第27話 王都の火災

 協会の評判は日に日に高まり、市民の間で「困ったときの協会頼み」という言葉が流行するほどになっていた。


 一方で、教会は「金持ち貴族のための組織」という認識が広まり、一般市民からの信頼を完全に失っていた。




 ある日、王都で大規模な火災が発生した。


「協会の皆様! どうか助けてください!」

「お願いです! 私たちの家が!」


 悲鳴と共に、市民たちが協会の本部に殺到した。私たちは協会のメンバー全員で即座に行動を開始し、消火活動と救助に全力を注いだ。


「落ち着いて行動を!」


 私は現場に到着するや否や、周囲の状況を素早く把握した。炎に包まれた建物が、何十件もある。一帯が炎に包まれている。逃げ惑う人々、そして至る所から聞こえる悲鳴。この混沌とした状況の中で、冷静さを保つことが何より重要だった。


「ナディーヌ!」


 私は声を上げた。


「避難誘導をお願い。危険な場所にいる人を安全な場所へ」

「了解しました」


 彼女は一瞬で理解し、何人かの部下を連れてすぐに行動を開始した。


「ジャメル、消火活動の指揮を取って。対処できる人員を効率的に配置して」

「了解」


 ジャメルは頷き、すぐに指示を出し始めた。


「エミリー、私と一緒に負傷者の治療にあたるわよ」

「はい、ノエラ様!」


 私たちは手分けして動き始めた。聖女の力を駆使して、負傷者を次々と治療していく。汗が滝のように流れ落ちる中、休む暇もなく作業を続けた。


 しかし、ふと気づいたことがあった。


「ジャメル」

「どうした?」


 私はジャメルを呼んで、小声で尋ねた。


「教会の人たちは来ていないの?」


 人手が足りない。対処できる人員が居ないのか。そう思って聞いてみた。だが彼は首を横に振って、答えた。


「奴らは来ていない。どうやら、自分たちの拠点を守ることを優先したそうだ」


 王都で危険なことが起きた場合、教会が対処するべきなのに。特に、こんな大きな火災が発生したら真っ先に対応するべきなはず。それを、自分たちの拠点を優先するなんて。


 もし本当なら、それは酷すぎる。でも今は、目の前の人々を助けることに集中しなければ。


「わかったわ。私たちにできることをやり続けましょう」


 そう言って、再び治療に専念した。かなり広がっていた火災の鎮圧には数時間以上要したが、最終的に大きな犠牲者を出すことなく収束させることができた。


 疲れ果てた私たちが協会に戻ると、そこには感謝の言葉を述べに来た市民たちが大勢いた。


「協会の皆様のおかげで助かりました」

「本当にありがとうございます!」


 彼らを助けることが出来て、本当に良かった。

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