第14話 すだち、入院
手術の日の前日、夜中12時に私たちは、すだちのお水の皿をそっと下げました。
これからは手術まで、ご飯もお水も禁止。
すだちの柔らかな毛を撫でながら
「明日、手術がんばろうね」
と、声をかけると、くりくりとしたお目目と視線が合います。
すだち、体重は少し増えて、2.3kgになりました。
左脚を引きずりながらも、室内の遊びには付き合わせていたので、少しは筋肉もついたのではないか……と、思いたい飼い主です。
「手術したらその日に帰れるの?」
「んー。そういえば、説明なかったな……。どうなんだろう」
「まあ、明日になれば、わかることだからね」
両親とそんな会話をして、布団に向かうと私のあとをトコトコとついていくすだち。
一緒に寝るのにももう慣れたものです。
手術の日が待ち遠しいような、来てほしくないような、そんな毎日でした。
手術をすれば、すだちはちゃんと歩けるようになります。
避妊手術をすれば、堂々とお散歩できるし、ドッグランにも行けるでしょう。
歯石をとれば、口臭もなくなるだろうし、健康寿命も延びるはずです。
でも……麻酔のリスク。手術のリスク。
C動物病院を信じていないわけではないけれど、人間にとっても犬にとっても、
100%安全な医療はないのです。
その日、私は枕もとで寝るすだちの体温に触れながら、失いたくないな、と強く思っていました。
ただでさえ、いつもより遅い時間に床につき、明日は仕事のない自分がC動物病院にすだちを連れていく予定なので早起きもしないとならない。
でも、なかなか眠れませんでした。
少しでも、すだちに触れていたくて。
仕方なく、久しぶりに睡眠薬の力を借りようかとも思いましたが、ぐっと思いとどまり、こういうとき睡眠をしっかりとるのも飼い主のつとめだ! と、とにかく目を閉じ、めぐりずむ、という目を温めるアイマスクも使うことにしました。
その甲斐あってなんとか5時間ぐらい寝ることに成功しました。
そして朝が来て……
「すだち」
すだちにキスをします(本当は犬とキスしてはいけないのですが)
すだちの口臭はほとんどなくなっていました。
毎日、朝夕、歯磨きシートをした結果が出ていました。
「頑張るんだよ」
私だけ朝食を食べ、すだちをキャリーケースに入れました。
電車とバスを乗り継いで、C動物病院に向かいます。
朝陽の中で、C動物病院の扉をくぐります。
また、この前にも会った高齢のゴールデンレトリバーと再会しました。
飼い主さんの膝の上に大きな体を預けて尻尾をゆらゆら揺らしています。
飼い主さんはそんなゴールデンレトリバーの毛を一心にコームで漉いていました。
すだちはキャリーケースの中で縮こまっています。
また怖いところに連れてこられた! と思っているのもしれません。
そして9時半になり、先生が診察室にやって来ました。
私は三番めに呼ばれました。
「じゃあ、すだちちゃんを預かりますね」
助手さんがキャリーケースの中で震えているすだちを引っ張り出し、奥に連れていきます。
「あの……すだちの手術は」
「今日の午後、行います。二泊三日の入院になりますね。お見舞いは午後の診察時間なら可能です」
え! 二泊三日の……入院!?
私が聞かなかったのも悪いけれど、は、初耳!
「明々後日の午前中に来てくださいね」
え! その日は(珍しく) 私仕事なんですけど!
「あの……午後でもいいですか? 実は仕事で……」
「えー……うーん。わかりました。午後でもいいですよ。ただ、術後の経過の説明が、先生からではなく、補佐医からになりますが、いいですか?」
ここは人間ではなく、犬猫ファーストなのだな、と思いつつ
「はい」
と頷きました。
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