第35話 後悔の念 ※エリック王子視点
すべてを思い出した。けれど、まだ頭の中は混乱していた。整理するために、もう一度順を追って考えてみよう。
婚約を破棄してから今に至るまでの記憶は、ハッキリと覚えている。でも、一部分だけ大きな違和感があった。ノエラの存在を丸っ切り忘れていた。都合の良いように記憶が変わっていた。それを自然だと受け入れていた。
だけど今になって、大きな違和感。記憶を思い出したから、すべて元通り。だが、他の者たちは、まだ忘れたまま。
「ノエラとは、協会のトップの彼女ですか?」
部下に尋ねると、そんな答えが返ってくる。彼らも忘れてしまっている。そして、教会に居たノエラのことは誰も覚えていない。
おそらく、ノエラが行ったことだろう。それで、俺達は記憶を消されていたのだ。ついさっき、俺一人だけその記憶が蘇った。
いや、思い出すように仕向けられたのだ。ノエラの力によって。
教会の聖女であるエリーゼという存在は、嘘だった。その功績は全てが、ノエラの働きによるものだった。
エリーゼが聖女になってから、教会は失敗の連続だった。これから先、何度も失敗を繰り返す雰囲気がある。改善しそうにない。そんなひどい状況。
一方で、聖女にふさわしいかどうかを疑ったノエラは、新しい組織を立ち上げた。もうすでに、大成功を収めている。教会が脅威を感じるほどの存在に成長した。
優秀なのは、どちらなのか。今だったら答えは明らかだった。
過去の俺は大きな間違いを犯した。自信満々なエリーゼを、俺は信じてしまった。だから俺達は、記憶を消されてしまったのだろう。
ノエラと結婚するかどうか。今の俺には、そんなことは到底無理だ。
彼女に対する嫌悪感が、一気に蘇ってきた。 そう、俺はノエラが嫌いだったのだ。
だが、記憶を失っていた頃は、結婚したいと思うほど彼女を好ましく感じていた。利用価値があるのも大きい。
このまま、ノエラと結婚するべきなのか。
それは無理だろう。彼女は断固として拒否していた。俺も今は同じ気持ちになっている。そうなるように、俺の記憶も戻されたのだ。
彼女が嫌いだったあの頃のことを思い出すように、仕向けられた。
なんて、嫌な気分なんだろうか。それに、無理やり結婚を迫ったところで、彼女は逃げ出すだろう。
ノエラには、大きな力がある。今回の件で、多くの人たちの記憶を消し去るなんてことをした。また記憶を消されでもしたら、大変なことになる。それだけじゃない。他にも、俺の知らない魔法で大変なことが起きる可能性もある。
彼女に関わるのは、避けたほうが賢明だろう。
「どうして、こんなことになってしまったんだ……」
俺は大きな選択を間違えてしまったのかもしれない。
もしもノエラと協力的な関係を築いていたなら、本当に最強の力を手に入れられたかもしれないのに。
なんて、もったいないことをしてしまったのだろう。
結局、エリーゼと結婚することになるのだろうか。彼女の他に、実力のある相手が思い浮かばない。選択の余地など、ないのだ。
あぁ、最悪だ。
「はぁ……」
俺は椅子に深く腰掛けると、そう嘆息した。
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