保護犬(元繁殖犬)を引き取りましたーすだちとの日々ー
福倉 真世
私たちがすだちと出会うまで、すだちはどんな環境にいたのか
第1話 PS-0105と耳に刻印された仔
小さくて、狭苦しい檻の中に、一匹の小柄なトイプードルが閉じ込められている。
薄汚れていて、毛はぼうぼうながら、一見して仔犬にしか見えない。でも、そのトイプードルは実のところ何度も何度も出産を経験していた。
自分が産んだ仔犬とはすぐ引き離されて、授乳できたのは、わずかな時間の間だけだった。
……その間だけは、ぬくもりを感じることができたのに。
そのトイプードルは、立ち上がろうとして檻の天井に頭をぶつけた。
足を思い切り伸ばしたい。
でも伸ばせない。
高さの足りない檻の中では、身を屈めるしかないのだ。
このトイプードルには名前がない。
識別番号は付いている。PS-0105。
耳に刻印されている。消えない、入れ墨を入れられている。
繁殖犬として、他の犬と区別をつけるためにだけつけられた番号だ。
一昨日のご飯も、昨日のご飯も今日のご飯もずっと同じ。ドライフード。
トイレは垂れ流し。
ただ、糞尿は最低限だけ片付けてもらえる。病気にならないように。ただそれだけの配慮。
ひどい匂いの中で、食事することもPS-0105には珍しくなかった。
ずっとこの檻の中で生きてきた。
ずっとこの檻の中で生きていくのだろうと思っていた。
だが、PS-0105は、もう6歳を迎える。
人間で言うと、40歳。
そろそろ子供が産めなくなる歳だ。
繁殖犬としては、価値がなくなる。
そんなある日
PS-0105は檻から出された
はじめて檻から出されて
嬉しくて、PS-0105は
檻から出してくれた人間に飛びついた。
ずっと歩くことすらなかった。細い足で。
度重なる出産ですかすかの股関節を使って。
思いっきりジャンプした。
脆くなっていた股関節は。その衝撃に耐えられなかった。
パキンと
股関節にヒビが入った
キャインキャイン
PS-0105の目に涙が浮かぶ
檻からPS-0105取り出した人間は
めんどくさそうに
PS-0105を抱えた
お前にはもう一仕事してもらうよ
まぁ
一本て、とこだろうなぁ
稼がせてもらえりゃいいんだが
PS-0105の目に涙が浮かんでいた。
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