遅いが、そんなの気にならないくらい有能だぜ。


「ウサちゃんです。」

「さんきゅ。お前らー、こちらがウサちゃん研究員です。」


<かわいい>

<かわいい>

<おいしそう>


「このウサちゃん研究員を、こうやって鉄の檻に入れて…。ドローンに吊るして飛ばしてやります。」


もう立派な実験ぽいよな。ドローンの操作は難しいけど、アキラが得意だから助かってる。あっでもその角度で上向かれると防塵ゴーグルから光が反射して眩しい。


<なにやってんだこいつ>

<目にゴミでも入ったか?>

<ウサちゃん研究員を写せ>


「ごめんって、ちょっと光が眩しくてさ。そろそろウサちゃん研究員が向こうに到着するから、映すぜ。」


低空飛行のドローンから、檻を離してもらって…。無事ウサちゃん研究員がデカい木のすぐそばに落ちたな。そんで、カメラをズームしてっと。


「あれがドライアドです。近づかなければ危険はないぜ。えーと、あのスギモドキとそっくりな木の皮みたいな肌をしてて、もし下手に近づいて引っ掻かれたら相当ヤベーらしい。」


ドライアドは木の幹からにゅっと顔を出してから、ウサちゃん研究員の入った檻を観察して、ゆっくり身体を見せた。正座から立とうとした時みたいな態勢で、若干前かがみになって檻を調べている。


<けっこう可愛い>

<彼女にしたい>

<ウサちゃん寝てるが>


リスナーの活性が上がって来たな。やっぱ実際にモンスター娘を見せると、惹かれるみたいだ。


「ウサちゃん研究員が寝てるのは、ドライアドの特異能力だ。あいつを中心として半径48m以内に入ると、ふらふらっと木の側まで行っちまう。んで、あれくらい近くに行くと寝ちまうんだ。」


実験結果報告書にそう書いてある。俺達は絶対近づかないようにしないとな。


「そうやって寝かした獲物を捕まえて食べるんだ。食べるって言っても木の中に引きずり込むだけだけどな。」


<こっわ>

<ヒエ>

<中にベッドあるのか?>


「だから、アイツが今、檻をめっちゃ撫でてるように見えるのは、ウサちゃん研究員を食べようとしてるんだぜ。鉄の檻を壊す力はないから安心してくれ。」


5匹しか連れてきてないから食われたら困る。


「一旦あの状態になったら、他の獲物に気づくまでずっとああだ。実験し放題じゃないかよ、なあ!?」


<いいぞ!>

<待ってた>


すでにドライアドの生態や危険性は研究されているが、その成果をエンタメへ転化できれば、資金の獲得につながる。そういう理由で実験配信班はできたんだって、木田部長が言ってた。調査団の目的に不適当なモンスター娘でも、利用できれば資源だって。お金があれば安全を買えて、それが調査と研究に役立つから必要なんだと。つまり俺は、面白いことして遊べば良いってことだよな!?そうすれば皆も一緒に、もっと楽しめるもんな!


「ドライアドは木に住んでるし、木でできてるっぽいよな?ってことは水が好きだと思うんだよな。でも、ここは雨が降るから面白味にかけるんだよな~。」


ちょっとわざとらしいか? 前振りって難しいな。設備管理部に用意してもらった液体肥料を取り出してと。


「じゃーん! 液体肥料です。市販品じゃないぜ。残飯をリサイクルして、肥料に適した成分を抽出したんだ。SDGsだろ?これをドライアドにあげたいと思います。」


<ドロドロしすぎ>

<液体?>

<臭そう>


言っとけ、俺だって本当はもっとちゃんとしたのが欲しかったんだ。でも、予算がないって言われたから無理言って作ってもらった。これからは自衛隊みたいにもっと予算を絞られるって聞いたから、恐ろしい。


「戻って来たドローンに今度はこいつを付けるんだ。アームがついてるから、容器をひっくり返すだけでいいだろ。準備できた。やってくれ、アキラ。」

「アキラ、行きます!」


今度はもっと高く飛ばしてもらう。静音飛行ができるドローンだが、ドライアドの目に映らないようにするためだ。気を引いちまったら囮の効果が無くなるからな。


「主任、頭上を取りました。」

「いいぞ! 容器をひっくり返してくれ。外すなよ。」


<ドキドキ>


───くるん。

ドライアドは頭の上から肥料を被った。すぐに上を向いたことから、触覚があるのは間違いないだろう。しばらく驚いたようにきょろきょろしていたが、その様子がかわいらしい。


<ハトの贈り物はもっとおしとやかだぞ>

<フンと一緒にするな>

<量が多杉>

<フンみたいなもんやろ>

<エッッッッッッッッッッ!?>


粘性のある白い液体肥料が、ドライアドの頭部から胴体上部まで垂れている。髪の毛? みたいな枝葉の部分なんか糸を引いてるな。蜘蛛の巣が張ったみたいでちょっと見た目がアレだわ…。


「カルシウム、カリウム…リンとか尿酸とか、木の好きなものたっぷりだ。成分的に真っ白でペンキみたいだが、毒性はないし栄養ばつぐん、どうやら気に入ってもらえたみたいだぜ。」


ドライアドは肥料を手に取って観察した後、口らしき穴に入れた。すると、おいしかったのかスキップして木の周りを回り始めた。そして、液体肥料を木の根元にまんべんなく塗りつけていく。


<かわええ>

<めっちゃよろこんどる!?>

<ランラランララン>


「実験は成功だ! すげーウケてるぜ!」

「やりましたね! 主任!」


コメント欄も爆速でもはや目を通しきれない。同時視聴数もグングン伸びてる。こりゃこっちのほうも期待以上だな!


「アキラ、ウサちゃんを回収してくれ。」


ドローンを降ろしてアームで回収する。檻が空に浮かんだ瞬間、ドライアドが動きを止めてドローンを見た。


「やべっ。」


ドライアドの指先が鋭く尖って伸びる。浮かれて忘れていた。狂暴化のトリガーを引いちまった!ドライアドは、木の幹の表面をぬるりと移動してドローン目掛けて飛び出す。腕を伸ばして鋭い爪をひっかけようとしたが、間一髪届かなかった。


「あぶねー…。」


<ヤバすぎエサ取り上げたウチの犬かよ>

<こっわ>

<ウサちゃん研究員を危険にさらしたな! 法廷で会おう!>


最悪ウサちゃんがバラバラになってたぞ。そんなシーン写したらアカウントBAN待ったなしだよな!?おまけにお叱りと始末書がセットで襲ってくるに違いないぜ。助かった~…。


「えー、今みたいに特定の条件で襲ってくるモンスター娘もいます。ちゃんとしてやらないと、めっちゃ危険なの。だから俺たちは生態調査をして、実験で更なる情報を集めています。」

「主任、ちょっと…。」


どうしたアキラ?ごにょごにょ。

えっ、機密監査部!?

ごにょり。

嘘だろ…?


 ・・・


「狂暴化しても、ドライアドは木から離れることができません。探査や調査を続ける他の団体のために、狂暴化をもっと見てみましょう。」


<マジかよ>

<動物愛護団体のものですが>

<大丈夫? 正中線突く?>


俺も信じられねーよ。

狂暴化の時には確かにめっちゃコメントついたけどさ、危な過ぎないか!?お偉いさんの考えてる事、わかんね~!


「ですが、まずはドライアドが落ち着くのを待ちます。昏睡状態になったウサちゃん研究員が目を覚ますと落ち着きます。大体3分くらいかな。」


<ドライアド見てる? イエ~>

<ウチの犬より賢い 待てができて偉い>

<わかっててもずっと見られてるの怖くね?>


こっちはもう気が気じゃねえってのに、こいつらは!扉の中と外での意識の違いってヤツを痛感するぜ。


「そろそろだな、アキラ、いつでもいけるよう頼むぜ。俺は残りの4匹を分けて檻に入れとく。」

「ばっちりできてます!」


アキラだけが俺の味方だよ、もう。本当ありがとう。助かってます。

なんて思ってたら、ドライアドがこっちを見ながら木の中に戻っていった。

よし、落ち着いたようだな。


<引っ込むときめっちゃ頭の肥料落としてくじゃん>

<マジでドラちゃんだけなんだな木の中いけるの>

<でもウサギを中に引きずり込むって言ってたじゃん?>


おっ、目ざといな。メモっとくか。


「ウサちゃん研究員が覚醒しました。」

「オッケー、行こう。」


さっきよりも慎重にドローンを近づけさせる。顔だけでも出てきたらやめるぜ。俺は。


「主任、大丈夫そうです。」


では投下。

またドライアドが出てきて、ゆっくりウサちゃんの檻を抱き寄せる。嘘みたいだな。何事もなかったかのようだ。ドライアドが檻をひっぱったり、かざしてみたり、中身を取り出す方法を考えているのだろうか?


「ドライアドには視覚があります。囮の効果中でも、視界に別の獲物が映ればそちらに興味が映ります。もう一度言いますが、ドライアドに近づくことは危険な行為です。」


説明しながら目の前に二匹目投下。

早速それに気づいたドライアドが手を伸ばす。あれ? 思ってたのと違うな…。てっきり二匹目だけに集中すると思ったのに、なんか檻を二つとも抱えてるぞ。コイツ…欲張りだな!


<両手が塞がっちゃったねえグフフ>

<檻が無かったら二匹ともいっぺんに引きずり込むのか?>

<もっとくれてやれ>


言われてみれば、ウサちゃんをまとめて引きずり込んだって報告はないな。試してないのかも知れない。何匹だろうと引きずり込むなら結果は変わんないし。確か添付資料では、人間を引きずり込む時には一人ずつだった。そういや探査用装備をつけた人間って結構重いよな…。見た目通りの力しかないって報告書にあるし、持てないのかも。


「オーケー、ちょっと想定してたのと違う行動を見せてくれました。もっとくれてやれって、いいねそれ! やってみようぜ。」


コメントを拾いながら三匹目投下。

それに気づいたドライアドがまた手を伸ばそうとする。当然、腕が離れれば抱えていた檻が落ちる。すると、落ちた檻をまた抱える。あれ、なんか抱えては落としてを繰り返してる。すごいあたふたし始めたぞ!?


<いや草>

<ウチの犬のほうが賢かったわ>

<いじめじゃん>

<かわいい もっと見たい>

<ハメじゃん うちの島じゃノーカンだから>


「こっちの島じゃウェルカムなんだよなあ!ハメで結構、もっとやったろうじゃん?」


四匹目投下。

ついに抱えきれない数の檻を目にしたドライアドは、四つん這いのような格好になってカルタ取りを始めた。右手で四つの檻をぺたぺたと無作為に触ることしかできなくなったようだ。重さではなく数で、持てない量になったと理解したのだろう。


五匹目も行っちゃえ。

高速カルタ取りが始まった。必死になって両手で檻を触るだけだ。あっち向いてこっち向いて、首と頭も忙しなく動く。どの檻からもウサちゃんは取り出せないから、最早パニック状態だ。いつか疲労で動けなくなるんじゃないか?


<かわいそう>

<やめたげてよ>

<かわいそうはかわいい>

<無限ループって怖くね?>

<ハメループやめろ>

<ハメ撮りじゃん・・・>

<ハメ撮りは笑う>

<ハメ撮り草>

<ハメ撮り配信マ!?>

<撮っとこハメ太郎>


すげー…なんつー勢いだよコメント欄…。

ほとんど名誉棄損だろ、コレ…。

いいんですか、お偉いさん?

まずくないっすか?

どうすりゃいいんだ俺は!?


「いやーかわいそうっすね。」


アキラ…。お前結構冷たいんだな。


<ひとごとみたいに言うじゃん>

<あきらめろん>


「えー、どうしよ、そうだな…。もうちょっと観察してみようか。疲れて動けなくなったら安全かも。」


それで、10分ほど観察していたところ、ドライアドが力尽きた。もはや檻に覆いかぶさってゆっくりと撫でるくらいしかできないようだ。


「こんなの報告になかったぞ。ひょっとしたらすごい発見かも知れない!アキラ、檻を一つずつ回収してみよう。今なら狂暴化しない気がする!」

「確かに。やってみます!」


一つ回収。狂暴化せず。

それでもドライアドは回収されていく檻を眺めて腕を伸ばしていた。さすがにちょっとかわいそうだな…。


二つ目を回収。狂暴化せず。

一瞬、ドライアドが檻に手をかけたので引っ張られるかと思ったが、すぐに手を放してくれたので大丈夫だった。ドライアドが慌てていた時からわかっていたが、演技ができるほどの高い知能は持ってないな。


<この外道ー!>

<鬼! 悪魔! ハメ撮り探検隊!>

<ガチで力尽きててわろてまう>

<語呂良くて笑う>


こいつらも散々人のこと言っといて楽しんでるじゃねーか。

共犯だ、共犯! もうどうにでもなれ!


三つ目と四つ目も回収。狂暴化せず。

ついにドライアドは動けないほど疲労してしまったみたいで、離れて行く檻を眺めることしかしなかった。ただ、最後の檻は死守するかのように身体全体で抱え込んでいる。ありゃ回収できないぞ。


「アキラ、何かいい手ないかな?」

「近づいてみますか? ガスマスク持ってきましたよ。」


ナイス! さすがアキラだぜ。

でも二人しかいないから、引きずり込まれたらやばいな。近づくのは絶対に手が届かない所までにしよう。


「ドライアドの特殊能力は、ガスマスクを着ければ回避できます。本当はかなりの危険行為だけど、折角の機会なので接触してみます。」


<罠だったらどうする?>

<危ないんじゃないか>

<お前もハメられるぞ>


怖いこと言うんじゃねーよ。大丈夫だと確信してるのになんかビビるわ。


「主任、気を付けて下さい。」


着用ヨシ。行ってきます。ついでに皆にももっと近くでドライアドを見てもらおうか。

・・・

これくらいの距離が限界だろう。マージンがないと安心できねえ。ドライアドはピクリともせず檻を抱えて地面に伏している。


「なんか、ごめんな。」


<今更謝っても遅いだろ>

<思ったよりゴツい肌してる>

<責任取って檻に入れ>


「・・──・・───!」


ん? 何か聞こえたぞ。もしかして喋ってるのか!?


<なんか聞こえたが>

<頭飾り? けっこう可愛いね>

<キャアアシャベッタアアア!>


ドライアドが急に顔を上げて俺を見る。すげえびびった。尻もち着いた。頼む襲わないでくれ、今は逃げられない!


「───・・・──」


また何か言っているのかもしれないが、口っぽい開いた穴は動かない。ちょっとしてからドライアドからミシミシという音が聞こえてきたので、俺は転んだまま慌てて後ろにずり下がった。大丈夫だと確信しているはずなのに、こっちに飛んできそうですごい怖い。

・・・

ドライアドは態勢をそのままに、足から木のほうに引きずられる。そうやってゆっくり、ゆっくりと木の中に消えていった。


「っはーーー!! 死ぬかと思った。」


マジで寿命が縮んだ。心臓バクバク言ってます。ちょっと休憩させてほしい。動きたいけど動けねえよ…。


<ダサい>

<ウサちゃん研究員覚醒!>

<ウサちゃん動いとる>


あれ? 本当だ。特異能力はどうなったんだ。いや、今はそれよりここから離れたい。アキラに檻の回収だけ合図して、もう向こうへ戻ろう。




「主任、何かあったかと思って驚きましたよ。」

「何かあったんだよ!」


実際はどうかわからないが、喋ったとしたら新たな発見だし、特異能力の効果が消えたとなったらもっとすごい発見だ。成果は十分すぎるだろう。


「えー、皆さんご視聴頂きありがとうございました。今回の配信はここまでと致します。いいね、高評価等よろしくお願いします。」

「次回の配信もお楽しみに!」


<面白かったー>

<ハメ撮り探検隊、これより帰還する!>

<ウサちゃん研究員が無事でなにより>

<ハメ撮り配信またやってな>

<ドライアド不気味やけどかわいかったな>


各々好き放題言いなさる。

まあ、おおむね楽しんでもらえたようで良かったよ。俺は今更腰抜けてガックガクだわ。アキラ、片付け全部まかせてすまん。代わりに報告書の作成は俺が頑張るわ…。


 配信終了。


「主任、木田部長から通信です。」

「へえっ!? もう配信終わらしちゃったんだけど。」


見たくないけど見ないわけにいかないよなあ。

えっと、なんだって。


───ご苦労だった。監査部長も喜んでたぞ。

班とその活動の有用性を証明できて俺も嬉しい。

少額だが、すでにいくらか支援者が現れているそうだ。

広報部もチャンネルの収益化を目指している。

ドライアドへの対策方法も見つかったから、他団体からも支援が期待できる。

このまま活動を継続してくれ───。


そう、嬉しいよ。でも、また怖い目にあうかもしれないと思うと素直に喜べねえ~。次のモンスター娘はおっかなくないヤツがいいな…。


「主任、これ肉みたいな味がします。」

「えっ、何急に。」


アキラが知らぬ間にドライアドが住む木の果物を採取していた。なんちゅー恐ろしいことを…。というかサンプルとして保存しろよ!でもよくやった! ああ、情緒がめちゃくちゃだわ俺。とりあえず上手くいって良かった…です。



・・・



ただ、この時の俺はまだ知らなかったんだが、広報部のリサーチ結果からとんでもない事を知ってしまった。俺たち実験配信班にすんごいあだ名がつけられていたのだそれも、『ハメ撮り配信探検隊』という俗称。あー、コメントでめっちゃ言われてたやつね…。何にせよこの俗称のインパクトは大きい。すぐに定着しますよって報告もらったけど、どんな顔しろってんだ。そりゃこの班の存在意義からして嬉しい動きなんだろうけどさ…。上層部が全員これを歓迎してるっぽいの、わけわかんね~!


はぁ~、もういっそ今回みたいなハメってやつを擦っていくか?多分、報告の中の生態をよく理解すれば、ずっとやってけるんじゃないか。くそっ、こんなことに希望を見出してしまった自分がムカツク。良い事であるはずなのに、素直に喜べねえ~!


───────────────────

応用実験部 実験配信班 橘春


  実験結果報告書


識別名       : 一身同体の抱擁

生息地       : 森林地帯


サイズクラス    : 標準

ウェイトクラス   : 軽量

スピードクラス   : 標準

ムーブメントクラス : 泳ぐ


フェロシティレベル : 温和

フレンドレベル   : 友好

フィーンドレベル  : 中庸


───────────────────

特異能力 : 永眠への誘引

発動条件

空気中の原因物質を生物が一定以上吸引すること。


効果範囲

対象を中心とする半径48mである。


効果

範囲内の呼吸する生物を対象に誘引して昏睡させる。効果範囲外に出る事で誘引状態は即座に解除される。昏睡状態も同様の方法で回復できるが、数分の時間がかかる。対象が極度の疲労状態に陥ると、全ての効果が消失する。効果を受けた場合、対策が無ければ最終的に捕食される。


人的被害レベル:死


───────────────────

特徴 :

MMEI-0032は、体長142cmの小柄な女性に見えるモンスター娘である。体重は29.2kgと軽量で見た目通りの力を持ち、鉄製のものを傷つけられない。肌は灰褐色で縦裂のある樹皮であり、容易に人間の肌を切り裂く硬さがある。しかし、ある程度の触覚を有しており、物体の接触を感知できる。硬いが関節があり、音を立てつつも四肢を動かして高度な運動が可能である。頭部の上部には枝葉が密集しており、針形の葉が茎から螺旋状に互生している。一部の枝葉の根元には、球形の花らしきものがついている。頭部の前面には目と思わしき穴が二つ開いており、視覚を有している。同様に、口と思わしき穴が開いており、味覚があって摂食が可能と見られる。頭部の側面には互いになるよう小さな穴が二つ開いており、聴覚を有している。樹皮や枝葉は生息する木と全く同じであるが、木には花らしきものがない。


生態 :

MMEI-0032は、『花粉地獄』が発生している間にのみ姿を現す。生息する木の内部を自由に移動でき、その幹の表面から身体を出せる。その木からは完全に離れる事が出来ず、木が移動することもない。48m以内に呼吸する生物が侵入すると、特異能力によって誘引される。生息する木のすぐ近くに生物が近づくと、捕食行動の対象となる。捕食行動の対象となった生物を、木の中へと引きずり込んで捕食する。捕食行動の対象が届かない位置に移動すると、MMEI-0032は狂暴化する。生物が引きずり込まれると、木に一つの果実が出現する。木の果実に何らかの物体が触れると、狂暴化して木全体を移動するようになる。低度の知能を持つが学習能力は極めて低く、同じ行動を繰り返す性質を持つ。そのため、意思疎通は困難であり、人間を捕食対象としてしか認識しない。MMEI-0032が疲労状態に陥った場合、狂暴化しなくなり、木の中に戻る。その後、回復するまでは再度出現することはなく、それまで特異能力も喪失する。


その他 :

果実はドライアドの捕食行動によってのみ出現する。この果実は動物性のタンパク質を有しており、豚に近い味がする。頭部からかすかな音を発生させることがあるが、言語性は見られない。


特記事項:

標準配備されているガスマスクで特異能力の回避が可能。また、鉄製の檻などに閉じ込めた動物を囮にすることで、気を散らすことが可能。小型の囮を複数用意し、繰り返し行動を誘発させることで疲労状態に出来る。


───────────────────

広報部から


初配信ともあってハプニングがありましたが、モンスター娘生態調査団では職員の安全に配慮した活動をしています。今後も様々な実験内容をお送りして参りますので、チャンネル登録を忘れずお見逃しなきように!

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