第15話 すだちの予後が心配で、面会をしに行く
すだちが入院した日、奇妙な夢を見ました。
すだちを任せている、C動物病院の前に物々しい警備の人間が、何人も立っています。
自分が飼っている犬や猫を診せに来た人たちは、中に入れなくて戸惑っている様子です。
もちろん、私もすだちに会いに来たはずなのに、これではとても動物病院内に行くことができません。
「一体、何があったんですか?」
周りで困惑している人たちに尋ねると、特別な方が自分の犬を診せに来たらしい、と。
特別な方?
しばらくすると、あれだけ厳重に周囲を警戒していた警備の人たちが、ぱっと道を空けました。と、思ったら黒塗りの高級そうな車が、メインストリートからこちらにむかって、走ってきて、C動物病院の前に止まります。お迎えの車なのだと思います。
いよいよ、C動物病院から警護対象になる「特別な方」が出てくるらしく、好奇心で見つめていると、そこから出てきたのは
「て、天皇陛下!」
そう。令和天皇でした。
という、オチで目が覚めました。
ちなみに奥様も連れていました。犬は抱っこされていましたがチワワのような小型犬でした。
自分の深層心理が見せた夢。
目を覚ましたら体調は最悪でした。
いつもと比べたら昨日は寝不足なのにすだちを少し遠いC動物病院まで連れて行ったし、今日も今日とて変な夢を見てあまり寝た気がしていないので、まあ、睡眠不足でしょう。
その日は一日、お布団の中に居ました。
すだちの安否が気になりましたが、病院から連絡がない……ということは、手術はうまくいったのでしょう。
何かあれば、連絡があるはずですから。
患畜が多く忙しい病院だということは、わかっているのでこちらから電話する気は起きませんでした。
でも、今日はたっぷり寝て、明日こそ面会に行くぞ、と思いながら身体を休めていました。
両親は「何も二泊三日の入院で、面会に行かなくても」とあきれた様子でした。
でも、いいのです。私が行きたいのだから。
そうして、入院二日目、手術が終わって一日挟んだ日に、C動物病院に、すだちの顔を見に行きました。
C動物病院のスタッフさんの言いつけ通り、午後の時間帯に。
面会に来た旨、告げると、すだちが奥からやってきました。
私は、絶句しました。
手術をすると聞いていたけれど、左足にはいったん切り離してつないだような、大きな傷……というより、切断跡といったほうが表現として近いような……そんな様子でした。
私が思っていたより大手術だったようです。
お腹にも傷跡がありましたが、それはそんなに大きなものではなく、マロンでも経験していたので、あまり驚きませんでしたが……
左脚とお腹に手術跡があるすだちはとにかく痛々しかったです。
そして、私と目を合わせてくれません。
スタッフさんの胸に抱かれて、私の方から目をそらし、横を向いています。
「ぷいっ」という擬音が聞こえてきそうでした。
『こんなひどい目にあわせやがって!』
すだちは、そう思っているのかもしれません。
私は悲しくなりましたが、仕方ありません。
一から信頼関係をまた、築いていくのだ、と覚悟を決めました。
「歯石もとりましたが、ひどすぎて、一緒に抜かなくてはならない歯が多かったので、抜きました。今、お持ちしますね」
スタッフさんが透明な袋に入ったすだちの歯……歯、というより歯石の塊を持ってきました。
緑と黒に変色した石がこびりついた小さな歯……
持ち帰りますか? と言われて、私は首を振りました。
では、こちらで処分しますね。と、言われました。
目を合わせてくれない、すだちの頭をそっと撫でて、
「明日の午後、迎えに行くからね」
と、声をかけました。
「あれ、午前中に来られないのですか?」
伝達ミスがあった模様で、スタッフさんにそう言われ、仕事なので、午後迎えに行くと伝えたんですが……と再度説明することになりました。
帰ろうとすると、すだちが初めて私の方を見ました。
怒っているけれど、心細い。
まさか、見捨てないよね。
そう言っているかのような目。
「大丈夫だよ」
ずっと、ずっと一緒だから。
心の中で、そうつぶやき、後ろ髪引かれる思いでC動物病院を後にしました。
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